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麻薬取締官
麻薬取締や薬物の不正ルートの解明などの薬物犯罪の捜査や正規麻薬(医療などの目的で許可を受けて合法的に使用される麻薬)の不正使用・横流し・盗難等の監視・捜査を行う厚生労働省の職員である。(引用元-Wikipedia)

全国でもわずか240名の少数精鋭集団。
その中でも特に優秀な人員が麻薬取締部捜査企画課に集うーーーーーーーー。


某月某日
麻薬取締部捜査企画課オフィス


『あ"〜〜やっと終わった……。』


膨大な照合作業の結果をまとめてオフィスに向かう。ようやく修羅場が一段落着いた。


捜査企画課は、繁忙期でなくとも繁忙を極めることが往々にしてある。というか、実質毎日が繁忙期なのだが、とある大きな案件が片付き、その後処理に追われている今はいつにも増して忙しい。ここ最近私と孝さんは、2人してラボにこもりきって多種多様な鑑定・照合作業に追われていた。


思い返せば、最後に睡眠をとったのはいつだったか…。
みんなは定期的に家に帰ってるみたいだけど、私はそもそも家に帰ることの方が少ないからここ最近はラボから一歩も出てないし。……そも最後にラボから出たのっていつだっけ??火曜日には気分転換にコンビニにおやつと某翼を授けるドリンクを買いに行ったから…今は土曜日………うそ……やだ…。


4徹していることもさることながら、まさか4日間もラボから出てないなんて。これはまずい。
健康で文化的な最低限度の生活と言えない…日本国憲法第25条に対しての違憲行為…!


働かない頭ではどうにも阿保っぽい事しか考えられない。


『(駄目だ、一旦オフィスのソファーで仮眠…。)』

オフィスへのドアを開け、一目散にソファーへ向かった。オフィスに対して背を向ける配置だから、ここならみんなの邪魔にもならないでしょ…。
私はもそもそとソファーに横になって。ラボから引っ張り出してきたブランケットを被る。
さあ、あとは目を閉じるだけ。そんな時、


「新種のドラッグ、ですか…」


気になる言葉が聞こえて、思わず目を閉じたまま聞き耳を立てた。

今日、捜査企画課のオフィスでは樹さんと玲ちゃん、春くんの3人が終わる気配のない書類を相手に事務仕事を片付けていた。しかし、作業音が止んでいることを見ると、3人は今手を止めて、ついさっき帰ってきたという様子の関さんと話をしているようだった。


関さんの話曰く。


今日、関さんはお偉方から呼び出しを受けていた。
というのも捜査企画課は麻薬取締部でも群を抜いて優秀な人員が集っている。その課をまとめる関さんが優秀でない訳がなく、将来を見越してお偉方から声が掛かることは珍しくない事だった。
関さんが言うには、いつも通り勧誘を波風を立てず受け流している際に気になる話を耳にしたのだという。


「ああ。どうも政府役人や著名人といった社会的地位が高い層を中心に今までになかったような薬物が出回っている、という噂があるらしくてね。」
「今までにない、って言うと?上流階級層に限られて流通してるドラッグってことですかね…。でもそれって、わりとありがちな話じゃありません?」
「そうだな、MDMAや脱法ドラッグ類が痩せ薬等の名目で一般に出回っているケースとは別に、著名人や大手市場の役員やその子息が権力を隠れ蓑にドラッグに手を出しているケースも一定数存在するのは確かだな。」

お金のある所には黒い噂は付き物。
樹さんと春くんは御曹司でありながら麻薬取締官の立場にあるから、特にこの話には身近に感じることがあるのかもしれない。

「御曹司の2人が言うと説得力ありますね…。」
「まあ、そんなに頻繁にあることでもないが、実際火のないところに煙は立たないからな。…この話、一応孝太郎や今大路にも共有しておきますか?」


樹さんの問いに関さんは少し考えるような声色になってから、そうだな、と小さく呟く。


「ただの噂であればそれはそれでいいが、事実であるなら見過ごせない。それに、"今までにない"という点も気になる。皆、すまないがそれとなく気にして探ってみてくれ。…それと、今大路と由井への情報共有を頼めるか。」
「「「分かりました。」」」
「色城も。頼めるかな?」

あれ、聞き耳を立ててるのバレてた。

『…はぁい。』
「あれ、初ちゃんいつの間に。休憩?」
「ここ最近会わなかったけど、ちゃんと食事はしてたのか?」
『食べてないし寝てもない…さっき終わったからこれから寝るの〜〜〜〜』
「気のせいじゃなかったら、私初ちゃんと4日間会ってないよ……?」


関さんの言葉に気の抜けた返事を返すと春くんと樹さんに絡まれた。玲ちゃんは心配してくれてる。好き。
樹さんの前で食事を抜いた話をすると大体怒られるけどもう今日は良い。そんなことよりも眠い。私はこのまま寝るぞ。案の定お小言を呈する樹さんに答えません、の意思表示として背を向ける。
背中越しに樹さんのため息と、春くんと玲ちゃんが噴き出すのが聞こえた。


確実に深い眠りへといざなわれる意識の中で、先程の話の"今までにない"薬物について考える。関さんも気になっているようだったけど、"今までにない"とはどういう意味合で?そも何故前例のないものを使ったのか。


薬物は違法だ。それに身体リスクがあると言うことは広く知れ渡っている。そのため、メリットのある効能を前面に押し出した甘言を使って、あるいは好奇心やタブーを犯すスリルを煽って、新たな利用者を増やしていく。それなのに噂のドラッグは"今までにない"と効能も危険性もあやふやにしたもの。それでは顧客は得難いだろうに…。


これは何かある。
直感的にそう確信したのはランナーズハイによる疲労と過覚醒のせいか否か。
確信を得てしまったなら、しょうがない。
強い眠気を振り払いながら重い身体をむくりと起こす。



『……関さん。さっきの件、私から探りを入れてみてもいい?』


話を切り上げデスクに戻ろうとしていたみんなは、急に上体を起こした私に驚いている。
重すぎる瞼をどうにか開けて、関さんに"お伺い"を立てる。関さんもまた、私から目を逸らさなかった。



「わかった。…あまりやり過ぎないように、無茶なことはしないこと、これが条件だ。できるかな。」
『まかせて〜…それじゃあおやすみなさい……』
「頼むよ、色城。おやすみ。」


関さんは数秒間黙ったままだったけど、最終的には頷いてくれた。
お許しは貰った。目が覚めたら取り掛かろう。

そのためにも今は寝る。
疲れた体と頭じゃ、なんにも…できない………。





「…初ちゃん寝ちゃったね」
「さっき終わったって言ってたけど、あの量終わらせるとかほんとに仕事は出来るところが初ちゃんなんだよなあ」
「寝かしてやるか…。俺たちも片付けないとな」