幼馴染 兼 番犬
入学してから早1ヶ月。なんとなく学校生活にも慣れてきてクラスで仲良い子もできてきた。そんなある日の昼休みだった。
「おい、木下!!片瀬さんが来てるぞ!!」
「は?」
クラスメイトの男子の声に振り返り、そのままドアの方を見ると、そこには気まずそうな表情をした奈々美が顔を覗かせていた。
入学式で新入生代表として挨拶をした奈々美は、今では校内でちょっとした有名人になっていた。それもそのはず、みんながみんな才色兼備な彼女とお近付きになりたいと思っていたからだ。
と言っても、奈々美はかなりの人見知りで、友達を作るのも苦手で基本は一人で行動する。そんな彼女をみんなは"クールな子"と解釈し、いつしか奈々美は高嶺の花と思われるようになったのだった。
とまぁ、その話は置いておいて、私は一緒に駄弁ってた友達に断りを入れて廊下へと向かう。
「何、どうしたの?」
「あのね、次体育なんだけど、体操着忘れちゃって」
だから柚香ちゃんの貸してもらえないかなって思って…。と、胸の前で手を合わせてお願いしてくる奈々美に思わずため息が出た。
私の奈々美はいわゆる幼馴染みってやつだ。
今では高嶺の花なんて言われている彼女だけれど、実際はしっかりしているように見えて抜けている、泣き虫の甘えたちゃんだ。そんな奈々美の面倒を、私は幼い頃からずっと見てきた。
つい先日、高校生になったらちゃんと自立するから!なんて言ってたのはどこの誰だったのだろう。
そんな事を考えながら、あー…。と歯切れ悪くいう私に、奈々美が首を傾げる。
「今日、うち体育ないから部活用のジャージしか持ってきてないんだよね…」
「ええっ…!どうしよう…」
「私の友達に聞いてみれば?」
そう言ってさっきまで駄弁いた友達に目を向けると、奈々美は、うっ…。と唸った。恐らく、人見知りを発揮してるんだろう。
「いや…そこまでするのは…」
「じゃあどうすんの?」
「えっと…」
目を泳がせ始めた奈々美は、何かを見つけたようで、一瞬にしてぱーっと顔を輝かせた。不思議に思い奈々美の視線の先に目を向けて私は思わず、げっ!と声を漏らした。
そこには、奈々美に会わせたくない人物No.1の春原 百瀬が居たからだ。
なぜ会わせたくないかって?そんなのは単純明快、入学説明会の日にあいつと出会ってから、奈々美があいつの事を妙に気にしているからだ。
女の子の友達ができるのは大歓迎。でも、男子は別!今までだって奈々美に悪い虫がつかないようにしてきたし、高校でだってこの数週間既に何人もの悪い虫を蹴散らしてきたのだ。
幸い、今まで奈々美が私を訪ねてくる時は、春原はいつも席を外していて、この2人の再会はなんとか免れていた。いや、今思うと、寧ろ今までよく再会しなかったな。
そんな事を考えていたら奈々美が、すのはらくん!と彼の元に駆け寄って行くのが見えて、私は慌てて追いかける。
「へっ?!」
「あれ?すのはらくん、だよね…?」
違った…?と、首を傾げる奈々美を見て、そっ、そうだよ…!と言いながら顔を赤くする春原を私は睨みつける。何顔赤くしてんの。おまえ、奈々美に手を出したらただじゃおかないからな。そんな気持ちを込めて睨みつけてるのに、春原は目の前の奈々美に夢中で全く気付いていない。
「すのはらくんも3組なの?」
「えっ、あ、うん!そう!」
「私何回か遊びに来てたのに会わなかったね。また会えて嬉しい!」
にっこり笑った奈々美と、それを見て更に顔を赤くする春原に、思わず眉をひそめる。
奈々美は人見知りだけれど、仲良くなればよく話すしよく笑う。いつもは仲良くなるまでが長いのだけれど、出会ってからかなり日が経ってるにも関わらず春原と普通に話せているのは、奈々美にとって春原が恩人だからだろう。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、奈々美はそういう子だ。
楽しそうに話しかける奈々美に対して、同じく楽しそうに、しかしどことなく落ち着きなく話す春原のが気に入らなくて、私は2人の話を遮るように声をかける。
「奈々美、体操着どうするの?」
「あっ…!そうだった…」
そう言いながら慌ててスマホで時間を確認する奈々美に、体操着?と今度は春原が首を傾げた。
「そう。次体育なのに、体操着忘れちゃって柚香ちゃんに借りに来たんだけど…」
「あぁ…うち今日体育無いもんね」
察しのいい春原に、そういう事。と頷けば春原は、信じられない言葉を放った。
「オレの使う?新品のロッカーに入れてあるし」
「はぁ?!」
信じられなさすぎて、奈々美が反応するよりも早く反応してしまった。何言ってんだこいつ。奈々美は奈々美で戸惑いながらも、いいの…?なんて言ってるけど、いいわけがない。
「絶対ダメ。春原も何考えてんの?ありえないんだけど」
「なっ!オレはただ親切心で…!」
「親切心?へぇ〜?下心じゃなくて?」
春原は私の言葉に、うっ…!と詰まりながら、なにやらごにょごにょ言い始めた。そんな私たちを見ていた奈々美が突然、ぷっ!と吹き出し笑い始めた。
「奈々美、なに笑ってるの?」
「ごめん、なんか2人のやりとりおもしろくて」
両手で口元を抑えてくすくす笑っている奈々美と、そんな奈々美に見惚れている春原。
「いつまで笑ってるの。いいから、ほら、体操着借りに行くよ」
私は問答無用で奈々美の手を掴み、教室でまだ駄弁ってるであろう友達の元へと足を進める。
ふと後ろを振り返ると、廊下のど真ん中にしゃがみ込んだ春原が目に入って、私は人知れず再び眉をひそめた。
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