黄色い花弁を見た気がした
「あれ、苗字さんも買い物?」
「え?」
本屋さんで突然かけられた声。聞き覚えのあるソレは、クラスメイトのものだった。あまり話したことはないけれど、クラスでもよく中心にいてとても明るい人だと思ったことがある。
「参考書か何か買いに来たの?」
「ううん、ただの趣味の本だよ」
「へぇ、意外」
意外、と言う彼の言葉に、首を傾げる。成績がいいからもう勉強が趣味みたいな感じなのかなって、と言われたので苦笑いをしておく。高校生活2回目にもなると勉強に余裕が出来るのは仕方が無いだろう。むしろ1回目のときよりも趣味やら何やらに没頭していると言える。
「勉強は、要点掴めばそんなに難しくないから」
「言ってみたいなぁ、そんな言葉」
俺、勉強苦手だし。そういって彼は苦笑いを浮かべた。そのとき、彼が何かを思いついたように携帯を取り出した。
「ねぇ、授業で分からなかったところとか聞きたいしさ、連絡先教えてよ」
通信アプリとかの方でもいいし、と言われて、まぁその程度なら別に帝丹高校に通う生徒の1人だし主要メンバーでも何でもないしと思い了承して携帯を取り出す。
…秀一さんの連絡先を初めとして真純やジョディさん、ジェイムズさんとかも入ってはいるけれどソレはこの際気にしないこととしておく。あ、総司と服部君も入ってる。渋々連絡先を交換した工藤君とかも。
「アプリの方の画面出すから……あ、ごめんね、電話」
「あぁ、いいよ取って」
にこやかに取っていいよ、と言われたので有難く着信に出る。聞きなれた低い声に頬を緩ませて、居場所を聞かれて今いる場所を告げる。どうやら聞くところによると本屋の外に秀一さんはいるらしく、本屋に似た姿を見かけたから声をかけたらしい。
買い物が終わるまで外にいる、と言われて切られたので拾ってくれるらしい。
「ごめんね、お迎え来たみたいだから…」
「んー。気を付けて」
連絡先明日教えるね、と彼に告げて、秀一さんのもとへ小走りで向かった。
+ + +
パタパタと走って店の外へと出た苗字さんを見て、息を吐く。電話に出て声を聴いた彼女の顔が緩んだのは、それだけ気を許している相手なのだろうか。もっと真面目な人かと思っていただけに意外だった。学校ではわりと1人を好んでいるように見えたのに。
本屋の外に見えた彼女を、つい視線で追う。苗字さんが向かった先にいたのは男の人で、20代…後半ぐらいだろうか。
(うわっ……)
先に言っておくなら、別に連絡先を聞いておくことに下心があったわけではない。ただのクラスメイトとして、仲良くなりたいと思っただけだ。
別に見たからと言って傷つくわけでもなんでもないけれど外でそれはどうなのか、と言いたい。多分位置的に額かそこらではあるだろうけれど、路チューはどうなんだ。若気の至りが通じる年齢でもないんじゃないか。
「恋人、なのかねぇ……」
随分と、年が離れているような気がするけれど。でも考えてみれば苗字さん大人っぽいし案外合うのかも。仲睦まじそうに見える2人を見ながらそんなことを思っていると、ふいに感じた視線。
(げっ……)
外からのソレは、恐らくはクラスメイトの恋人であろう男からで。人でも殺せるんじゃないかっていうような視線を俺に向けて彼女の手を引いてどこかへ行った。
多分、俺が彼女と連絡先を交換しようとしたのを見て電話をしたのではなかろうか。挙句見せつけるかのようにイチャついて、威嚇するように睨んで来たと。生憎俺にはそんな下心が無いというのに。
(あ、でも確か人気はあるよな……)
まぁアレだけ威嚇されて手を出そうなんて馬鹿げたことを考えることも少ないだろう。1回校門前で待ち伏せでもして自己主張すれば近付く輩も減るだろうに。小さく息を吐いて、買いに来た本を探すためようやく足を動かした。