憂鬱な夜に期待

 
「いいんですか?こんなところで僕と会っていて」
「職場の人間にプライベートまでとやかく言われたくないわね」

仕事中の私が貴方に会っても知らぬ存ぜぬを突き通すけれど。そう言って、私はソファーに座る彼の足の間に自身の膝を付いた。近いけれど、若干空いている距離にもどかしさを感じたのだろうか。彼が私の腰を引き寄せて胸へと顔を埋める。

「するの?」
「僕はどちらでも。別に飢えているわけではありませんので我慢ぐらいはできますよ」
「そう」

零の肩に手を付いて、額にキスをする。
私はFBIで、彼は公安。最初に会ったときはお互いがお互いの素性なんて知らなかった。溺れた頃には、すべてが遅すぎたんだ。同じ組織を追い求めているのに、決して協力し合えることは無い仲。

「するなら、ベッドに行きたいんだけど」
「…わかりました」

慣れた手つきで私のことを横抱きにして立ち上がる。そのままキスをされて、私は腕を彼の首へとまわす。もう見慣れてしまった彼の寝室へとたどり着いて、ベッドに横にさせられた。視界に入るのは、天井と、私に覆い被さる彼だけ。

「我慢できるって、言ったくせに」
「あれ、嫌でした?」
「どっちでも」
「それが一番困るんですけど」

苦笑いをしながら、彼は私の服に手をかけてはだけた胸元にキスをしていく。痕を残していくのを見ながら、私も同じように彼の服に手をかけてはだけさせる。
童顔なのに意外に筋肉質で、初めて彼に抱かれたときはとてもアンバランスだと思ったものだ。仕事上、それなりに鍛えておかなければならないのだろうけれど。
服の上から触れていた手が、徐々に服の中へと移動していく。彼の動きに合わせるように、私の口からは甘い声が漏れる。

「案外、乗り気じゃないですか」
「んっ……零が、触るから…」
「そうですね。僕が、育てたようなものですし」

含みのある笑いを浮かべて、彼の手が上から下へと移動する。焦らすように、内腿に触れる。そのとき。

「………あ」
「……名前…」

部屋に響く、携帯のバイブ音。先に声を漏らしたのは、私。零は、呆れたように私の名前を呼んだ。はだけた服はそのままに身体を起こして携帯を手に取れば、職場の人間からの電話だった。今ここで私を襲っていた男が嫌いな男なので名前は出さない方がいいだろう。既にお預け状態になってしまっていることだし。
用件を聞けば当たり前ではあるが仕事のことで。お預けが気に食わないのか私のお腹辺りに抱き着くようにして顔を埋めている。彼の頭を撫でてやれば、チラリとこちらを見られた。どっちが年上なのか、と内心呆れつつも続きをしたいであろう彼の頭を撫で続ける。携帯から人の声ではなく無機質な機械音に変わったのを確認して、彼の名前を呼ぶ。パッと顔を上げた彼に軽く触れるだけのキスをして、私はベッドから抜け出す。

「そのまま、1時間お預けね」

ちょっと呼ばれたから行ってくる。はだけた服を整えながら彼にそう言えば、一瞬捨てられた子犬みたいな顔を見せたので思わず口角を上げた。