2人足す1人

 
「まだ、少し体温が高いな」
「そうかなー…。あ、でも秀一さんの手が気持ちいいかも」

玄関に立つ私の額に手を当てて、体温を計る秀一さん。その手はひんやりとしていて気持ちいいものがある。
ここ数日間、妙に私の体温が高い。最初に気付いたのは秀一さんで、寒気等があるわけではなかったから私自身気付いていなかったのだ。

「食欲は?」
「普通かな?朝ごはんも全部食べたしね。強いていうなら眠いです」
「じゃあもう寝てろ」

くしゃりと頭を撫でられて、その手が頬に当てられる。確かに秀一さんの扶養の身である私は寝ていても問題は無いのだけれど人としてちょっと考えるものがある。病院に行ったほうがいいのかもしれないけれど、何せアメリカは医療費が高い。

「あまり、無理はするなよ」
「秀一さんのお仕事ほどじゃないから大丈夫だよ」
「仕事は、な…」

秀一さんが苦笑いを浮かべる。工藤君たちと組織を追っていたとき程ではないかもしれないけれど、中々危なっかしいものがある。日本に比べて治安が悪い、というのもあるのかもしれないけれど。

「ホントに危なかったらちゃんと病院にも行ってくるから。ね?」
「あぁ。…行ってくる」
「ん、行ってらっしゃい」

触れるだけのキスをして、秀一さんがお仕事に行く。恋人同士だった頃に比べて、額より口にキスをされることが多いのは気のせいだろうか。大事には、されている実感はあるのだけれど。
高校生の頃は多少無茶してもなんともなかったのに身体が弱くなったのだろうか。そんなことを考えながらキッチンに立って片付けを始める。

(工藤君たち、元気かなぁ……)

さすがに高校だけは卒業していた方がいいだろう、とのことで高校生の間は日本にいたけれど殆ど卒業と同時にアメリカに来た。……来た、というよりは嫁いだ、という感じなのだけれど。
優作さんや有希子さんは距離はあるけれど同じ国内ということで会うこともある。有希子さんが娘が出来るのが楽しみよねぇなんて言っていたから日本で元気にはしているのだろうけれど。
久しぶりに日本に行ってもいいな、と思ってカレンダーに視線を移す。

(…………あれ?)

今日の日付を見て、首を傾げる。最後に生理になったのはいつだっただろうか。予定日から来ないなぁとは思っていたけれど、そのままになっていたことをふいに思い出す。

(妊娠検査薬……いや、病院の方が確実…)

ソレに気付いた瞬間、一気に血の気が引いた気がした。お腹を抑えて、その場にしゃがみ込む。
堕ろせ、なんて言う人ではない。むしろ秀一さんの子ども産みたい、って言ったときにどうせなら男と女両方がいいな、って言われたからむしろそれは無い。
もし妊娠していたとしたら、食べたものとか…当たり前だけど、夫婦だし夜に仲良くすることだってあるわけで。ちょっと、激しいこととかだってするわけで。

「病院、行っておこうかな……」

もし遅れてるだけなら遅れてるだけでもいい。不安をそのままにしている方が怖い。昼から病院に行くべく、荷物をまとめることにした。

 + + +

(まぁ、そうですよね…)

あの組織といよいよっていうときにゴタゴタしているときも予定日から数日遅れたり早まったりすることはあったけれど数ヶ月単位で遅れることはなかった。そんな私がこれだけ遅れたのだ。遅れるとしたらそれこそ妊娠か病気といったところだろう。…今回は、前者だったのだけれど。
やはりアメリカ、というべきなのだろうか。日本だと自治体で母子手帳発行とかあったような気がするのだけれどアメリカだとそういうものが無いらしい。日本のシステムも縁があったわけではないからそれが正しいのかも分からないが。
とりあえずは妊娠二ヶ月に入っている、ということでいつつわりが起きてもおかしくないということ。二ヶ月でつわりがあるのか、と思ったらどうやら妊娠期間を九ヶ月で計算して最初の一ヶ月目と最後の九ヶ月目を6週間として数えるのだとか。ちなみに初期の流産しやすい時期は乗り越えているから大丈夫、と。

(秀一さん帰ってきたら伝えて……)

喜んで、くれるといいのだけれど。そう思いながら家の扉を開ける。今のところつわりというつわりはないから家事に支障は無い。

「病院で、何か言われたか?」
「え」
「携帯も鳴らしたんだがな」
「嘘!?」

何故か帰ると家にいた秀一さん。慌てて鞄の中から携帯と取り出せば、何回か着信履歴が残っていた。病院に行く為家を出るときに音を消したことを伝えて謝れば、フッと笑って頭を撫でられた。

「それで、どうだったんだ?」
「えっと、ですね…」

なんと言っていいか分からずに、ちょっとだけ恥ずかしくて、秀一さんに抱き着いた。ぐりぐりと頭を胸元に押し付けていると、落ち着かせるように背中を規則正しくポンポンと叩かれる。

「……赤ちゃん、」
「っ、」
「産んでも、いい…?」

私の言葉に、一瞬だけ秀一さんの動きが止まる。けれど、すぐに頭を撫でながらもう片方の手で腰を引き寄せられる。

「…俺で、いいのか」
「嫌なら、結婚してないよ」

そうだな、と秀一さんが小さく言ってキスをされる。角度を変えて数回された後、秀一さんが跪いて私のお腹に額を当てる。

「ここに、いるんだな」
「うん。二ヶ月で、流産しやすい時期は過ぎてるって」
「あと、七ヶ月か」

秀一さんが幸せそうに笑うのが分かった。その表情に、私も頬が緩む。

「ねぇ秀一さん。私、幸せですよ」
「…あぁ、俺もだ」

二人で顔を合わせて、笑いあった。