出会い
運命の出会いなんて正直信じてなかったけど、オレたちが出会ったのは間違いなく運命だったと、今では思う。
オレが奈々美と出会ったのは、冬と呼ぶには暖かく、桜が咲くには少し早い。そんな季節だった。
その日俺は入学説明会と、オリエンテーションと…まぁ、その他諸々、高校に入る手続きを行うために、4月から通う高校へと足を運んでいた。
と言っても、春休みから何度かサッカー部の練習に参加させてもらっていたオレにとっては、この通学路も最早慣れた道になりつつあって、今日はいつもと違う道でも歩こうかなんた、進路を変えた先に、それは落ちていた。
「受験番号100番、片瀬 奈々美…?」
拾ったそれは受験票だった。
確か受験票は今日行われる諸々の手続きの際に必要だったはずだ。どうしたもんか。と思いながらも、拾ってしまった手前そこに放置しておくわけにもいかず、とりあえずオレはその受験票を手に足を進めたのだった。
学校の敷地内に入って思わずため息をついた。
この地区じゃ人気なうえ、スポーツも強い学校だ。そりゃ生徒数も半端ない訳で…。受験票の持ち主を探すのは骨が折れそうだ。なんて思っていた矢先、校門の近くで肩を落としながら鞄を漁る二つ結びの女子と、その傍に立つボーイッシュ系の女子が目に入った。
「どうしよう、見つからない…!」
「やっぱり家に置いてきたんじゃないの?」
「そんなぁ…!絶対持ってきたのに…。一応家に電話してみる」
「そうしな。私、届いてないか聞いてくるよ」
まさかと思い近付いてみると、俯きながら電話をしている二つ結びの彼女は、はっきりと"受験票なくした"と電話の相手に伝えている。
すぐに持ち主が見つかってラッキー。なんて思いながらも、電話の最中に声をかけるは不躾だと思い、オレは少し離れたところで電話が終わるのを待つことにした。
電話はその後すぐに終わり、いざ声をかけようと近付いたタイミングで、彼女はその場にしゃがみこんでしまった。あまりの落ち込みように、電話中でも渡してあげた方がよかったかな…。なんて思いながら彼女の前に立ち声をかける。
「ねぇ」
「あぁ…なんでこうなっちゃうんだろ…」
「あれ?もしもーし」
「柚香ちゃんにも迷惑かけてるし最悪だ…」
彼女は完全に自分の世界に入っていて、俺の声は一切届いてない。鼻をすする声が聞こえてきて、えっ?!泣いてる?!とオレは慌てて彼女の前にしゃがみ、少し大きめの声で話しかける。
「大丈夫?!」
「わっ!!ななな、なんですか?!」
声をかけられた反射で俯いていた顔を上げた彼女に思わず見惚れる。透き通るような肌に、大きな目、長い髪はさらさらと風に靡いている。え…めっちゃタイプ…。煩悩に抗えずそんなことを考えながら、本来の目的を忘れ彼女を見つめていると、頭上から第三者の不機嫌な声が降ってきた。
「何やってんのあんた」
顔を上げると、あのボーイッシュ系女子。
そしてその顔の眉間には深く皺が刻まれている。
「え?あ、いや、俺は…」
「ナンパなんて度胸あるね」
ほら、行くよ。と、その子は目の前の二つ結びの女子の腕を掴んで立ち上がらせる。って、は?ナンパ??俺が?この子を??
「なっ、ナンパじゃないよ!!」
心外なことを言われ思わず声が大きくなったけど、そんな事気にしてられない。目の前の2人は案の定キョトンとした顔で…いや、ボーイッシュ系女子は眉間の皺を更に深くして俺を見る。
「じゃあ何の用?」
「これ、その子のかなって思って声かけただけ!」
ほら。と先程拾った受験票を彼女に渡す。俺から受け取った受験票を確認し、間違いなく自分の物だとわかった時の彼女の笑顔の破壊力はそれはもうすごかった。と、今でも思う。
「ありがとう!!ねぇ、柚香ちゃん見て!私の受験票!やっぱりちゃんと持ってきてた!」
「落としてたけどね」
本当にありがとうね!と、笑顔で言う彼女に、無事渡せてよかったよ!と、同じく笑顔で返せば、彼女の頬が少し赤く染まった気がした。
かわいいな。と心の中で思いながら、それじゃあ!とその場を後にしようとする俺を、あのっ!と呼び止める声が響く。
「ん?」
「あの…えっと、そうだ!名前!…聞いてもいいですか?」
「あっ、そっか!春原 百瀬だよ!」
「すのはら、ももせくん…」
生まれてこの方何百回と呼ばれている名前のはずなのに、彼女の唇から紡がれた自分の名前に、思わずドキッと胸が高鳴る。えっ、なんだこれ、なんかめちゃくちゃ恥ずかしい…!
時間としてはほんの数秒、見つめあって動かない俺たちに痺れを切らしたように、咳払いが聞こえた。
「奈々美、そろそろ行くよ」
「えっ?!あ、そうだよね。待たせちゃってごめんね。すのはらくんも、呼び止めちゃってごめんなさい」
眉を下げながらぺこっと頭を下げる彼女に、全然大丈夫!!と伝えようとするが、柚香と呼ばれていたボーイッシュ系女子の、ほらいいから早く!という声によって遮られてしまった。
そしてボーイッシュ系女子は最後に俺をひと睨みし、そのまま彼女の腕を引っ張り受付へと向かったのだった。
なんであんなに睨まれなきゃいけないんだ。とか、親切にしてやったのに。とか、思うところはいろいろあったけど、腕を引かれながら歩く彼女が振り向き、笑顔で手を振ってくれたから、そんなことはどうでも良くなってしまった。
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