赤、朱、赫

 
「何そのキスマーク」
「あ?」

ベッドに腰掛けて煙草をすう男に、私が尋ねる。彼の首筋には、私のつけた覚えのないキスマーク。またどこかで女を引っ掛けて遊んできたのだろうか。どこで何人女を作ろうが、彼の勝手なのだけれど。

「上から付け直してもいい?」
「……好きにしろ」

言葉では適当にあしらうくせに素直に身体をこちらに向けてくる辺り、私が他の女とは違うと思ってもいいのだろうか。一応恋人ではある以上、特別だとは思いたいけれどもこの男は都合がいいから傍に置いている可能性だって十分考えられるのだ。
噛み付くように彼の首元にキスをして、他の女が付けたであろうソレの上から強く吸う。刹那、ジンが誘うように私の背筋を指でなぞる。

「っ…今、したばかりじゃない」
「テメェも、人のこと言えねぇだろうが」

覆いかぶさるようにベッドに押し倒されて、ジンを見上げようとするやいなやすぐに転がされてうつ伏せにされる。こういうことだけは妙に器用だと思いつつ、振り向くようにしてジンを見れば私の背中に無数につけられたキスマークの上に自分のものだと主張するように噛み付いた。
さっきの情事でも一切見せなかった背中は、ジンがつけたものではなかった。他の誰かがつけたのだろう。

「ちょ、っと…ジン、っ…」
「………うるせぇ」

ガリッと身体をかじるような音が響いた。それは紛れも無く私の身体で、背中が痛むのを感じる。ジンは、私がしたように自分以外がつけたソレを的確に上書きしていく。ただ違うのは、彼の上書きは噛み付くことだということだろうか。

「誰がつけた」
「さぁ?ジン以外の男とするときは後ろからしかさせないもの」

私自身が特別後ろからされることを好むわけではない。ただ、快楽に溺れる顔をこの男の前以外では見せたくないだけだ。正直な話、私自身は自分が上になるような体位が好きなのだけれど。
そんなことを考えていると、血が出るんじゃないだろうかと言うぐらいに強く噛み付かれる。

「ちょっと…痛いのは好きじゃないんだけど」
「誰に付けられたか、心当たりのある奴は全部言え」
「そうねぇ……」

ここまで執着してくるのも珍しい。でも言わないで死ぬようなことにはなりなくない。私はまだ死にたくはない。
ジンがその相手を撃ち殺さなければいいのだけれど、と思いつつ最近こういう行為をしたのが誰だったかを思い浮かべながら、その中でも痕をつけてきそうな人を考える。
組織と繋がりのあるお偉いさんのジジィ共は、一切付けないように言っているからその辺りは大丈夫だろう。もし付けたら脳天に風穴を開けると脅してある。

「……あぁ、最近だったらバーボンつまみ食いしたわね」
「何……?」
「久しぶりに拳銃で人殺したら興奮しちゃって。そのときジンいなかったし…って痛い!痛いから!」

嫌がらせのごとくジンは後ろから私の首筋に噛み付く。自分も他の女から痕をつけてくるのに私が付けてくるのは嫌がるというのはどういうことなのか。
痛くさえしないのなら好きにしてくれ、と言わんばかりに抵抗を止めれば、腕を掴んでいた手は離され代わりにその手は私の身体を弄る。

「ちょっ…と、今日、は…ん、」
「こっちは、そうでもないみたいだがな」

胸も殆ど触らずに、容赦なく私の弱いところを攻め立てる。ジンに抱かれ慣れたこの身体は、教えこまれたように従順に反応をする。けれど、達しそうになると動きを止めて、少ししたらまた動かして。与えられる快楽にゾクゾクとしながらジンを見るように振り向けば、その男は楽しげに口角を上げている。

「はっ…ん、待って、向き…変えたい」

ジンの手を押しのけて、向かい合うように身体の向きを変える。そのまま彼の首へと腕を回せば、腰を掴んで持ち上げられて彼の上に座らされる。

「お前は、こっちの方がいいんだろうが」
「……よくお分かりで」

甘えるように再度首に腕を回して密着するように抱きつけば返されるのは噛み付くようなキス。それを受け入れるように、私は彼へと舌を差し出す。
私がキスマークを付けられるのを嫌がるのも、自分はわざとらしくつけてくることも、理由はわかっている。けれど、私はそれに気付かぬフリをして彼を受け入れる。彼を、私に縛り付けるかのように。
甘い声で鳴きながら、猫のように笑う為に。