彼女の裏側04

*安室さん視点

「安室さん、お待たせしました」

ポン、と軽く背中を叩かれて、振り向くと彼女がいた。2時間ほど前にいた女性はいなくて、どうやら彼女1人らしい。

「思ったより、早かったですね」
「折角のデートなのに、待たせるわけにもいきませんから」

にっこりと笑ってそう言った彼女は、どこか寂しげで。さっきの女性とのことを聞くことが、何故か躊躇われた。さっきの様子を見ても分かる通り、訳ありのようではあるが。

「さっきの女の子のこと、気になります?」
「え……すみません、顔に出てました?」
「なんとなく、ですかね。私なら、気になりますし」

そんなもんでしょう、人って。そう言いながら、彼女が笑う。ぽつりと、一言で言うのは、難しいけれど、なんてことを呟いた。やはり、ただの友人などではないらしい。

「私、すっごく飲みたい気分なんです。奢りますから、飲みませんか?」

 + + +

彼女に誘われて来た店は個室で、かつ騒々しくないその店は込み入った話をするには最適なのだろうか。何杯か飲んで酔い始めた頃、彼女がじっと自分の顔を見ていることに気付いた。

「僕の顔に、何かついてますか……?」
「んー……目が2つと鼻が一つの1つ、口が1つ」
「そういうことじゃないんですけど……」
「冗談だよ」

グラスに入ったお酒を飲み干して、テーブルに置く。何か注文しますか、と尋ねると、彼女はフルフルと首を横に振った。

「さっきの女の子、学生時代の恋人だった……なんて言ったらどうする?」
「恋人、ですか……。まぁ、いいんじゃないですか?性癖、って言ったら失礼ですけど、人それぞれですし」
「安室さんが、そういう人でよかった」

机に頬杖をついて、彼女が嬉しそうに笑う。どうやら、さっきの話はたとえ話、というわけでもないらしい。恐らくは、本当に恋人だったのだろう。ただ、あの雰囲気からして穏便に別れたわけではなさそうだが。

「安室さんはそういう昔の恋人の話とか無いわけ?」
「無いわけじゃないですけど、面白味も何もないですから」
「えー…なんか俺が変な恋愛してるみたいな感じじゃん。普通に生きてて、普通に恋してただけだよ」
「その相手が女性、ということは普通なんですか?」
「普通…だった、かな。うん、そのときは、普通だった」

酒が、回ってきているのだろうか。当時を思い出すように、彼女が言う。そして、彼女が鞄の中から何かを取り出す。折りたたまれていたそれは、2枚あるらしく、そのうちの1枚を僕へと差し出した。

「見ても、いいんですか?」
「ん。ただの、戸籍抄本だけど」

発行した日付から、少し経ってますけどね。そう言って渡されたそれを見れば、別になんてことのない普通の戸籍抄本だ。一通り見て彼女に視線を戻せば、彼女はもう1枚の紙を見ている。

「別に、普通の戸籍に見えますが…」
「そっちは、な。問題があるのは、こっち」

もう1枚の紙を、僕に差し出す。それも同じ戸籍抄本で、パッと見はさっきのものと同じに見える。日付が、少し古いぐらいに。けれど、一つだけ違ったことがあった。
それを見た瞬間、僕は思わず息を飲んだ。

掲載期間:2016.04.01〜2016.05.01