ある日の放課後




部活が珍しくミーティングだけで終わった今日。
忘れ物をしたことに気が付き、オレは教室に足を向けた。お目当てのものを机の中から出してふと顔を上げると、窓が一か所空きっぱなしになっているのに気が付いた。
他の生徒が残っていた気配もないし閉めちゃっていいかな。と窓に近付くと中庭の花壇の花に水をあげている女の子が目に入った。
見覚えのあるその姿に、オレは思い浮かんだ名前を呼んだ。


「片瀬さーん!」


きょろきょろとしている彼女に、上だよ!と声をかければ片瀬さんが、ぱっと顔を上げたたあと控えめに手を振ってくれて、オレはそれに手を振り返す。
 

「そっち行っていい?」


その問いかけに小さく頷いたのを見て、オレは教室を後にして、彼女が待つ中庭へと向かった。









「何してるの?」
「春原くん」

さっきはびっくりしちゃった!と言う片瀬さんに、ごめんね。と謝れば彼女は、大丈夫だよ。と優しく笑った。


「今日部活は?」
「部活はミーティングだけで終わったんだけど、忘れ物しちゃって…」


そう言いながら彼女の手元に目を向ければ、その手にはジョウロが握られていた。そう言えば、花に水をあげてたっけ。水やりしてたの?と尋ねれば片瀬さんは、そう。と花壇に視線を落とした。


「委員会のお仕事で」
「委員会?」


そういえば、うちの学校は部活に入らないなら委員会に入るという謎の決まりがあった。自分には関係のない決まりだったから今まで忘れていたけど、そっか、片瀬さんは部活に入れないから委員会に入ってるのか。


「今日はお仕事もないし、いつもより丁寧にお世話してたの」


雑草も抜いたんだ。なんて笑う片瀬さん。土いじりとかするタイプとは思わなかったからちょっとびっくりしてると、オレの考えている事が分かったのか、片瀬さんはゆっくりと口を開いた。


「昔からお花が好きで」
「そうなんだ…」


似合うね。

無意識のうちに呟いていたその言葉に片瀬さんが照れたように笑いながら、ありがとう。と呟いた。
無意識とはいえ、少し恥ずかしい言葉だったかもしれない。そう思ったら無性に恥ずかしくなって、オレは思わず目を逸らした。


「文化祭で、ここのお花売るんだって。クラスの方は当日やる事ないから、私はそっちのお手伝いしようかなって思ってるの!」


すごく楽しみ!と笑う片瀬さんに、買い行くね。と返したタイミングで彼女の携帯が着信を知らせた。


「電話?」
「うん。マネージャーさんから」


ごめんね。と眉を下げながら少し離れた片瀬さんに、大丈夫の意味を込めながら軽く手を振ってオレは花壇の花に目をやる。
普段気にも留めなかったが、彼女が育てていると思うと、途端に可愛らしく見えるのだから不思議だ。


電話が終わったらもう少し話せるかななんて淡い期待を抱きながら、なんとなく目についたピンク色の小さな花を、オレは写真に収めたのだった。



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