高嶺の花。
その言葉が誰より似合う人だった。
美人とか、可愛いとか、そういう言葉はもちろん当てはまる。でも、そんな言葉では安っぽくて自分の語彙力の無さを恥じてしまうほどその人…彼女は周囲とは全くの別モノで。少なくとも俺には触れることも、近づくことも出来ないような、そんな人だった。
別段特異的な響きではないその名前が、彼女のものであることで特別な意味を持っているように思えた。

彼女の名前は、真波ひなせ と言う。





「おーい。友也、まだ終わんねぇのかー。日誌なんてお前くらいだぞ真面目に書いてんの。」
「うるせ。こういうのやらないと気になるんだよ。」

そう言って、一日の流れを書く簡単でシンプルなお仕事を黙々と続ける。確かに前の十数ページには空白やできた、がんばるなんて小学生でも書けそうな文章が目立つ。適当に書いたらそんなもんだろう。でも俺は少なくとも数週間に1度のこの仕事が嫌いじゃ無かったし、やらない方が気になる質だった。
それにもう放課後だ。特にやることもないから焦る必要もない。強いていえばこのやかましい幼馴染とふざけ合いながら帰るくらいか。


「なぁ俺暇なんだけど。いつ終わんの。」
「もうちょっとだから待てって。窓の外のサッカー部でも見てろよ。好きだろサッカー。」

席決めのクジで勝ち取ったこの窓際の席は西日が良く当たり、窓から夕日と一緒に少し離れたグラウンドとロータリーの様子が良く見える。

「分かってないなぁ友也くん。俺はね、Jリーグ見んのが好きなの。高校生の練習見たって…」

お喋りな幼馴染の声が急に止まった。丁度日誌を書き上げて、幼馴染に視線を移す。彼の視線は夕日でもグラウンドでもなく、ロータリーに向いていた。


「HINASEだ。すげぇ、本物だ!」

視線をロータリーに向けたまま、興奮気味に言う。視線の先にはこの高校きっての有名人で、世間で話題の存在がいた。