その男は大勢の村人を殺し、その肉で門を作った。殺されたのは男達ばかりでなく、無抵抗の女子供までもを八つ裂きにして戦の道具にしていた。
私は若い女というだけで捕らわれ、他の女達と一緒に檻に入れられた。皆、服を剥ぎ取られ、下卑た視線と野次を浴びせられて怯えている。これからこの身に起こる事を嫌でも想像させられて、涙を堪え歯軋りをした。



「おい、お前」


檻の間から腕が伸びて、私の肩を乱暴に掴む。振り返ると顔に刺青のある巨体の男が私を睨んでいた。私が不愉快を露わにすると、男は下品に笑いながら檻の鍵を開けた。


「お頭の所にいけ」


無理矢理檻から出され、強い力で腕を引かれる。裸体を晒したまま、周りの男達の視線から逃れるように下を向きながら歩いた。これから連れて行かれる先にいるのは、あの惨状を作り出した男。私達が何をしたというのだ、小さい村で慎ましく暮らしていただけなのに。皆、殺されてしまった。屍を弄ばれ、物のように扱われた。そんな男の玩具にされるのかと思うと、足に枷が付いたかのように重くなる。


「ここだ、入れ」

「……っ」


背中を押され、危うく前に転けそうになる。顔を上げると奥にあの男がいた。


「なに固まってる」


大きな椅子に腰掛け、片脚を腿に乗せる。必然的に目が合うと、にぃと口角を上げたので顔を背けた。前を隠すものも無く、無遠慮な視線を感じて身体が震える。


「何の為に連れて来られたか分かってんだろ」


腹の底でふつふつと怒りが沸いた。右手で掴んだ自分の腕を強く締め付け堪えても、爪がくい込むだけで喉元の熱さは無くならない。
男は急に立ち上がりこちらに来たかと思えば、右手を腕から引き剥がして私の顎を持ち上げた。顔や身体をじろじろと見られ、思わず顔が赤くなる。


「傷を作るんじゃねぇ」


背筋から寒気が這い上がる。男は笑みを浮かべたまま私の首筋を指で撫でた。本当なら声を上げている、大声で嫌だと、けれどそれは叶わない。視線は男の瞳に縛られ逸らす事も出来ず、その黒色の闇は妖しく輝き、私を飲み込もうとしていた。人間の皮を被った獣なのではないか、この男からすれば私は捕食されるのを待つ小動物のようなものだ。やっとの思いで息を吸い、喉を震わせる。


「あ、貴方には関係ありません」


眉を持ち上げ目を細めた男は口角をさらに上げ、見た事も無いような悪辣さで笑う。死を覚悟した。いや、弄ばれるくらいならいっそ殺された方が良いと思えた。


「くくっ、気が強いな。悪くない」


そうだ、やっぱり。この男は、捉えた獲物を逃すはずはなく、貪り尽くすまで離さない獰猛な獣。その瞳の妖しい光から逃れるように後ずさると腕を強く引かれ、そのまま男ごと寝台へ倒れ込む。


「っ……」


身体を起こすと寝台に転がる男の上に馬乗りになっており、依然として笑う男を見下ろしていた。勝手に腕が男の首に伸びる。

目が、合った、
いま、何を考えた



「俺を殺すか」


びくっと身体が跳ね、心臓の音が急に煩くなる。首に冷たい感触を感じて、ようやく刃物を当てられている事に気付いた。恐ろしい程の後ろめたさが頭を殴る。今、何を考えていた。
手がぶるぶる震え、止めようもない。この男を、美しいと思わなかったか。残酷で悪意のかたまりのようなこの男の笑んだ顔に、目を奪われなかったか。


「こ、殺して……」


男の顔から笑みが消えた、後の表情は分からなかった。悔しくて情けなくて涙が溢れた。殺して、と繰り返すのが精一杯だった。たとえ一瞬でも、自分が許せなかった。


「俺に指図するんじゃねぇよ」


私の頬から滑り落ちた涙はそのまま男の頬を濡らしていた。


「だが、お前のその見目に免じて、捕らえた女どもは解放してやる」


男はゆっくりと上体を起こし、私の後頭部に手を当て、そのまま耳元で囁いた。


「その代わり、お前は俺の物になれ」


低い声色、服越しにも分かる逞しい体躯。その手が身体を撫でても振りほどく事など出来はしない。そこに選択の余地など無かった、答えは一つしか用意されていないのだ。この男が飽くまで、私は玩具になればいい。それが自分への罰でいい。
私が諦めを滲ませ頭を垂れると、男はまた愉しそうに笑うのだった。





弱者のわきまえ





END & Thanks!!
title by ユリ柩様