にゃんにゃんにゃん

 
人が行き交う中、ベンチの傍でお腹を見せてくる猫をしゃがみながら撫でる彼を見つけた。通信アプリで呼び出しても気付かないのは、ベンチに携帯を置き去りだからだろう。私に背を向けて猫と戯れる彼を見て小さく息を吐いて、その頭を軽く叩いた。

「携帯使わないなら意味ないんだけど」
「あ、おったんや」
「今来たとこ。いつからいたの?」
「んー…5分ぐらい前やろうなぁ。コイツと遊んどったし、気にせんでええよ」

軽い衝撃に顔を上げた総司は、あまり気にした様子もなく猫を撫で続ける。ゴロゴロと喉を鳴らす猫は私に気付くとみゃうん、と一声鳴いて撫でろというようにお腹を見せる。そんな簡単にお腹を見せていいのか、野良猫よ。

「猫、好きなの?」
「動物は大体なんでも好きやで。よっぽど変なんは無理やけど」
「猫カフェ、行く?」
「あるん?」
「まぁ、私の知ってるところでいいなら」

こっちの方案内してくれん?と総司に言われたものの、実際私はここの出身じゃないからちょっとどこを案内しようかと悩んでいたのも事実。どうやら猫カフェにそそられたようで、とりあえずはそこを案内することになりそうだ。
最後にもう一度、と言うように総司が猫を撫でれば、私たちが行こうとしてることを察したのか起き上がって一度すり寄ってにゃうん、と鳴いて去って行った。

 + + +

「どうしよう連れて帰りたい」
「それやったら犯罪やろ」

総司を連れてやってきた猫カフェ。1人で行くのも躊躇いがあるし、秀一さんはまず付き合ってはくれないだろうということで知っていても来ることが出来なかった店だ。
中にいざ入ってみると猫の種類が多く、いろんなコが至る所でくつろいでいる。

「あ、コイツ耳垂れとる」
「耳垂れ可愛いよねぇ…。あ、じゃれた」

キャットタワーの上にいたコに向けて猫じゃらしを振って見せれば、少し様子を伺いつつじゃれついてくる。ずっと家に動物がいなかっただけに懐かしい感覚に頬を緩ませながら、猫の本能を弄ぶ。

「なぁ、なんか豹みたいなのおるんやけど」
「あー…ベンガル?」

私が遊んでいる猫がいる場所よりもさらに上の場所から、獲物を見定めるようにこちらを見ている猫。ゆらゆらと尻尾を動かしながらこちらを見下ろしている猫は豹のような独特の柄をしていて、その種類はベンガルで間違いないだろう。
なんか喧嘩売っとるみたいやな、と総司が言いながら私が揺らしていた猫じゃらしを取る。どうするのかと思いきやそれをベンガルに向けて振ってみるも、猫は無反応で。ちらり、と猫じゃらしを見た後に揺れるそれに向かってぽすん、と手を出した。その目つきは、どうにも義理で手を出したようにしか見えない。

「そのコ、もうあんまり猫じゃらしで遊んでくれないんですよー」
「そうなんですか?」
「もう10歳だし、仕方が無いのかもしれないんですけどね」
「10歳…」

カフェのお姉さんに言われて、若干意地になって猫じゃらしを振る総司で遊ぶように義理でじゃれるベンガルを見る。どうやらこのカフェにいるコたちの年齢は様々らしく、それによってまた違いを見せているのだとか。

(猫で10歳なら、人間で50〜60歳ぐらいかなぁ…)

そう考えると、渋々相手をしているこの猫と総司は祖父母と孫みたいなものだろうか。時折ちらりと猫じゃらしを見て仕方が無いな、というようにじゃれてくる猫につい笑みを浮かべた。

 + + +

「なんか結局猫カフェ行ってただけな気がするんだけど…」
「東都タワー案内されんとは思わんかったわ」
「行きたかったの?」
「いや別に」

特別行きたいとは思わんけどやっぱこっちの定番やろ、と言われて確かに、と返事をする。でも総司的には楽しめたらしくあのベンガルにはリベンジをしたいらしい。負けず嫌いなんだなぁと思い頬を緩める。

「そういえば、彼氏は知っとるん?俺と出掛けんの」
「知ってるよ。渋々承諾したしね」
「……渋々なんやな」

相変わらず束縛強いなぁと言われて、あまり否定も出来ずに苦笑いをしておく。
最初に総司の名前を出したときはすごく嫌そうな顔をしたのは忘れない。

「まぁ、こっち来とらんってことは喧嘩もしてないんやろうなぁとは思っとったけど」
「え、何?赤裸々に知ってたいの?」
「遠慮するわ」

喧嘩したら話ぐらいは聞いたるけどな。そう言って、乱暴にぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる。実際には私の方が年上なのに子ども扱いされているような気がするのは、気のせいだろうか。
総司が時計を見て、あ、時間やばいな、と呟く。私もその言葉に駅の時計を見れば、総司が乗る新幹線の時間はそろそろらしい。

「ごめんな、ホントは家まで送れたらよかったんやけど」
「あー、大丈夫。駅まで迎えに行くって言われてたから」
「……大変やな」
「否定はしない」

私が秀一さんしか見ていないことなんて、今更分かり切っているだろうに。総司と秀一さんを会わせたことはないし、秀一さんは総司の顔を知っているけれど総司は秀一さんの顔を知らない。もしこの2人がどこかで会ったらどんな反応をするのだろうか。

「そういえば、名前は心配にならんの?浮気とか」
「2人を同時に愛せるほど、器用な人じゃないからね」

総司が若干呆れたような顔をして、笑う。不安がってた人と同一人物とは思えんわ、と言われて私も笑う。

「今度はまた別んとこ案内してや」
「リベンジはいいの?」
「そのうちやな」

いつか絶対するけどな、と言っているからそのうちすることにはなるのだろう。今度はくしゃりと優しく総司が私の頭を撫でて、またな、と言って駅の中へと入っていく。

人の背中を見送るのはなんとなく寂しくて。無性に秀一さんに抱き着きたいなぁと思いながら携帯を開いた。

2015.08.21