助けを呼んでも誰も来ない

 
「名前は、どれがいい?」
「んー…そっちの黄緑かな」
「コレな、ハイ」

己の脚の間に私を座らせた真純が、ティースタンドに載せられたマカロンを私の口に運ぶ。随分と甘やかされているのは、気のせいなのだろうか。
これ見よがしに、秀一さんの前で。

(…あ、ため息ついた)

私と真純が座る二人がけのソファーより少し離れた場所にある椅子に座った秀一さんがため息をつく。ちらりとマカロンを頬張りながら真純を見るも、彼女は気にした様子も無くティースタンドに載せられていたスコーンを食べている。

「…何でお前が来るんだ」
「そこに名前がいるからだよ」
「名前は俺のだが」
「結婚はしてないだろ?」

それに結婚なんて紙切れ一枚の契約だしな、なんて言うのは彼女の性格なのだろうか。女同士だって日本じゃなければ結婚出来る、とか言ったのが聞こえた気がするけれど、聞こえなかったフリをしておく。うん、マカロン美味しい。
日本だと同性婚は認められていないからいくら本人同士がパートナーと決めていても相手に何かあったときは中々不便だろう。病院で身内以外の面会謝絶状態では入れないし、2人で建てた家だって実際共有の財産が認められないが故にどちらかの財産になる。そしてその持ち主がなくなれば相続権が無いパートナーではなくたとえ絶縁していようとも戸籍上相続する者に相続されてしまうのだ。
そもそも女同士は知らないが男同士というのはそれこそ昔から日本にあったのだからある意味文化とも言えるソレを否定するのはどうなのだろうか。

「名前?」
「…あ、ゴメン。同性婚について考えてた」
「僕としてくれるのか?」
「秀一さんにフラれたら考えとく」
「先に言っておくが予定はない」

一瞬私の後ろで真純が期待したように声をかけるも、それは秀一さんにすぐに否定された。今のところ私から秀一さんをフる予定は無いし、秀一さんからもフラれる予定が無いということに頬を緩める。

「名前、顔緩んでる」
「えー…」

顔を覗き込んだ真純が、少し拗ねたように言う。真純に寄り掛かるようにしてひたすらティースタンドに乗っているお菓子を食べていると、ふいに秀一さんが私と真純が座るソファーの肘置きに腰を掛けた。

「名前」

子どもを呼ぶような声色で、秀一さんが私の名を呼ぶ。とりあえず呼ばれたことだし、と真純に寄り掛かる身体を起こして秀一さんの元へ行こうとするも真純に腕を掴まれて阻止される。呆れたような声で秀一さんが真純の名を呼べばその手は渋々と離され、私は秀一さんの隣に座った。が、その場所が気に食わなかったのだろうか。秀一さんは軽々と私を抱え上げて自身の体とは横向きに私を座らせた。

「そういえば名前、ずっと気になってたことがあるんだ」
「うん?」
「秀兄のどこを好きになったんだ?」

真純の言葉に、秀一さんと私の動きが止まった。
暫く間を開けて先に動いたのは秀一さんで、私の身体を引き寄せた。真純の方を見れば笑顔を浮かべていて、こういうちょっと意地悪なところはこの兄弟本当によく似ていると思う。真純の場合は、意図的ではないのかもしれないけれど。
しっかりと秀一さんに抱かれているところを見ると、彼も逃がすつもりはないのだろう。真純から見えないように秀一さんの胸元に顔を埋めれば、秀一さんに頭を撫でられた。

「なんでいきなりそんなこと…」
「前から気になってたんだけど、駄目か?」
「出来ることなら遠慮したい……」

せめて本人がいないときに、と言えば真純はじゃあ次会うときは二人で会おうなんて言っている。コレはアレですね、そのときに言えと言っているんですね。
秀一さんはどうせ私から聞き出そうと思えばいつでも聞き出せると思ったのか、腕の中から逃がすつもりはないみたいだけれど質問には無関心に見える。
さすがに無理矢理問いただすようなことはしないらしく、真純は質問に対しては諦めたようだけれど座っていた場所から四つんばいで私の方へと近付いてくる。

「名前、」

真純に呼ばれて振り向けば、横からスッ、と手が出てきてそのまま頬に手を置かれたと思うのと同時に反対の頬に温かい感触と、リップ音。八重歯を見せながらしてやったり、みたいな顔をする真純と反対に、秀一さんを見上げれば面白くなさそうな秀一さんの顔。それと同時に秀一さんに引き寄せられて、首筋にキスをされる。

「答えは、夜にでも聞かせてもらおうか」

私にだけ聞こえるようにボソリと呟かれた言葉に、私の肩がビクリと揺れる。フッ、とそのまま笑ってすんなりと私から離れる。
目の前で自身の兄が同い年の恋人に手を出していて面白いのだろうか。真純が楽しげにヒュウと口笛を鳴らしていることに気付いた。

「秀兄、ホントに名前が好きなんだな」
「そうじゃなきゃ、イタズラに未成年に手は出さん」

自身の胸に私の顔を埋めさせるように、秀一さんが私を引き寄せる。世良さんが帰った後どうなるのかを考えながら、秀一さんの服を掴んだ。