キスで窒息死

 
私と秀一さんが同じベッドで寝るようになって、結構な時間が経った。勿論秀一さんがホテルに泊まることだってあるから彼がいないこともあるけれど、私の家にいるときは当たり前のように同じベッドで寝ている。
経緯はどうあれ一緒に寝るようになったけれど、私が先に起きるということは正直少ない。10回中1回起きればいい方だろうか。
元々秀一さんの眠りは浅くて、ちょっとした人の気配とかでも目が覚めるらしい。それに対して、私の眠りは深い。多少の物音では、起きないぐらいに。

(秀一さんが寝てる……)

私を抱き枕にするようにして、秀一さんが寝ている。普段あまり見ることが出来ない姿に頬を緩めながら、ゆっくりと起こさないように秀一さんの顔に触れる。
私の手が彼に触れた瞬間、一瞬彼が身じろいで私の肩が思わず跳ね上がる。恐る恐る秀一さんを見れば、また規則正しく呼吸を始めた。

(なんだろう、緊張してきた……)

夜這いでも、しているような気分になってきた。いや、朝だから朝這い?私だけが見ることが出来る光景にドキドキしながら、秀一さんに抱き着く。起きるかもしれないから、とあまり力を入れずに抱き着いて、秀一さんの胸元にすり寄る。布越しに伝わる体温と、静かな中聞こえる心音。

「……すき、」

本当にこの人が私だけのものでいいのか、と思うときもあるけれど、それ以上に秀一さんが好きで。誰にも渡したくないぐらい、愛おしくて。1人秀一さんの腕の中で頬を緩める。

「名前…」

小さく呼ばれた名前に上を振り向けば、それと同時に口を塞がれる。朝からするものとは思えないぐらいの、熱っぽいキス。起きていたの、とか、何で朝からこんなこと、とか聞きたいことはいっぱいあるのに声には出せなくて、くぐもった声が時折重なる唇の隙間から漏れる。

「んっ…ぁ、」
「…あまり、煽るな」
「やっ…知らな、んん、」

呼吸をさせるかのように唇が離れて、また塞がれる。角度を変えて何度も何度も塞がれて、舌を絡ませられる。気付けば私の身体は秀一さんに押し倒されていて、覆いかぶさられる。
唇を離すと、2人の間は銀色の糸が繋いでいて。それがぷつりと切れると秀一さんは私を宥めるように額にキスをした。

「っ……い、いつから、起きてたんですか…?」
「抱き着いたときに、な。まだ、してもいいか?」
「キス、だけなら…」

まだ、朝ですし。私がそう言うと秀一さんはフッと笑ってまた私の口を塞ぐ。優しく触れるだけのキスかと思えば、隙間から舌を絡められて。

「秀一、さん……」
「何だ?」
「好き、大好き」
「…あまり、煽るなと言ってるだろう」

秀一さんが、呆れたように笑った。お互いの意思を確認するかのように、私たちはまた口を塞ぎ合う。何度も何度も、キスぐらいじゃ、足りないぐらい。2人でいられない時間を、物理的に補うように。
秀一さんの手が、私の髪に触れる。梳くようにして触れて、重力に従うようにして落ちていく。

「ん…っ、あ、」
「逃げるな、」
「やっ…キス、ばっかり…」
「キスだけ、なんだろう?」
「そう、だけど…んっ、」

キスだけなら、と言ったのは私だけれど、朝からこんなに激しいものだなんてどうにかなってしまいそうだ。朝なのに、秀一さんが欲しいと言いたくなってしまう。

「はっ…ぁ、も、だめ…」
「嫌か?」
「そうじゃ、なくて……秀一さんが、欲しくなっちゃうから……」

秀一さんにこれ以上キスをされないように口元を押さえながら、覆い被さる彼を見上げる。一瞬、驚いたような顔を見せて、でも、すぐに意地悪く笑みを浮かべた。

「俺は、いつだって名前が欲しいんだがな」

優しく手を取られて、私が抵抗の言葉を紡ぐよりも早く秀一さんは私の口を塞いだ。

2015.09.16