寒空の下で

 
「コナン君、私寒いんだけど」
「……で?」
「コナン君は、子供体温だよね」
「…否定はしねぇな」
「お願いですカイロにさせてください」
「嫌だ」

病院の廊下って妙に肌寒い。隣で同じ椅子に腰かけるコナン君を膝に抱えて暖を取ろうと試みたけれど、あっけなくコナン君に却下されて終わった。寒いとどうしても少しばかりひと肌恋しいというか、あると思うけれど。
毛利さんには言わないから、と言ってみたけれど凄い勢いで睨まれたのでそれ以上は何も言わないでおく。

「人で暖取りたいなら赤井さんのところにでも行けばいいだろ…」
「さすがに仕事の邪魔はしたくないじゃない?」

最近構ってくれなくてつまんないこともあるけど、と半ば意地になっていることを言えば苦笑いをされた。どうしても水無さんのことで忙しいのだろう。最近では数日会わないということも多い。

「オメー、あんまりうろつくなって言われてただろ」
「まぁねー。でも、やっぱり好きな人とは少しでも多く一緒にいたいじゃない?」

もうすぐ、いなくなっちゃうから。私がそう言えば、コナン君は気まずそうに私から視線を逸らして小さく謝罪を述べた。別に、コナン君が悪いわけじゃないよ。コナン君が言わなかったら私が提案してたと思うし。そう言いながら、私は視線を足元へと落とす。
もう何日もしない間に秀一さんはいなくなる。一時的とはいえ、やっぱり恋人という立場にいる私からすれば寂しいものだ。愛する人が、いなくなるというのは。

(作戦の話が出たとき、何度も謝られたっけ……)

秀一さんは、残される悲しさを知っているからなのだろうか。秀一さんの死が偽装であるとは知っていても、表向きは知らない風に過ごさなければならない。勿論秀一さんに会うことだって出来なくなる。ツラい役目をさせる、と何度も謝罪をされた。

「いよいよ寂しくなったらコナン君と浮気しようかなー」
「オイ」
「冗談だよ。あ、でも工藤君とコナン君が分裂したら本気で考えるかも」

何を言っているんだ、という目で見られたような気がするけれど、笑って誤魔化しておく。恋人には秀一さんがいるから、入れるなら弟枠だろうか。

「名前、」

聞きなれた低温で振り向けば、仕事が落ち着いたのだろうか、秀一さんが立っていた。若干ピリピリしているような気がするのは、私の気のせいなのか。
少しいいか、と尋ねられたのでコナン君に行ってくるね、と言って私は秀一さんの傍に向かう。するりと手を取られて、そのまま歩き始めた秀一さんに私は引っ張られるようにして秀一さんの後を追う。

「どこ、行くんですか?」
「……屋上、だな」

この寒い時期に好き好んで外に出る人はほとんどいないし、盗聴器を仕掛けられそうな場所もほとんど無い。人払いには持って来いなところだ。仕事の話で使うこともあるけれど、私と秀一さんは主に2人で話したいときとかに使うことが多い。
病院の廊下を歩いて、階段と続いて屋上に出れば外は廊下よりもさらに寒くて、思わず自分の身体を抱くように腕をさする。音を立てて屋上の扉が閉まると同時に私は秀一さんに腕を引かれて、彼の腕の中に閉じ込められると同時に口を塞がれる。後頭部を抑えつけて、逃がさないように抱きしめて、深く、深く。
秀一さんの急な行動にぎゅっと彼の服を掴む。絶え間なく絡められる舌に生理的な涙が頬を伝った。

(息、苦し……)

呼吸をする間も与えずにされる深いキスに、頭がクラクラとする。それを見かねてか一瞬秀一さんが離れて、私が息を吸うのとほぼ同時にまた塞がれた。呼吸が苦しくなると角度を変えて、また塞いで。
どれほど、そうしていたのだろうか。離れた私と秀一さんの間を銀の糸が伝う。

「…すまない、」

苦しくて、私の身体は秀一さんの身体へと寄り掛かる。秀一さんは私を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。私も、謝罪の言葉を聞きながら甘えるように秀一さんの背に腕を回した。

「息、止まるかと思いました……」
「ダメだな…。変装をしたら、あぁやって他の男と話しているのを間近で見ることになるのか」
「男って…相手は小学生じゃないですか」

お前が、浮気をするだなんて言うからだ。そう言いながら、私の呼吸を落ち着かせるようにポンポンと優しく背中を叩く。私は、秀一さんしか見ていないというのに。
秀一さんがいなくなれば、こうして甘えることも、キスをすることも叶わなくなる。身体を繋げることだって。

「ねぇ秀一さん」
「なんだ?」
「いなくなる前に、いっぱい愛してくださいね?」

彼の腕の中からちらりと見上げながらそう言えば、フッと笑う。ちゅ、とわざとらしく音を立てながらいくらでも愛してやる、とい言葉に私は頬を緩めた。

2015.07.19