甘える、甘やかす

 
「コーヒー置いときますね」
「あぁ、すまない」

仕事が丁度一段落したとき、タイミング良く名前が声をかけながらコーヒーの入ったカップを置いた。たまたまなのか、それとも見計らっていたのだろうか。差し出されたカップを口に運びながらそんなことを考える。

「お仕事一息ついたんですか?」
「丁度、な」

じゃあ、休憩でもどうですか、と言って俺の隣に腰掛け、己の脚を叩く。それが何を示しているのかは分かっても、素直にはいそうですかと言うのも気が引ける。どうしたものかと考えていると、名前が不思議そうに首を傾げた。

「膝枕とかどうかなって、思ったんですけど…」
「脚が疲れるだろう」
「ろくに寝ないでずっとパソコンと睨めっこな秀一さんよりはマシですよ」

さぁほら遠慮せずに!とバンバンと脚を叩く名前。何をそんなに期待するように言っているのか、と思いつつもろくに寝ていないのは確かだ。小さく息を吐きながら、名前に甘えるように脚を枕にするようにして転がる。
恐る恐る俺の頭に触れる手が、徐々に心地よく撫でてくる。

「お仕事、お疲れ様です」
「…あぁ」

一定のリズムで頭を撫でられる動きに、思いの外疲れていた俺の身体は意識を手放した。

 + + +

「っ……」
「…あ、起きました?」
「名前、」

ずっと、手を動かしていたのだろうか。眠りから覚めても名前の手は動いていて、俺の頭を撫で続けていた。時間を確認しようと身動げば、もう夕方ですよ、という声が上から返ってきた。結構な時間寝ていたらしく、脚が疲れたのではないかと思い身体を動かそうとするも、お見通しなのか脚は平気ですよと言われた。

「秀一さん、」

頭を撫でる手を止めて、名前が俺の名前を呼ぶ。その声に彼女を見上げれば、それと同時に名前の顔で視界が埋まる。何が起こったのか、と思うよりも先に彼女の顔が離れて恥ずかしそうに頬を染めて笑う姿を見て、キスされたのかと気付く。
名前からしてくるのは珍しい、と思うのと同時に、やはり照れくさかったのか両手で赤くなった頬を抑えて恥ずかしそうにしている。

「名前」

転がっているソファーに肘をつきながら名前の名前を呼べば、頬を抑えたまま下を向く。自身の口角が上がるのを感じながらそのまま上体を少しだけ起こして名前にキスをした。軽く触れるだけのそれをされると思っていなかったのか、名前の頬はより赤くなる。

「…珍しいな、俺を甘やかすのは」
「秀一さんお仕事忙しそうだったんで…。嫌、ですか?」

子犬を連想させるような表情に、口角を上げながら身体を起こす。そのまま名前の隣に座り彼女を引き寄せて自身の膝の上に座らせる。そのまま額にキスをしてやれば、お返しと言わんばかりに頬にキスを返された。

「たまには、こういうのも良いかもしれんな」

彼女のことは、後で甘やかすことにしよう。