コンビニからの帰り、特に意味もなく遠回りをしてみた。今まで通ったことのない道だけどどうして通らなかったのかはあまり気に留めたことがない。大通りから離れているから、行き止まりの多い道だから、きっとその程度の理由のはずだ。そこは裏道と言うほど狭くもないが車の通行量は少ない、歩きやすい道のようだ。

歩き始めてから数分で一本の大きな木に足を止めた。小さな公園の真ん中にそびえる木を賑やかす葉は赤や黄に色づき始めている。

それは感覚からすれば既視感のような白昼夢のような、不思議な体験だった。

初めて来たはずの場所なのに、来たことがある気がする。いや、記憶がある。けどここ来たのは私ではなくで別の人、その記憶が私の中に存在する。恐怖や気味の悪さは感じない、寧ろどうして忘れていたんだろう、と見当違いな思いを抱く。次に何かを考えるよりも早く、足が公園へ向かっていた。

心霊とか見えない何かを信じる方ではない、そういったものを感じるという人が周りにいたこともあったがそれも高校生に上がるまでだ。もし本当に存在したとしても、それは私とは違う次元の感知できないもののはずで、この歳になってから突然その次元に行けますよと言われても俄には信じられない。けれどどうだ、木の側には寄り添うように私が立っている。私だ、毎日見ている私の顔だ。服装は多少古めかしいが見間違うはずがない。そして、僅かにぼやけてはいるが、もう一人の私の隣には男性が立っていて、その男性と私は確と手を繋いでいる。やがて私は男性を見上げながら穏やかに微笑んだ。
鏡の国に迷い込んだか疲れで頭がおかしくなったか、あの二人が現実の人ではないことは明白だった。一歩、近付いてみる。


「あ、」


瞬きの間に二人は霧散し、大きな木は相変わらず風に吹かれて木の葉を鳴らすだけだ。途端に視界が広くなると、木を挟んだ向こう側に人がいたことに気付いた。
その人を認識した瞬間、処理しきれない感情と堪えきれない涙が溢れ出した。私は確かにこの人を憶えている。


「やっと会えた」


優しい声。
そうだ、私はこの人が大好きだった。


「れ、んごくさん」

「そんなに泣くと目が溶けてしまうぞ」


ぼたぼた零れる涙を指先で拭って笑う。恐る恐る伸ばした手は大きな手に包まれてじわりと温かい。ああ、これは夢でも幻でもないんだ。





まぼろしの深淵





END & Thanks!!
title by ユリ柩様




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