一方通行、立入禁止

 
「…何を、考えているんですか」

雨の降る外を眺めている私に、エプロンを付けている安室さんが声をかけた。手には私の注文したパスタがトレイの上に置かれているから、それを持ってきたのだろう。

「安室さんは、赤井さんのこといつまで探るのかなと」

愛想笑いさえもせずに、安室さんを見上げる。彼は一瞬驚いたような顔を見せて、けれどもすぐに愛想笑いを浮かべて持ってきたパスタをテーブルの上に置いた。

「あと10分で仕事が終わります。その質問の答えは、それからでも?」

愛想笑いを止めて、低めの口調で問われる。お好きなように、とだけ返せば、それではまた、と言われて軽く頭を下げられる。
彼が戻って来るまであと10分。私は出されたパスタに手をつけた。

 + + +

「すみません、おまたせしました」
「……別に、急がなくてもいいですよ」

彼が再び席に戻ってきたのは、アレから30分後のことだった。パスタは食べ終えて、今は追加注文したケーキが運ばれてくるのを待っているところだ。

「コーヒーか何か頼んだらどうですか?」
「そう思って、もう注文だけしてます」

してるのか、と思ってしまうのはこの男が相手だからだろうか。知っていたとはいえ、やはり裏表があるこの男はイマイチ好きになれなかった。
秀一さんの姿で街中を歩いてみたり、それとなく情報を聞き出そうとしているのが分かる。秀一さんが生きているのか、彼は確認をして回っている。

「どうして、僕が彼のことを探っていると?」
「それとなく、聞いてきたのは貴方じゃないですか」
「……気付いていたんですね」

思ってた通り、勘のいい人だ。そんなことを言いながら、目の前の彼は笑みを浮かべる。ミステリートレインで真純に秀一さんの姿で接触して、確証を得る。それまでは、きっと私が言ったところで確証ではないのだろう。私と秀一さんの距離は、あまりにも近過ぎたから。それでも、聞くに越したことはないということなのだろうか。

「どうして、秀一さんの姿をわざわざ?」
「……そういうことを聞くということは、知っているんですか。彼が、どうなったのかを」
「仕事中に亡くなった、と…。FBIの人から聞きました」

ジョディさんが私にそう告げなければならなかったとき、彼女はどんな気持ちだったのだろうか。真実を告げなければならないけれど、それは、あまりにも残酷だったように思える。いっそ、ジェイムズさんが報告をしてくれればよかったのに、と思ってしまった。
これも、人を騙すなら身内から、ということに基づいてなのだろうけれど。

「まさか気付くとは思わなかったんですが…言うならば、あまりにも、上手く出来事が進んでいるからですかね」
「…そう、ですか」

まだ少し先の話にはなるだろうけれど、きっと彼は動く。沖矢昴が、赤井秀一であることを確かめるために。楠田の死がベルモットに伝われば、それはすぐに動き出す。
そのとき、きっと彼は私を狙う。赤井秀一が傍に置いていた、私を。

「貴方も、妙だとは思いませんでした?あの赤井秀一が、殺されるかもしれないというのに何の対策も無しに来葉峠に向かうなんて…」
「彼らしくない、といえばそうかもしれません。でも、もしどこかで生きていてくれるならそれでもいいんです」
「…会いたいとは、思わないんですか」

もしこの世界の未来を知らなくて、私が秀一さんが生きていることを知らないとして。どこかで、彼が生きているのだとしたら。それはきっと秀一さんは私を考えてのことなのだと思う。よっぽど危険から遠ざけたいのだと。

「信じてるから。秀一さんのこと」

驚いたような、安室さんの顔。きっと、こんな答えが返ってくるなんて想像していなかったのだろう。
未だに雨が降り続ける外を見て、見覚えのある人影が遠くに見えて笑みを浮かべた。

「僕なら、そんな顔はさせない」
「え?」
「故人を想い続けるよりも、貴方はもっと周りに目を向けるべきだ」

真剣に私を見る彼を見て、少し呆れて息を吐く。見てないのはどっちなんだ、と思うもそれは言わないでおいた。
恐らく、何も知らない人からすれば今の私は沖矢さんの恋人に見えるのだろう。それを、彼は知らないとでもいうのだろうか。
目の前の彼が私のことをどうしたいのかは分からないけれど、恐らくそれは利用することなのではないのだろうか。FBIと警察の両方に繋がっている私は上手いこと引き込めば情報を提示してくれると、思っているのだろう。

「……もっと周りを、ですか」
「気付いてないわけでは、ないでしょう」

好意をちらつかせて、その先で利用されると分かっているのにどうしてその手を取らなければならないのか。
ふいに雨の降りやまない外を見れば、そこには見覚えのある人影。その姿を見て小さく頬を緩ませながら一言謝罪をして立ち上がる。

「迎えが、来たようなので。私の注文してたケーキ、食べてください」

財布から自分が注文した分の金額より少し多めのお金を置いて安室さんに向けて小さく笑みを浮かべる。一瞬彼が何かを言おうとしたけれど、聞こえなかったフリをして少しだけ驚いた様子でこっちを見ていた梓さんに軽く会釈をして外に出る。
私は丁度店のすぐ外にいた彼と視線が合って、頬を緩めた。

「お迎え、来てくれたんですね?」
「傘を忘れた、と言われたら来るしかないでしょう」
「じゃあ今度は傘あっても呼んでみますね」
「おや、それは試されているんですかね」

くしゃりと私の頭を撫でて、沖矢さんは傘を広げる。小さく口角を上げた彼の腕を掴めば、一瞬だけ驚いたように動きを止めたけれどすぐに歩き始める。

「…あんまり変なことにかかわるなよ」
「言われなくても、秀一さんしか見えていませんよ」

雨音が声を消してくれるからだろうか。一度だけ変声機のスイッチを切って言われた言葉の意図に頬を緩めながら、彼に寄り添った。