「騰様っ!」


身体が勝手に動いた。自分の意思ではない、でなければこんな事するはずがない。ほら、騰様も驚いている。


「何を、している……」

「し、知りませんよ」


突然痛みを覚え馬の背に倒れ込んだ。痛みは全身に広がり、どこに矢を受けたのかも分からない。心臓はどくどくと脈を打つのに何故か寒くなる、その感覚に鳥肌が立った。
矢で騰様を狙う敵を見た瞬間、頭の中には何も無かった、ただ動いていただけだ。腿に血が伝う、手綱を握る手に力を込めて身体を起こした。


「もう良いっ、お前は離れて傷の手当を」

「……何を仰います、まだ戦は終わっておりません」


倒れそうになる身体を支える腕はぶるぶると震えた。


「すぐに終わらせる」


騰様は精鋭を連れ、土煙を巻き上げながら馬を走らせた。その後ろ姿を見ながら息を吐いた途端に視界が霞み、重くなってきた瞼をそのままゆっくり閉じた。






「……っ、」


私を呼ぶ声と痛みとで意識が浮き上がる、動く事も億劫で声を上げようとするが掠れたような息が喉を微かに震わせただけだった。


「騰様、意識がっ」


口々に皆が声を掛けてくるが私の耳にはっきりと届くのは騰様の声で、それもいつもと違う声で、何となく自分の容態が分かったような気がした。騰様は周りに席を外すように言って、天幕の中は二人だけになったようだ。


「騰様、お怪我は」

「無い、だがお前が」


騰様の無事を確認すると、ほっとしたのか一気に思考がぼやけ始める。私の髪に触れる手の平が騰様のものだと気付くのにも少し時間が掛かった。


「私は、騰様が嫌いでした……」


この軍でずっと騰様と戦ってきた。性別で私を差別せず、ずっと対等に接して下さったけれど、私はいつも悔しい思いをしていた。


「どれだけ武功を挙げても、どれだけ敵を葬っても、私は貴方に追い付けなかった」


いつも手を伸ばしていたのに、この手はずっと空を切った。貴方を手に入れたいと思っていたのにいつだって掠りもしない所にいる、ちゃんと向かい合いたいのに私は貴方の背中しか見られない。


「だから、嫌いです」

「こんな時にまで恨み言か」


瞼を閉じたまま頬に触れる手の感覚を受け入れているうちに力が抜けてくる。騰様の表情を見たいけれど、もうそんな力も残っていない。少しは悲しんでくれるだろうか、少しの間でいいから心の片隅に私を置いてくれるだろうか。


「素直にならないか」


閉じた瞼の隙間から温かい涙が流れた。闇に引きづられそうな感覚に抗いながら懸命に口を開く、それが言葉になったかどうかは分からない、私の意識はそのまま何かに飲み込まれた。






死んでも素直に笑わない







私を庇って受けた矢傷はすっかり良くなったようだが、あれからどうにも機嫌が悪い。彼女は何故か自分の傷が命に関わるものだと勘違いしたようで、それを否定しなかった私に騙したな、と怒っているようだ。私としては騙すつもりなどなく、ただ心配してついていただけだと説明したが聞く耳を持たない。
しばらく放っておこうかと思ったが、それだといつまでも私に近寄らなさそうなので彼女の好きな酒を手に入れた。これで機嫌が直ればいいのだが。


ずっと貴方のお側にいたかった

気を失う寸前に呟かれた言葉に驚いたが、私も同じ気持ちだと早く伝えたかった。私はずっとお前の事がどうしようもなく愛しいのだと言えば、彼女はどんな顔をするだろうか。






END & Thanks!!
title by ユリ柩様