襖に手を添えたまま、ふと己の隊服を見下ろす。血など付いていようものなら部屋が汚れてしまう、入る前に確認しておくのが良い。これも慣れか暗がりでも夜目が利く、一通り確認し終え、改めて中で眠る彼女を起こさぬようにそっと襖を開けた。
規則正しい寝息が聞こえて頬が緩んだ。誰に見られるでもない、襖を閉め、そのまま彼女の側へ音を立てずに移動する。刀を床に置いて畳に腰を落ち着けると帰ってきた、と一心地つく。任務が終わってもこの瞬間まではどうしても気が抜けない。
「ん、」
暑いのか、身動ぎすると布団が捲れてしまった。いくら言っても寝間着は薄い襦袢を羽織るだけで、薄い肩や白い肌を見ると風邪をひかないか心配になる。肩の辺りまで覆うように布団を直してやると気持ち良さそうに布団に頬を寄せた。
夜、ゆっくりと家にいるのは久し振りだ。鬼の活動時間は夜、必然的に鬼殺隊の任務も夜が更けてからになる為、同じ屋根の下で生活していてもすれ違いになることが多い。
辛抱出来ず、努めて優しく指先で頬に触れる。柔らかさと体温を感じ、堪らなく愛おしい。これほど大事に思える女性に出会えると思っていなかった、よもやその女性に好いてもらえるなどとも。
「きょうじゅ、ろさん……」
「すまない、起こしたな」
薄く目を開けてふふっと笑うと白い腕を伸ばしてくる。
「おかえりなさい」
「ただいま」
指先が頬を滑るとそのまま首に腕が回された。床に手をついて身体を寄せると鼻先が触れるような近さでじっと見つめられる。
「暗いと余計に、目が綺麗に見えます」
「そうか」
「赤くて、夜明けに炎が灯ったみたい」
寝起きの掠れた声でそう打ち明ける彼女に思慕が募る。ほんの僅かに唇を寄せただけで容易く触れ、柔らかな名残に心臓を鳴らしながらゆっくり離れた。たったこれだけのことで大の大人が理性を崩されるのだから、
「不甲斐ない、なんて思ってませんか」
心の内を読むようなことを言われ、そんなに分かりやすいだろうかと苦笑する。彼女の手に自分のそれを重ねると存外熱いことに気付いた。月明かりだけが辺りを照らす暗がりでも分かるくらい彼女の耳が赤くなる。
「不甲斐ない貴方も好きです」
暁が滴る夜まで
END & thanks‼
title by 失青様