意外と純情?




とりあえず2日ほど有給をもらったのを良いことに、目覚ましをかけずに寝た私が目を覚ましたのは9時過ぎ。
一方、万理は6時に仕事へ向ったらしく、その時間に、出かける時はちゃんと戸締り!と、まるで母親のようなラビチャが入っていた。



万理から借りたスウェットを脱ぎ、昨晩のうちに洗濯と乾燥をかけていた服に着替えて軽くメイクをした私は、ひとまず生活必需品の買い出しに行く事にした。
その他諸々の手続きと、家探しもしなきゃな。と思いながら一通りの買い物を終え、一息つくためにカフェに入りしばらく経った頃、隣の席から視線を感じた。
確か隣に座ったのは若い男の子だったような…。
ちらりとそちらを見やれば、あっ!やっぱり!と声をかけられた。



「奈々美さんですよね?万理さんの彼女の!」

陸です!覚えてますか?と、にこにこ笑っている彼はIDOLiSH7のセンターの七瀬陸だった。覚えてるも何も今朝テレビで見たよ。って言うか、眼鏡かけているけれどそれほぼ変装になってないよ。なんて言いたいことはいろいろあったけれどとりあえず、こんにちは。とだけ返す。

「買い物ですか?」
「うん、そう。君は?仕事じゃないの?」
「俺今日はオフで、この後レッスンなんです!」

なるほど、万理はMEZZO"の方だからあんなに朝早かったのね。なんて1人納得していれば、そうだ!と、七瀬陸が鞄から何かを取り出しながら声を上げた。

「あの、よかったらこれどうぞ!」
「えっ?」

手渡された封筒に入っていたのはIDOLiSH7のライブのチケットだった。それは所謂関係者席ってやつで、券面に【招待】なんて書かれている。

「いやいや!受け取れないよ」
「これ奈々美さんの分なんです!俺たちのライブ観たことないってこの前言ってたから、是非観て欲しいよねってみんなで話してて!それで、今日レッスンの後万理さんに渡そうと思ってたんですけど」

ちょうど会えたので!と嬉しそうに言う七瀬陸の笑顔に断りきれず、私は思わずそのチケットを受け取ってしまった。私がチケットを受け取った事に安心したのか、七瀬陸は再び私に笑顔を向けた後、それじゃあ、俺はそろそろ行きますね!と颯爽と去っていった。
1人取り残された私は、改めて手元のチケットに目を落とす。日程はちょうど1ヶ月後。まだ時間もあるし、気が向いたら行こうかな。と、私はそのチケットを手帳に挟んで、カフェを後にした。




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家に帰ると、奈々美が当たり前のように夕飯を作っていた。おかえりー。と声をかけられ、それにただいま。と返す。それだけの事だし、初めてではないはずなのに、なんだか無性に落ち着かなくて、いつかのようにスーツをハンガーにかけて、換気扇の下でタバコに火をつけた。


「万理って結構吸うんだね」
「え?あぁ…まぁ…」


おまえといると落ち着かなくて本数増えるんだよ。なんて言えるわけもなく曖昧な返事を返す。そしてそれを誤魔化すように、それより今日どうだった?なんて当たり障りのない話題を振った。

「んー、とりあえず買い物して、諸々の再発行の手続きとかして物件見てきたけど、やっぱこの時期ダメだね」
「春先だもんなぁ…前見に行ったところは?」
「一応聞いてみたけど、もう決まっちゃったって。残ってるのはボロいアパートか、馬鹿みたいに高いマンションくらい」

俺がタバコの火を消すと同時に、職場の近くのホテルでも取ろうかな。なんて言いながらテーブルに料理を並べ始めた奈々美を手伝いつつ、あのさ。と声をかける。



「昨日も言ったけど、別に好きなだけ居ていいから。部屋いるなら、奥の部屋片付けるし。ここなら無駄に金だってかかんないんだから」
「いや、それはなんか、悪いし…」
「今更何言ってんの」

そう言ってため息をつけば、そうだけど…。と呟きながら視線を落とした奈々美の代わりに、残りの料理を運ぶ。相変わらずの立派な料理に腹の虫が鳴いた。
俺の言葉が刺さったのか奈々美の表情はすっかり落ち込みモードで、逆に罪悪感が芽生えて、俺はある提案をした。



「じゃあ、毎日料理作って」
「え?」
「あと、洗濯と掃除。それだけしてくれれば、好きなだけ居ていいよ」

俺の提案に驚いた奈々美だったが、数回瞬きをしたあと、眉間にシワを寄せた。

「でも、それだけじゃ割りに合わなくない?」
「じゃあ毎朝のキスも追加で」
「はい、クズ、最低。お世話になりました。今すぐ出て行きます」


早口でそう言った奈々美に、冗談だよ。と笑いながら椅子に座れば、奈々美もそれに続いた。未だにぶつぶつ何か言っている彼女を尻目に、いただきます。と手を合わせて箸を進めていく。
奈々美の料理は本当に美味しくて、毎日食べたいと思う。胃袋を掴まれるとはこう言う事を言うのだろうか、そんな事を考えていたら、あのさ。と奈々美が言葉を溢し始めた。


「本当にいいの?」
「ん?いいよ」
「彼女でもなんでもない女と住むの嫌じゃないの?」
「別に。気になるなら、本当の彼女にでもなる?」


無意識のうちに口にしていたその言葉に、思わず動きを止める。いやいや何言ってんだ俺。すぐにいつもみたいに冗談だよって言えよ!なんて心の中では思ってるのに、冗談にしたくない自分がそれを邪魔する。
でも奈々美の事だし、顔を赤くしてたりして。様子を伺うように奈々美を見やれば、眉間にシワを寄せ目を細めていて、なんともまぁ…可愛くない顔をしていた。


「顔やば…」
「…悪かったわね。あーあー、やだやだ。そうやって何人の女の子を誑かしてきたんだか」
「冗談だって」
「でしょうね、本気だったとしても答えはノーだけど。私誠実な人がタイプだから」

肩を竦めながらそう言った奈々美に、誠実な人?と思わず鼻で笑ってしまった。

「浮気が原因で別れたくせに?」
「なっ…!あんただって、高校生の時彼女に浮気されて別れたじゃん!」
「よく覚えてるな…」

口ではそう言いながらも、奈々美の言葉が心に刺さって地味にショックを受ける。
そうか、本気だったとしても無しなのか。どうしたらこいつを落とせるんだ?やっぱ手っ取り早く…いや、でもそんな事したらまじで出て行くだろうし、挙げ句の果てには縁も切られそうだ。

今更ながら、こいつ意外と難易度高い女なのか?なんて頭の中で考えていたら、奈々美が何かを思い出したかのように、あ!と声を上げた。


「高校で思い出した。あれ行く?」
「あれ…?」
「なんか、東京にいるメンツで飲み会しよーってやつ、プチ同窓会的な。たしか今週の金曜日だったと思う」
「あぁ…なんかラビチャ来てたかも…?」

随分前に既読だけつけたラビチャをぼんやりと思い出しながら、行かないかな。と、呟けば、ふーん。と興味のなさそうな返事が返ってきた。

「私、行くつもりだったんだけど、こんな事になっちゃったし、辞めとこうかなぁ…」
「え?それとこれとは関係ないだろ」
「いや、万理行かないのに行くのも、なんかさぁ…」
「俺は仕事があるから行かないだけだよ」


気にせず行ってこいよ。と告げれば、じゃあ行こうかな。と呟いた後ありがとう。と嬉しそうに笑った奈々美を見たら、さっきまでどうやって落とそうかなんて考えてたくせに、一緒に居られるならなんでもいいか。と言う考えに落ち着いた。



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