ふしぎ玉の不思議



「マリーちゃん、この人助けてくれてありがとね」
「本当に…なんとお礼を言ったらいいか…」
「お気になさらないでください、先日の夕食のお礼です。」

これだけじゃあ足りないんですけどね、と鍛冶屋に笑いかけその場をあとにしたマリーは、店の表で待ち構えていた先ほどの青年達に駆け寄った。

「ごめんね、お待たせ!」
「ん〜ん〜!ぜぇ〜んぜんまってないよぉ〜」
「いやアホかおまえは」
「マリー…って言ったかしら?悪かったわね、こいつのさっきのセリフは思いつきなだけだから、気にしないで!」
「おい何でだナミ!俺は本気だぞ!」

ハートに変えていた目をギラリと吊り上げ蹴りを繰り出すサンジの雄叫びと、ギャアアアというウソップの叫びをものともせず会話を進めるナミとルフィに呆けていたマリーは、ルフィの最初の言葉を思いだし小さく笑った。

「フフッ、誘ってくれてありがとう。でもごめんなさい、せっかくだけれど私は君の船には乗れないわ。」
「「ええ〜!!!」」
「当たり前でしょ!好き好んで海賊になろうなんて女の子居ないのよ!」
「でもよナミ!お前はおれの仲間になったじゃねえか!」
「ほぼ無理矢理でしょうが馬鹿!」
「あ!そーいやよ、さっきのふしぎ玉!あれどーやってんだ?」
「いやルフィお前話変わりすぎだろ、自由か。」
「あれはね、私の故郷で伝わる技術よ。」

首をかしげるルフィに笑かけながら、マリーは懐からシャボン玉セットを取り出した。

「ちょ…ちょっと待て!まさかお前…それで作ったとか言うんじゃねぇだろうな!」
「私はこれしかシャボン玉を作る道具は持ってないわ。」
「シャボン玉って…あんたあれ只のシャボン玉じゃなかったわよ!」
「そりゃあそうよ、だってあれには私の《波紋》が流し込まれているもの。」

そうにこりと笑った彼女こそ、かの黄金の国にのみ存在する《波紋戦士》であり、麦わらの一味と彼女の出会いが、後に数々の繋がりを産み出していくことなど、この頃の彼らは知るよしも無かった。



◆ ◇ ◆



マリーには敬愛する波紋の師がいた。もうずっと、ずっと昔の出来事だが、彼女の記憶にしっかりと刻まれた師との修行の日々は、今も尚、彼女の力の糧となっている。

「波紋とは生命のエネルギー、精神と呼吸を一定に保つんだ。マリー、恐怖にのまれるでないぞ。
打ち勝て、跳ね返せ、お前さんには恐怖に打ち勝つ心がしっかりと眠っとる。
お前さんの祖父、誇り高き波紋戦士、シーザー・A・ツェペリから受け継いだ心が。」

記憶の中の師は今よりもずっと年老いた姿だ。だからといって、弱々しい姿かといったらそうではない。
老兵は死なずとはよく言ったものだと、この時の彼女は心のなかでずっと思っていた。そして彼女は、そんな師の姿に憧れ、尊敬を抱いたのだ。

飄々とし、必要とあらば敵に背を向けることはあれども、決して折れず凛とした師の背を、彼女の瞳はしっかりと刻んでいた。



波紋とは、特別な呼吸法によって、肉体にエネルギーを生み出す技術だ。
生命のエネルギーとも言われるそれを、彼女はあの時、あの世界でモノにし、その力で仲間の危機を救ってきた。

ある時は敵を倒し、ある時は仲間を癒し、彼女の力は多くの仲間を救った。


そしてその記憶は、今の彼女の中にもしっかりと宿ったのだ。



◆ ◇ ◆



「分かった!ようするにふしぎ玉だろ!」
「一ミリも分かってないでしょあんた。」

座って話を、と入った酒場で改めて彼女の持つ技術を聞いた一味の面々は、その異様すぎる力に驚きを見せていた。

「悪魔の実とは違う…ってことだよな?そんな技もってるやつが他にもいんのかよ…」
「私の国の特定の一族にしか伝わってない特殊な技だから、数えられるほどしか居ないわ。
私の一族はそのうちの一つなの。シャボン玉は私の兄の技をちょっと借りちゃった。」
「敵を倒すだけじゃなく傷まで癒せるなんて…女神は持った能力まで女神か…!」
「サンジくんちょっと黙って。」

ナミの静止に合わせ小さくわらったマリーは、自分の話はこれまでというように、ルフィの目をしっかりと見据えた。

「国ではこの能力を使える人間を、《波紋戦士》って呼ぶの。私の一族は代々この波紋戦士として、王の一族を護ってきた。
でも私はとある噂を聞いて、王族を守護する道を外れて旅に出たの。」
「とある噂?」
「…伝説なんて言われてるから、本当にあるかなんて分からないの。不確かな情報しかないけど、私は噂なんかじゃなくて実在すると思ってる。
海賊達がワンピースを求めるようにね。」
「!」

彼女の口から出た我らが船長の狙う宝の名前に思わず顔を見合わせたクルー達をよそに、等の船長は少しも視線をそらすことなく彼女の言葉の続きを待った。

「東の海には無かった。北も、南も、西にもないと聞いた。残るは1つだけ。」

この場にいる一味全員の視線が、彼女のブルーの瞳に集まった。

「探し物を見つけるため、私はグランドラインを目指すのよ。」