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『ここが魔法舎…。』

綺麗な西洋風のお屋敷、という感じだ…今日からここで暮らすだなんて実感はわかないけど本当に大丈夫なんだろうか…。元々、彼の元を離れた後は教えを駆使し、豊かとはいえずとも地に足のついた生活をせねば…!と考えていた私にとって急に言い渡された魔法舎での暮らしはおよそ想像の付くものではない。不安は山積みだ。
箒から降り、きょろきょろと落ち着かない私に反してジョシュアは迷いなく進んでいく。もしかして、ジョシュアはここに来たことがあるのかな…?
気が付けば彼は随分離れた場所にいて、私は慌てて彼の背中を追いかけた。

彼を追いかけた先にはこの建物の玄関口があった。建物が立派なだけあって、扉も大きくスペースも広い。
と、近づくうちにジョシュアの正面に人影が見えた。
その人影はこちらに気が付いたらしくジョシュアの陰からひょっこり顔を覗かせた。

「おお!そなたがジョシュアの言っておった子かの!」 
「おお!本当にジョシュアが女子供をつれてくるとは!」
『え…あ、はじめまして…?(子供?)』
「「はじめましてじゃ!!」」

人影は小さな子供達だった。お揃いの服装…そっくりな見た目、いかにも双子という感じだ。
魔法舎にいるという事は、この二人も賢者様の魔法使いなのだろうけど、ジョシュアの言う双子が子達の事なら、きゃっきゃとはしゃいでいるこの子達は私よりも随分と年上なのかもしれない…。

「あおい、魔法舎での暮らしではこの双子を頼れ。」
『あっ…やっぱり…年上なんだ…。』
「年上も年上、何千年単位で生きてるじじいだからな。遠慮しなくていい。」
『何千!??』
「ちょっとジョシュアちゃん!じじいじゃないもん!」
「先に教えてるなんて感じ悪ぅ!」

ジョシュアのじじい扱いにぷくっと頬を膨らませて抗議する二人の様子は可愛らしい…子供そのものだ…。
これは魔法使いの見た目年齢は当てにならんな…とその様子を眺めていると、2人の抗議に対しツンとそっぽを向いていたジョシュアが私に視線を向けた。

「俺はもう行く、そう余裕もないからな。」
『うん…今まで本当にありがとう。お世話になりました。』
「ああ。」
「そうか…寂しゅうなるのう。」
「寂しいのう…。」

私のお礼に頷きを返すとジョシュアは私達に背を向けた。
彼の行く先は教えてもらえなかったけど、心のどこかでもうジョシュアに合うことは無いかもしれない…なぜかそうと思った。
しばらく、彼の立ち去った方をぼんやりと眺めていると控えめに袖を引かれる。

「自己紹介が遅れたの、我はスノウ。ジョシュアから我らのことは聞き及んでおるか?」
「我はホワイト。我らは見ての通り双子…2人で1つ。ジョシュアとは旧知でな…少し前からお主の面倒を頼まれたのじゃ。」
「そうだったんですか…私は玉銘あおいです。困ったらお2人のことを頼るように言われています…あの…これからよろしくお願いします。」

私は2人に対して頭を下げた。
すると2人はころころと笑った。

「ジョシュアが連れてくるとは、一体どんな子かと思っておったが。」
「この子はどこか賢者に似ておるのう。」
『え…賢者様…?』

私が賢者様に似ている?一体どういうことだろうか?

「ジョシュアから、お主は<大いなる厄災>や魔法のない異界からやってきたと聞かされておる。」
「その境遇と、礼儀正しく硬い態度をとる所がよう似ておる…賢者もお主と同じ年頃の娘じゃから、仲良うなれるかもしれんの。」

そう言うとスノウ…さんとホワイトさんはまたきゃっきゃと笑い合っている。
賢者様、同い年位の女の子なんだ…。どこかほっとした。
でも、本当に急にお世話になってもいいんだろうか…2人は見た限り歓迎してくれているようだけど、ここには他の魔法使いさんたちやそれこそ、賢者様がおられるんじゃ…今更ながらに不安になってきた。


『あの、私…本当にお世話になってもいいんでしょうか?いや、私としてはとてもありがたいお話なんですが、その…賢者様や、魔法使いの皆さんのお邪魔になってしまうんじゃ…』

ここで、じゃあ出ていけと言われても私に行く当てなんてない。それでも、気になってしまった。
同居人に嫌われながらのうのうとシェアハウス生活を送れるほど私のメンタルは強くない。それに、ジョシュアと別れたこともあって、じわじわと心細さを感じ始めていた。
気まずさと不安と心細さから思わず俯くと、2人は私の顔を覗き込みながらほっほっと笑った。


「心配するでない。賢者には話を通してある。同じ境遇の娘が来ると知ってどこか嬉しそうじゃった。」
「他の者にも、お主のことは伝わっておる。魔法舎は人間の出入りも頻繁ではないがあるからの…大半の者は心配ない。それにそなたは魔法使いに対して攻撃をしたり、恨んだりするわけじゃなかろう?」
『しないです!!…そっか…安心しました…。』
「今は出かけておっておらんが、賢者はお主に合うのを楽しみにしていた様じゃ。帰ってきたら会うてやってくれ。」


2人に励まされ、問いに答える頃には不思議と大丈夫だと思えた。顔を上げ、2人の方を見る。
スノウさんとホワイトさんはこちらをまっすぐ見ていた。


「「それにお主はあのジョシュアからの預かりもの。…遠慮せず我らを頼ると良い。」」


『?…ありがとうございます…。』

最後の言葉と、意味ありげな視線には引っかかる所があるけれど…きっと上手くやれそうだ。
会うのを楽しみにしてくれていたという賢者様にも、会ってみたいと思えた。
2人もこう言ってくれているし、多くの魔法使いや賢者様と過ごすことができるなんてなかなか出来ることじゃない。
せっかくジョシュアがくれた機会なのだから楽しまなないと…前向きな考えを持つと、途端にこれからの生活が楽しみに思えてきた。

『これから…よろしくお願いします。スノウさん、ホワイトさん。』
「「よろしくねー!!」」

「さ、魔法舎を案内をしよう!」「ついて来るのじゃ!」


楽しそうに声を弾ませるスノウさんとホワイトさんに手を引かれ、私は魔法舎に足を踏み入れた。

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