止まった日付、変わった感情

 
目が、覚めた。日付が変わって、1時間ぐらいが経っている。時間を見て、またか、と思いつつベランダの扉を開ける。そこにいたのは、随分と見慣れてしまった白い大きな鳥。

(これで、何度目だろうか)

白い翼を休めに来た、と言うこの男からすれば初めましてだろうが、私からすれば初めましてなんてものじゃない。何百回、何千回以上と顔を合わせて、もうずいぶんと前には彼が言う言葉でさえ、覚えてしまった。

私はどうやったら、このループし続ける日々から、抜け出せるのだろうか。

 + + +

一番最初にループをしたのは、もう何千回と前の話だ。何の前触れもなく、突然だった。ループをし続けるのは、1日だけ。白い大きな鳥が、私の部屋から繋がるベランダに羽を休めに来た、その日のみ。その日1日を、延々と繰り返し続けている。

「貴方がここにいることで、こっちまで警察に来られたら迷惑なんですけど」

最初は何をやっているのかを聞いて、次は何者なのかを聞いて。大抵のことは、応えてくれた。ただ、素性に関わるようなことは一切答えてくれなかった。でも、最近はもう聞くことも尽きてさっさと帰れの一点張りだ。正直面倒なのでそのまま2度寝することもある。

「これはこれは…夜遅くに、大変失礼しました」
「別に。そう思うんなら飛ぶなり落ちるなりしてくれない?」
「おや、随分と不機嫌なんですね」

彼の手がゆっくりと伸びてきて、私の頬に触れる。セクハラだと言っても気にする様子が無いのは分かり切っていることだ。もう、何度も試した。

「睡眠の邪魔をされたら、誰だって機嫌も悪くなると思うけど」
「…笑っていた方が、可愛いと思いますよ」
「余計なお世話よ」

彼が私の頬に触れたのは、笑えということなのだろうか。別に目の前に立つ男にどう思われようと、関係の無いことだ。睨むように彼を見たとき、私の動きが止まった。

「んー……?」
「…何か?」

彼の顔が、どこか見覚えがあることに今初めて気付いた。今まで、彼の顔なんて気にして見ていなかったからだろうか。
彼の頬に両手で触れてこちらを無理矢理向かせれば、確かに、どこかで見た顔だった。

「誰かに似てる……」
「そうですね…。例えば、クラスメイトとかですか?」

彼に腰を引き寄せられて、空いている方の手で顎を持ち上げられる。誰かに似ているような気はするけれど、誰だっただろうか。
クラスメイト、と言われて同じクラスの人間を思い浮かべる。そのとき、とある人物が頭をよぎる。

「あ、帝丹高校の工藤新一に似てるんだ」
「……探偵の、ですか」
「すっきりしたー…。え、何?帰らないの?」
「いえ…今は、それでいいでしょう」

突然、彼がポケットの中から一枚のカードを取り出す。何をするのだろうか、と見ていると、それはポンッ、と音を立てて赤いバラの花へと変わった。

「いつか、その工藤新一ではない別の誰かを、思い出してください」
「え……?」
「それでは、良い夢を」

茫然としながら、彼を見送る。何百回、何千回と同じ1日を繰り返して物を貰ったのは、初めてだ。このバラで、何かが変わってくれるのだろうか。小さな期待を込めて、バラを入れるための花瓶を取り出した。

 + + +

クラスメイトに、キッドの姿で会って数日。俺はまた、彼女の部屋に続くベランダにいた。ここ数日間の奇妙さが、何か変わるのではないのだろうかと期待を込めて。
数日間、と言ってもそう思っているのは自分だけで、周りからすればそれは1日で、俺は、とある1日をループし続けていた。

「……何しに、来たの」
「羽休めを、しに来ただけですよ」

少しだけ嫌そうな表情をした彼女。それでも、部屋の中に俺が数日前に渡した赤いバラの花を見つけて内心嬉しく思いながら、彼女の頬に触れた。胸の高鳴りは、勢いを増した。

2015.09.27