あの日の裏側




「…はぁ」


七瀬陸からもらったチケットを見ながら、私は大きなため息をついた。

そのチケットに記されている日付けは昨日。結局私は彼らのライブには行かなかったのだった。
正確には行けなかった。が正しいのだけれど、四葉環から届いた『なんで来てくれなかったの』というラビチャに、万理の事を考えすぎて知恵熱が出た。なんて書ける訳もなく、急用が入っちゃって。とだけ返した。

彼らの好意を無碍にした罪悪感を抱きつつも、私は今抱えてる一番大きな問題に再び大きなため息を吐く。


「鍵、返しに行かなきゃ…」


そう。万理の家を出てから数週間経つにも関わらず、私は合鍵をずっと持ったままだったのだ。








万理が体調を崩した日、食事を作り終わって万理の家を後にした私は、そのまま合鍵をポストに入れて帰ろうと思っていた。そうすれば戸締りもきちんとできてなおかつ万理に会わずして鍵を返せるからだ。
しかし、玄関を出たタイミングで1人の女性に、あ!と声をかけられた。


「もしかして、奈々美さんですか?大神さんの彼女さんの…!」
「えっ…?」

この子一体誰なんだろう…。っていうか、随分と可愛らしい子だけど、万理とどんな関係…?そんな私の考えが分かったのか、彼女は慌てて自己紹介をし始めた。

「小鳥遊事務所の小鳥遊紡と申します。大神さんにはいつもお世話になってます」

そう言って頭を下げた彼女に、あぁ…。と声を漏らしたあと、続けて私も自己紹介をした。すると、父から聞いてます。と返されたのだけれど、音晴さんは一体何を話したのだろうか。
そんな事より、どうしてここに?と問い掛ければ、どうやら紡ちゃんは音晴さんに言われて、万理の様子を見に来たのだという。

「…ご迷惑おかけしてすみません」

いや、どの立場からの言葉だよ。なんて心の中でツッコミながらも謝る私に紡ちゃんは、そんなことないです…!と言いながら、こちらこそ大神さんに無理させてすみません。と頭を下げた。


「必要そうなら看病をと思いましたが、奈々美さんが居るなら大丈夫そうですね!」

では、失礼します。と踵を返した紡ちゃんの腕を私は咄嗟に掴んだ。振り返った彼女は少し戸惑っていて、そりゃそうだよね。と思いながら私は彼女に一つのお願いをした。

「もし紡ちゃんさえ良ければなんだけど、あいつにご飯作ってあげてくれない?」
「え?」
「えっと…私もう帰らなきゃいけなくて、でもほら、万理最近ろくに食事取ってなかったみたいだから、ちょっと心配なの」
「それは…かまいませんが」
「ありがとう。助かる」

私ちょっと、今万理と顔合わせ辛くて。
そう言った私の言葉に紡ちゃんは何かを察したのか、わかりました。と頷いてくれた。
そんな彼女に、それじゃあよろしくね。と言い残しそのまま万理の家を後にした私は、その日万理の家の合鍵と仲良くホテルに戻ってきたのだった。





そんなこんなで未だに手元にある万理の家の鍵。
顔を合わせるのは気まずいけれど、鍵は返さなければならない。となると、やっぱり家のポストに入れるのが一番だが、家に行ったタイミングで鉢合わせたらそれこそ気まずい。

そう考えた私は、四葉環に次の週末の万理のスケジュールを尋ねた。どうやら来週の土曜日はMEZZO"の歌番組の収録があって、日曜は休みらしい。『バンちゃんに直接聞けばいいのに』なんて言われたけど、そこはうまく誤魔化して早々にラビチャのやりとりを終わらせたのだった。



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