入学式
「あれ?ナンパ野郎じゃん」
そんな声に振り向くと、そこに立っていたのはいつぞやかの、ボーイッシュ系女子だった。
入学初日、オレはいつもより早く目が覚めた。
昨日の夜は緊張でなかなか寝付けなかったのに、意外と頭はスッキリとしている。
真新しい学ランに袖を通し、鏡の前に立つ。中学はブレザーだったため、少し照れくさいが、学ランもありだな。なんて思いながら、準備を進める。そして早く起きたし折角だから、とそのまま予定より早く登校した。
校門の前に立っている先生に挨拶をし、昇降口に貼り出されてるクラス表から自分の名前を探す。オレのクラスは1年3組だった。
教室に向かってる途中でふと思い出す。そう言えば、入学説明会の時に会った彼女の名前は何だったっけ。顔はしっかりと覚えているが、受験票に書かれていた名前は、去り際のあの笑顔によってすっかり頭から抜けてしまっていた。
まぁ、そのうち会えるかな。できれば早く会いたいな。なんて、呑気なことを考えていたら教室に着いた。中に入るとまだ数人しか来ておらず、とりあえずみんなに、おはよー!と声をかけ、黒板に貼られている座席表を見る。
席は男女交互の席順で、オレの席は一番うしろ。ラッキー!なんて考えながら携帯をいじっていたのが15分位前。
そして、冒頭に戻る。
「あれ?ナンパ野郎じゃん」
「ちょっ!ナンパ野郎じゃないから!」
入学初日から不名誉な名前付けないでよ。と、睨みつつ言えば彼女は、はいはい。と言いながら俺の前の席に座った。ん?座った?
「このクラス?」
「じゃなかったらここに居ないでしょ」
まぁ、正論だ。それにしても、まさか入学して一番最初に話すのがこの子だとは想定外だった。てか、あれ?この子がいるってことは、もしかして!なんて淡い期待を抱きながらクラスを見渡す。俺が来たときより随分人が増えていて、所々女子のグループができていたが、彼女の姿は見当たらなかった。
「残念ながらあの子は6組だってさ」
「えっ?!別に探してたわけじゃ…!」
「…あんた、わかりやすいね」
頭の中が読めているかのような発言に焦り視線を泳がす俺に、呆れ顔を見せた後また携帯に視線を戻す目の前の彼女。そっか、あの子は6組か。階も違うし、なかなか会えないかな。なんて思っていると、前から視線を感じ、顔を向ける。
「あんた、名前は?」
「春原 百瀬」
「ふーん」
人の名前を聞いておきながら、ふーん。って…。と思いながら、自分は名乗らず再び携帯に視線を戻した彼女に、君は?と聞くと、木下 柚香。とだけ返ってきた。もちろん木下は携帯をいじったままだ。
「って言うか、女子と話さなくていいの?」
「私女子のグループって苦手なんだよね」
「じゃあさ、あの子の話を…」
「は?」
あんたに話す事なんて無いから。と、睨まれたオレは、あ…はい…。と言いながら、心の中で思った。やっぱり女子って怖いな、と。
その後木下と話しながら入学のしおりやら、クラス名簿を見ていたら、あっという間に高校生活最初のホームルームの時間になった。
担任の先生の挨拶をうけ、みんなで体育館に移動して、そしていよいよ入学式。
いくら入学式と言えど校長先生の長い話や、祝辞、在校生からのお祝いのことばは正直退屈だ。それらをあくびを噛み殺しながらなんとか乗り切ったオレだったけれど、今朝無駄に早く起きたツケが回ってきたのか、眠気の限界を迎えていた。新入生代表のことばは申し訳ないけど目を閉じていよう。心の中でこれから登壇するであろうその人物に謝りながら、オレは目を閉じる。それも束の間、新入生代表の名前を聞いて、一気に目が覚めた。
「新入生代表 片瀬 奈々美」
聞き覚えのある名前に、オレは慌てて目を開ける。はい。と言う、凛とした声が体育館に響き、1人の生徒が体育館の舞台へと歩いていく。
校長先生と向き合うように演台の前に立つその後ろ姿は、受験票を落として半ベソをかいていた事なんて想像もできないほど美しかった。
いや、もしかしたら同姓同名で違う子かも。
そんな事を考えながら、彼女のことばに耳を傾ける。
「暖かな春の訪れと共にー…」
彼女の口から紡がれる言葉は心地よく、いつまでも聞いていたいなんて思ってしまうほどだった。しかしそんな願いは叶わずに、あっという間に終わってしまった彼女の挨拶。拍手を浴びながら階段を降りている彼女の顔を見て、やっぱりあの時の子だ。と、一方的な再会の訪れに嬉しくなった。それと同時に周囲からヒソヒソと話す声が聞こえた。
「なぁ、あの子かわいくね?」
「だよな!あとで声かけようぜ」
「顔ちっちゃーい!」
「っていうか、肌めっちゃ白いよね」
どうやら、男女問わず大半の生徒が彼女へ興味を持ったようだ。かわいいもん。仕方ないよね。なんて思いながら彼女を目で追っていると、一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女と目が合った気がした。
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