女々しさに自嘲




朝、アラームよりも早く目が覚めた。
ベッドの上の万理はこちらに背を向けるような体勢で、まだ寝息を立てている。
昨日の事があってなんとなく顔を合わせづらくて、私は二度寝したい衝動を抑えながら早々に身支度を整えて、万理の家を後にした。



土曜の朝だというのに街には人が溢れている。
適当なカフェで適当に朝食をとって、さて今日は何をしようかと考えながらスマホをいじっていると、先日見ていた賃貸情報のサイトが目に入った。

そうだ、家を探さなければ。

万理の家に転がり込んで早1週間。
元々気を使うような相手じゃないということもあって、すっかり万理との生活に既に慣れてしまっていた。しかし、昨日自覚してしまった厄介な想いを抱えたまま、これ以上万理の家に居続けるのは賢明ではないだろうし、何より私が耐えられそうにない。
それなら。と、昨日横田からもらった名刺を鞄から取り出した。名刺に書かれていた住所はここからそう遠くないし、調べたらもう間もなく営業開始で、今から出たらちょうど良さそうだから、行ってみようかな。そんなことを考えていたら、画面に表示されたラビチャの通知。
相手は万理からで、私はなんとなくそれを無視した。





それから暫くして、私はとある不動産屋の前にいた。物件情報をそれとなく見た後、ガラス戸から中を覗けばお目当ての人物と目が合う。
すると彼は隣に座っていた女性社員に一言声をかけてから、こちらへやってきた。

「片瀬?!びっくりした」
「ごめん、暇だったから来ちゃった」

連絡してくれればよかったのに。と言いながら中へと招いてくれる彼、横田の後に続いて私は店内へと足を進めた。

「部屋探しの件だよな?」
「そう。ちょっと…なるべく早く見つけたくて」

目を泳がせながらそう言う私の言葉を特に気にするわけでもなく、横田は私の希望を聞いて早速物件を探し始めてくれた。そう言えば伝え忘れた。と、私は口を開く。


「できれば、2階以上で隣の家と近くなくて、駅からも遠く無い方がいい、かも」
「かもって?片瀬の希望でしょ?」
「いや、万理が…」

そこまで言いかけてまた、はっ!とする。また、当たり前のように万理の名前を出してしまった。弁解するように何かを言おうとしても、あっ、いや…。と下手な誤魔化ししかできない。

「あー…大神と付き合ってるんだっけ?」
「付き合ってない!から!」
「またまたー。昨日あんなの見せつけといてよく言うよ。あっ、こことかどう?」

横田はそう言ってPCの画面をこちらに向けてきた。外観も好みで家賃も予算内。その他諸々の条件も私の希望通りだった。見に行ってみたい!と興奮気味に言えば横田は、了解。とPCに何か打ち込み始めた。

「今日は俺、この後他の内見があって難しいんだけど、明日の午前中なら俺空いてるから一緒に行けるよ」
「明日平気!お願いしてもいい?」
「勿論。どうせなら他のところ何軒かまとめて回るか」
「神じゃん…!」

私の呟きに横田は、なんだそれ。と言って笑って、私もそれに釣られて笑った。その後、お喋りしながら物件情報を見ていたらあっという間に昼前になっていて、私は横田にお礼を言って不動産屋を後にした。
スマホで改めて時間を確認して、まだ帰るには早いなぁ。と、私はなんの目的もなく最近できたショッピングモールへと足を向けたのだった。






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朝、目が覚めてベッドの下の布団へと目を向ければ、それは既に綺麗に畳まれていた。
あいつ、もう起きてんのか。なんて考えながらリビングへ向かうも、そこにも奈々美の姿はなく、玄関には俺の靴だけが置かれていた。
土曜日仕事が休みなんて久々で、一緒に奥の部屋を片付けて奈々美が使えるようにしよう。と言っていたのはつい先日のことだったはず。


「あいつ、忘れてんのかよ…」


火を着けたばかりのタバコを咥えながら、どこに居んの?とラビチャを送るも、当然すぐに既読は付かない。
とりあえずなんか食べよう。と、冷蔵庫から奈々美が作り置きしてくれてるおかずを出して、レンジで温める。
そしてふと、以前はそれなりに自炊をしていたはずなのに、奈々美が最初に家に来た日から、全く料理をしなくなった事に気が付いた。自分の料理じゃ物足りなさを感じるようになってしまったのだ。今日は俺が作ってやるか。なんて思いながら、奈々美の料理を口に運んで俺は決めた。

やっぱり今日もあいつに作ってもらおう。






ラビチャを送ってから早数時間。
太陽は西に傾き始めているのに、未だに既読すらつかない。別に、何か事件や事故に巻き込まれたとかそう言う心配はしていない。どうせ奈々美のことだから、昨日の事があって気まずくて俺を避けてるのだろう。
そうはわかっていても、一緒に部屋を片付ける約束をしていたし、何より1日中2人で居られるのを、俺は柄にもなく楽しみにしていたのだ。それなのに…。と、せっせと部屋の片付けをしながら、そんな女々しい自分を自嘲する。
気晴らしに音楽でもかけようかとスマホを手にすれば、それと同時に1通のラビチャが送られてきた。
それは昨日の同窓会の幹事からで、どうやらみんなで撮った写真をわざわざ俺にも送ってきてくれたようだ。

ふと、奈々美の隣にいる人物に目を落とす。
そして昨日部屋に入った時、隣に座ってる彼を見て思わず顔を顰めそうになったのを思い出した。
彼、横田が奈々美のことを好きなのは、当時学校内では割と有名な話だった。それが奈々美本人の耳に入っていたかは定かではないが、事あるごとに彼女に声をかけていたのを覚えている。
まぁ、あいつにとってはただの仲の良い友達だっただろうし、昔のことだから大丈夫だろうけど。なんて自分に言い聞かせながら、俺はRe:valeの新曲を流して片付けを再開させた。





「おかえり」
「た、ただいま…」

奈々美がスーパーの袋を持って気まずそうに帰ってきたのは、青空がすっかりオレンジに染まった頃だった。
俺はそれを受け取って、一足先にキッチンへと足を向ける。その後奈々美が慌てて追いかけてくるのがわかった。

「ごめんね…!」
「何が?」

振り向きながら、いつかのようにそう尋ねれば、奈々美は、えっと…。と目を泳がせた。

「ラビチャ返してなくて…」
「あぁ、そう言えばそうだったね」

冷蔵庫に食材を仕舞いながら素っ気なく返せば奈々美は、違うの?と首を傾げる。横目で見た彼女の表情は少し不安げで、今のは少し大人気なかったかも。と、反省した。

「まぁ、それもあるけど、そっちはあんまり気にしてない」
「そっち?」

じゃあ何を気にしてるの?なんて再び首を傾げた奈々美。その表情は先程とは打って変わって、心当たりが全くない。と言ったような表情だった。ここで素直に、折角の休みだから一緒に居たかったのに。なんて言ってやるのはなんだか癪だし、約束破ったな!なんてまるで重い男のようになるのも嫌だ。
俺は奈々美の目の前に、すっと人差し指を立てた。

「ヒント1」
「えっ?」
「今日は土曜日、珍しく俺も1日休みだった」
「…うん」

これは完全に掃除のこと忘れてるな…?続けて人差し指と中指を立てながら、ヒント2と続けた。

「奥の部屋見てみ」
「部屋…?あっ…!」

まって、完全に忘れてた!奈々美はそう言って、バタバタと奥の部屋へ姿を消した。
やっと思い出したか。なんて口では呆れたように言いながらも、この後提案されるであろう彼女からのお詫びに、何を要求しようかなんて口角をあげて、俺は奈々美の後に続いた。



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