とある昼休み
昼休み、のんびりとお弁当を食べながらサッカー雑誌を読んでいると、クラスの女子の話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、知ってる?6組の片瀬さんって、モデルの仕事してるらしいよ!」
「えー!すご!」
聞こえてきた名前に、俺は思わず顔を上げた。6組の片瀬さんって言うのは多分彼女のことで…それよりも、え、モデル…?モデルって、あのモデル?そんな事を思いながら彼女たちの話に聞き耳を立てる。
「まぁ可愛いし納得って感じ」
「でもさー、あの子なんか絡みづらく無い?」
「たしかに〜!話しかけても反応薄いしね!」
そう言って大声で笑う彼女たちがなんだかちょっと嫌で、俺は残りのお弁当を口の中に詰め込み、財布を片手に自販機へと向かった。
片瀬さんとは、つい先日の昼休みに会って以来特に会う事もなかった。もっと話したいな。偶然会えたりしないかな。そんな気持ちを抱きながら到着した自販機の前に、お目当の彼女が立っているのを見つけた時は、嬉しすぎて、あれ?幻覚かな?なんて思ってしまった。
彼女の他に自販機の利用者は居ないようだが、すれ違う生徒たちが彼女を振り返ったあと、コソコソと何か話している様子が目に入る。その話の内容はおそらく、クラスの女子達が話していたのと同じなのだろう。
それに気付いているのかいないのか、彼女は自販機の前で顎に手を当てて小さく唸っている。
通り過ぎる生徒も居なくなり、今この場には俺と片瀬さんしかいない。話しかけるには絶好のチャンスだった。
「悩んでるの?」
「あっ!ごめんなさい…!」
そう言って自販機の前から退いた片瀬さんが、ぱっと顔を上げて、あれっ?すのはらくん?と、俺の名前を呼んだ。たったそれだけのことなのに、思わず緩みそうになる口元に力を入れる。
「何で悩んでたの?」
「えっと、ミルクティーにするか、いちごみるくににするか…でも、今になってりんごジュースもいいなぁって思い始めて」
って、悩みすぎだよね。と照れたように笑う片瀬さんに、胸がキュンと高鳴った。すのはらくんは?と質問されて、スポドリ!と答えた俺に片瀬さんは、納得したように頷いた。
「すのはらくん、サッカー部だもんね」
「えっ?」
「あれっ…?サッカー部、だよね?」
いや、そうなんだけど、なんで知ってるんだろう。そんな話一度もした事ないのに。そんな疑問が顔に出ていたのか、片瀬さんは少し慌てて、えっと!と、声を上げた。
「あのっ、この前放課後練習してるのたまたま見かけて…!だから知ってるだけで…!」
きょろきょろと目を泳がせて、なぜか少し顔を赤くしている片瀬さんに、俺は思わずぷっと、吹き出し、声を上げて笑ってしまう。
「す、すのはらくん…?」
「あぁ、いや、そんなに慌てなくてもいいのに!って思って」
「…一方的に知られてるのって、なんか嫌かなって」
眉を下げて俺の顔色を伺うようにそう言う片瀬さんがかわいくて、また胸がキュンっと高鳴った。今日の俺の心臓はなにやら落ち着きがない。
「全然!むしろ知ってくれてるの嬉しい!片瀬さんはさぁ…」
俺が話を続けようとしたタイミングで、午後の授業開始の予鈴が鳴る。2人で、え?!もうそんな時間?!と慌て始める。俺は自販機にお金を入れて、スポドリとりんごジュースを1個ずつ買い、はい!とりんごジュースを片瀬さんに手渡す。
「あげる!」
「えっ?!あっ、これ、お金!」
「いいよいいよ!その代わりさ…!」
俺の言葉に、片瀬さんが大きく目を見開いた。
夜、日課のストレッチを終え、ベッドの上でスマホと睨めっこをしている。と言うのも、今日の昼休みりんごジュースと引き換えに手に入れた片瀬さんのラビチャへ送る内容を考えているからだ。
学校じゃなかなか会えないし、今しかない!と勇気を振り絞って聞いた連絡先、下手な事は送れない…!なんて散々悩んだ挙句
–春原だよ!よろしく!
なんて、なんの面白味もない内容を送ってしまい、あー!なんて叫びながらベッドの上を転がっていると、すぐに返事が来た。
–片瀬です。よろしくお願いします。
たったそれだけの、シンプルなメッセージなのに、頭の中では彼女の声で再生されて、思わずにやける。しばらくぼーっと画面を眺めていると、もう一通メッセージが届いた。
–すのはら、って春原って書くんだね。どういう字なんだろうって、気になってたの。
まさか彼女から話題を振ってもらえるとは思っていなくて、先ほどとは比べ物にならないくらい口元がにやける。それに対して返事を送れば、そこから何通かやりとりが続いた。
今は数学の課題をやり終えたところだとか、音楽の先生が個性的だとか、そんな他愛のないやり取りを数件続けたあと、俺は意を決してこう送った。
–いきなりだけどさ、明日一緒にお昼食べない?
送ると同時に既読が付く。しかしなかなか返ってこない返事に、緊張が募る。ようやく返ってきた返事は、ごめんなさい。という文字で、俺は肩を落とす。はぁ…。とため息をついて天井を仰いでいると、続けてメッセージが届いた。
–明日は用事があって、午後からの登校で…
用事、と言うのはモデルのお仕事なんだろうか。今日の昼休みに得た情報をぼんやりと思い返していると、続けてもう一通メッセージが届いた。
俺はそのメッセージを見て、思わず小さくガッツポーズをした。
–でも、明後日なら大丈夫だよ!
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