02.対策依存症



前の世界で、江戸川コナンが現実にいたら、というネット掲示板を見たことがある。

コナン一行と出くわした時、まず一緒にいるかいないかで道が別れる。
ただの分岐点じゃない。生きるか死ぬかの分岐点だ。

ここで画面に映し出されないか名前のテロップも表示されないくらいなモブで切り抜けられればまずは安心だ。事件に関わることはない。
しかし怖いのは、最初の被害者になる可能性があるのと、映画編だったら爆発かばら撒かれた毒や細菌でモブらしく死ぬ可能性がある。

しかしだからと言って事件ホイホイ達と一緒にいるなら、何が何でも離れてはいけない。離れてしまったら最後、高確率で次の被害者になる。間違っても「殺人鬼なんかと一緒にいられるか!俺は部屋に戻らせてもらうぜ」なんてその場を離れた瞬間、もう陽の光を見ることはない。南無阿弥陀仏。

停電が起これば高確率でアウト。運よく死ななくても死体を拝む羽目に。だからと言ってキャラとめちゃくちゃ仲良くして準レギュラー的な位置になったとしても、危険度は変わらない。犯罪に巻き込まれる可能性は高いし、私に主要キャラ補正がかからなければ普通に死ぬだろう。(そして多分補正はかからない)
そうでなくても、一年を20年かけて連載してる漫画だ。犯罪(しかも殆どが殺人)はまるで当たり前のように起こる。そして、動機が中々にくだらない。
一番衝撃的だったのはアレだ、ハンガー投げつけられて怒ってハンガーで殺す事件。割と動機がクソ過ぎて外出したくなくなる。前世で身に染みて分かってはがいることだが、それ以上にこの世界ではカッとなって人を殺してしまう人が多いらしい。
つまり、私もコナンがいなかったとして個人的な理由で殺される可能性は十二分にあるのである。


そんな無理ゲー糞ゲーな世界で、人生一からやり直し!
生きる対策を重ねるには十分。強くてニューゲームだね、糞ゲーだけど。


何が言いたいかと言うと、


この世界の人ストレスに弱ッ!!!


犯行の動機がくだらなすぎるので、このままじゃいつどんな理由で自分が殺されるかも分からない上に、何だか現代日本では考えられないほどテロや爆弾事件が多い。
闇だ、闇すぎる。全国一斉心理カウンセラーとかした方がいいと思う。

しかしそうは言ってもこの世界で生きていかなきゃいけないわけで、例え襲われようとテロ起きようと爆弾仕掛けられようとゴキブリのごとく生きる力を養わなければいけない。


目指せ死なないモブ。


まず第一、コナン達とは死んでも関わるなッ!(最重要項目)

そもそもコナンに関する知識は一般常識ぐらいにしか知らないので、正しい選択肢と行動を取れる気がしません。
漫画は読んでないし、アニメも土曜日の夕方にテレビつけてたまたま映ってたら見る程度。映画は金曜ロードショー好きだからまあまあ見てるかも。でもまじで、黒ずくめ?組織?とコナンの正体ぐらいしか知らない。
あがす博士?と子供たちと毛利蘭とか園子とか以外キャラ覚えてない。

……あれ割とマジで結構知らなくない?え、逆に大丈夫かこれ?私この世界生きていけるの?

……皆さん、私のためにも頑張って組織壊滅してください。私はよろしく一般ピーポーしてます。あのほんと下手に関わっても足引っ張る気しかしないんで罪悪感とかないっす。はい。


そして次!必要以外喋るなッ!

口は災いの元である。もう一度言おう、口は災いの元である。
無自覚な言葉が相手の心に深く刺さり、何気ない嘘が原因で不倫相手に殺されるなどと言ったことになりかねない。(体験談)(つらい)

しかも盗聴とか発信機とか平気でつけられる世の中、そして洞察力が鋭いキャラたちが溢れかえった世の中で少しでもボロをこぼしてしまうとも限らない。
それで友達出来なかったって、そもそも精神年齢が違うから合わせるのとか疲れるし。

うん、やっぱり喋らないのが一番だよね。
寡黙は美徳。だって日本人だもの。


そして、最後。自分の身は自分で守れッ!

と、いうことでもし襲われても大丈夫なように(重要)、格闘技を片っ端から極めている。

幸いにも父がそこそこ有名な医者、母がモデル兼女優というハイスペック両親のおかげで、経済的にも私はある程度自由に生きることが出来た。
格闘技ひと通り習いたいだとか、授業料大変だろうなぁ…。
きっと許して貰えないだろう、と思いつつ、子供らしく無邪気に「あのね、かくとーぎやりたい!いろんなの!」と言ったのが幼稚園の頃。
無茶苦茶なガキンチョ(園子風)だなあとは思うが、しかしふたつ返事で了承した両親も中々である。

空手、柔道、拳法、ボクシング、ムエタイ……親からはもう少しメジャーで女の子らしいスポーツ(例えばバレーとか)を勧められてはいるが、頑なに格闘技のみをやり続ける私に、きっとこの子の天性なのだろう、全国大会出場頑張れ!と特に反対もせず応援してもらっている。が、悪いけど私は大会の結果には全く興味がない。一応先生とか親に強く勧められて大会には出てるけど、そもそもそれぞれのルールをあまり理解してないので、勝つ以前によくイエローカードひいてはレッドカードを貰うことがよくある問題児である…。どうして両親も先生も私を見捨てないのか、少し不思議に思うけど、兎にも角にも私の中では相手を伸せられれば何でもいいので、ルールなんて縛りは邪魔なだけだね!と思って毎日生きている。
喧嘩上等じゃコラァ!あっ嘘です。暴力反対。

因みに未だ実戦で役に立ったことはない。
幸せな人生である。


そんなある日のことである。
生きる力(物理)を限界まで極めるような生活を送っていたある日、私は事故に巻き込まれ、私と一緒にいた友人と共に大怪我を負ってしまった。
小3くらいの頃だ。私もそれなりの怪我だったのだが、それよりも友人の怪我の方が酷く、腕から血をダラダラ流して「痛い、痛い」と泣く友人に、私は救急車が来るまでひたすら寄り添っているしかなかった。

それが酷く悔しく、また怖くもあった。

事故は事前に塞げないし、食べ物に毒が入っていても気付けない。もし銃なんかで撃たれてしまえばきっと避けれないだろう。
ここは安全大国日本だけれど、私にとっては(この世界を知る者にとっては)、この米花町はある意味世界で一番危険な町だと言っても過言ではない。
爆発、テロ、射殺なんでもアリである。

そうなってしまった時、もしもっと怪我が酷くて、救急車が間に合わなかったらーーー、考えて、怖くなった。

やっぱり、頼れるのは自分しかいない。


それから私は格闘技漬けの生活が嘘だったかのように医学に没頭した。
外科医である父の書斎には、様々な疾患別の専門の医学書から、薬品関係の書物、症状別の応急処置から治療方法までありとあらゆる専門書があった。
流石に中身が大人でも、一般人の脳みそで理解出来るようなことではなかったけれど、そこはグーグル先生に頼りながら何とか頑張った。(父の書斎にはデスクパソコンが置いてある。因みに前世はシステムエンジニアだったのでパスワードは解読出来た)(違法だよ、良い子はマネしないでね)


「お父さん、もしも銃で撃たれたらどうするの?」
「優美はたまに突拍子もないことを聞くね…、そうだな…撃たれた箇所や銃の種類によって様々だよ。まずは患者の意識の維持に努める必要がある。致命傷でなくてもショック死してしまうかもしれないからね」


私が大怪我を負ったとき、そしてより重症な友人を目の当たりにしたときのことを父も母も知っているので、父も時間があるときには直接教えてくれた。
それが子供が聞くようなことではないことでも、父は興味があるのは良いことだと丁寧に教えてくれたので、私の医療知識は結構マジもんだと自負している。

因みに実戦で役に立ったのは擦り傷の手当てぐらいしかない。
幸せな人生である。