王道ルートは歩ませない
「ただいまー」
仕事が終わり帰宅して、未だにに慣れない挨拶をするが、いつもするはずの食欲をそそる匂いと、おかえりの言葉が無いことに首を傾げた。そして、スマホで時間と日付を確認して、あぁ。と一人呟く。
今日は金曜日で、時刻は間も無く20時を30分ほど過ぎるところ。先日奈々美が言っていた、プチ同窓会の真っ最中だった。
仕事があるからという理由で断った今回の集まりだったけれど、本当はただ単純に面倒くさいというのが本音だ。
あいつは今頃楽しんでるのかな。なんて考えながら、冷蔵庫から奈々美が作り置きしてくれてたおかずを取り出す。冷蔵庫を閉める瞬間にきれいに並んでいる缶ビールが目に入る。
そう言えば明日は休みだったっけ。とネクタイを緩め、ビールを1缶一緒に取り出した。プルタブに指をかけると同時に、適当につけていたテレビからの、へえー!!なんて大きなリアクションに思わず目を向ける。
『じゃあお2人は、同窓会で再会してご結婚されたんですか?』
『そうなんです。俺は高校時代彼女の事が好きでー…』
そんな見知らぬ夫婦の馴れ初めを聞いて、ビールのプルタブを開ける指が不意に止まった。
『高校時代好きだった人と同窓会で再会して結婚』
よく聞くことだし、珍しくも無いのだろう。なんなら、結婚に焦りを感じ始める年代からしたら、わりと王道ルートってやつだったりするのかもしれない。だけど妙に気になるのはきっと、今日の集まりの中に高校時代奈々美の事を好きだったやつが、何人か居るのを知っているからなのだろうか。
地元の友人には絶対に言わないという約束通り、あいつは絶対に俺との関係を公言しないだろう。言い寄られてもきっとうまく躱せるだろうし、一夜の過ちを犯すタイプでも無い。だから大丈夫だろうとわかっていても、でももしも、何か起きたら…。なんて、女々しい考えが頭を過ぎる。
「…本当、余裕ないなぁ」
賑やかなテレビを消して訪れた静寂の中に、はぁ。と大きなため息が響いた。出したばかりの缶ビールとおかずを冷蔵庫に戻し、スマホと財布と車の鍵だけを持って、俺は足早に家を後にした。
そして以前集まりの誘いをもらった時のラビチャを見返して、店の住所をナビに入れる。周辺のコインパーキングも数カ所調べつつ、迎えに行くから。なんて一方的なラビチャを奈々美に送り、俺は車を走らせた。
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「かんぱーい!」
金曜日夜19時に始まった高校のプチ同窓会は、男女合わせて15人ほどの中規模な飲み会だった。幹事の乾杯の掛け声とともに各々グラスをあわせて近くの席の人と話していく。
久しぶり!なんて言葉をかけあいながらアルコールを片手に、元気だった?今どこでなんの仕事してんの?なんてありきたりな質問に、みんなが差し支えない範囲で答え出す。
「今は六本木でOLしてるよ」
「えー!六本木とかおしゃれ!私なんて地元のスーパーでパートだよ」
「でも、結婚して子育てしてんだろ?すげーよなぁ。俺は不動産会社」
「あー、横田めっちゃ家売ってそー!ね、奈々美もそう思わない?」
「え?」
「いや、どんな感想だよ!」
心の中で全く同じツッコミをしていた私は思わず声を出して笑った。
そしてそれから暫く、各々仕事や家庭への愚痴をこぼしていたが、いつしか話題は同窓会の醍醐味、高校時代の思い出話へ。
英語の先生のクセが強かった話。クラスでの打ち上げの話。部活の話。体育祭とか文化祭とかまたやりたいよねなんて話もあがった。そんな中、話題に上がったのは万理だった。
「ってか、文化祭といえば大神くんだよね!」
「ねー!めっちゃかっこよかったよねー!」
「そういえば大神くん今日来ないんだね」
「たしかにー!」
残念がる彼女たちを尻目に、ここに居ないのに話題に上がる万理はさすがだな。なんて思うと同時に、彼はやっぱりそういう意味で人気なんだな。なんて考えたら、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけどモヤッとして、そんな気持ちを飲み込むようにグラスを傾けた。
楽しい時間というはあっという間で、思い出話に花を咲かせていたら、飲み会終了の時間まであと30分だった。二次会どうする?なんて話があがる中、大半の子が行くー!と声を上げながら挙手していたけれど、私は遠慮しとこうかな。と両手をグラスから離さなかった。
そんな私の手元に、目の前に座っていた友人の目線が向いたのがわかった。
「もしかして奈々美、今フリー?」
「えっ?あー…まぁ、そう」
左手を見られたときに、きっとその手の話題だな。とは思ったけれど案の定だった。
今、いろんな意味でその話には触れて欲しくないのに。そんな思いを込めながら私は両手をテーブルの下に隠すけれど、確か彼女は昔から人の恋愛話が大好きだったはずだ。これで終わるはずがない。
「もったいなーい!早く彼氏作りなよー!」
「え?!片瀬フリーなの?!はいはい!俺彼氏立候補しまーす!この後一緒に抜けようぜ!」
「ずりー!俺も!」
「あはは…遠慮しときまーす」
案の定続いたこの話題に、既に酔っ払っている少し離れた席の男子達が声をかけてきて、思わず乾いた笑みがこぼれる。そんな私に気付いたのか、隣に座っている横田が、それよりさぁ。と話を変えてくれた。
「片瀬、二次会行かないの?」
「あー…実は今居候してるから、あんまり遅くなるのもなぁって思って」
「居候?奈々美、一人暮らししてなかったっけ?」
「それが、最近家がなくなって」
「えっ?!なにそれどういうこと?!」
かくかくしかじか、訳を話せばみんな口々に漫画みたい…。と、私と同じようなリアクションを取るもんだから思わず笑ってしまった。
店員さんの、あと15分で終了のお時間です。と言う声に各々何となく返事をしながらスマホで時間を確認すれば15分くらい前に、迎えにいくから。と万理からのラビチャが届いていた。
「ってか居候って、親戚の家とか?」
「いや、今は万理の家に…」
会話をしながら、大丈夫だから!ってか、やめて!なんて万理へラビチャの返事を打っていた私は、はっ!とした。
気を抜いて、万理の名前を出してしまった。
万理の家に居候してるなんて言ったら絶対に騒がれる。あ!いや、えっと…。と慌てて目を泳がせたところで、私の先ほどの言葉を友人達が聞き逃しているはずもなく、えー?!なになに?!と声を上げた。
「万理って、大神くん?!」
「なに、もしかして一緒に住んでんの?!」
「付き合ってるってこと?!」
「フリーじゃないんじゃーん!!」
「えっ、いや!たしかに今万理の家でお世話になってるけど、本当ただの居候で!別に付き合ってるとかじゃなくて!」
きゃー!と騒ぎ出した友人達に、待って聞いて!と声をかけるも耳に入っていないらしい。こういう所昔と全く変わってないんだなぁ…なんて呆れていると、横田が声をかけてきた。
「じゃあ片瀬、もしかして今家探し中?」
「えっ?あ、そうなの」
「じゃあさ、さっきもちょっと言ったけど、俺今不動産会社で働いてるからさ、よかったら力になるよ?」
そう言って名刺を手渡してきた横田に、えっ!ありがとう…!と感動しながらその名刺を受け取る。詳しく聞きたくて口を開こうとしたタイミングで、今度は友人達がねぇねぇ!と話をかけてきた。
「大神くんと結婚とか考えてるの?」
「はっ、はぁ?!そもそも付き合ってないって…!」
「隠さなくてもいいって!奈々美、昔大神くんのこと好きだったもんね!報われてよかったじゃん!」
だーかーらー!と、声を大きくしたタイミングで、ガラッと背後の襖が開いた音がした。そして目の前の友人達が、目を見開いた後大声を上げる。
「大神くん?!」
「えっ?!」
いや、まさか。とゆっくりと振り向けば、そこには万理が立っていた。え?!なに、本当に迎えにきたわけ?!
「えっ!大神?!今日来れないって言ってたじゃんか!」
私の心の声を遮り男子達が、元気かよー?!なんて声をかけながら万理を囲う。
万理はにこにこと人の良さそうな笑を浮かべながら、仕事が早く終わったから顔出しに来た。と、言った後に私を一瞥して口角を上げた。
そんな万理の表情に、嫌な予感がして思わず顔が強張った。
え、いやいや、嘘でしょ?やめてよ…?!
「あと、彼女を迎えに」
友人達の、きゃー!という声がアルコールの回った頭に響いた。
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