そのままの君で
「片瀬ちゃん、週末予定通りで平気?」
IDOLiSH7のレギュラー番組に向けてのメイク中、ヘアセットも完了してその旨を伝えれば、席を立つタイミングで二階堂さんは思い出したかのように口を開いた。
「大丈夫です!」
「よかった。んじゃ、よろしく」
詳細はまた後で。そう言ってメイクルームを出た二階堂さんと入れ替わりで環くんがやってきた。そわそわしている彼に、おいで。と手招きすれば、環くんは嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。
「今日担当ななみん?!」
「そうだよ」
「やった!俺、今日1日超頑張れる!」
かっこよくしてな!と見上げてくる環くんに、いつもかっこいいよ。と耳元で囁けば、その顔はすぐにほんのり赤く染まって、私は思わず笑ってしまう。
それが気に障ったのか照れ隠しなのか、環くんは口を尖らせながら正面を向いた。正面を向いたところで、全部鏡に映ってしまうからその表情は隠せてなくて、頬が自然と緩む。
「笑ってんなし」
「ごめんね」
「…いいけど」
その姿がかわいらしくて、思わず口に出しそうになったけれど、かわいいなんて言ったら余計拗ねちゃうかも。と、私は口を噤んでメイクに入った。
しばらく口を尖らせたままだった環くんも、話をしているうちに機嫌が治ってきたのか、すっかりいつも通りに戻ったようだ。
気が付いたら周りはもう準備が終わったようでスタジオに移動していて、メイクルームには私と環くん2人だけになっていた。
学校であった事や、他の現場であった事、寮であった事なんかを楽しそうに話してくれていた環くんが、あ!と大きな声をあげたのはメイクが終わって、ヘアセットに入るタイミングだった。
「どうしたの?」
「なぁなぁ、今度の土曜日って空いてる?」
「今度の、土曜日…?」
「そう!俺、その日オフで、だから…」
少しそわそわしながらそう言う環くんに、私は眉を下げた。
「ごめんね、土曜日は予定があって」
「…そっか。どっか行くの?」
「土曜日は、二階堂さんと…」
「え、ヤマさん?」
環くんが声を上げたと同時に、ドアをノックする音が部屋に響く。どうぞ。と声をかけながら振り向けば、そこにはスマホを片手にした二階堂さんがいた。
「片瀬ちゃーん、さっきの話だけど…。って、タマなんつー顔してんの」
二階堂さんの言葉を不思議に思い、ドアの方を向いていた顔を正面に戻せば、環くんは鏡越しに二階堂さんを思いっきり睨んでいた。その顔には不機嫌と書かれていて、口は先ほどとは比べものにならないほど尖っている。
「ヤマさん、週末ななみんと出かけんの?」
「え?あぁ、ミツがロケで行ったワイナリーに…」
「ワイナリーって何?!俺も行く!!」
いいでしょ?!と言いながら、ばっ!という音が聞こえてきそうな勢いで振り向き、私を見上げた環くん。必死な表情の彼になんて返せばいいかわからず、私はいつの間にか隣に立っていた二階堂さんとアイコンタクトをとった。
「悪い、タマ。未成年は入れないんだよ」
「なんで!」
「ワイナリーって、ワインを作ってるところを見たりするところだから…」
「ワイン?!酒飲み行くってこと?!ななみんお酒あんま飲まねえじゃんか!」
口を尖らせながら私と二階堂さんの目の前に立つ環くんからは不機嫌オーラがだだ漏れで、私たちは再びアイコンタクトをとる。環くんはそれすらも気に入らないのか、私の両頬に手を添えて自分の方に向けた。
「行くの?」
「うん。前から約束してたから」
「2人で出かけるのずりー!俺だって、ななみんと出かけたいのに…」
「え、いや…」
数秒前までは吊り上がっていた眉毛はこれでもかってくらい下がってしまい、まるで捨てられた犬のようだ。
そんな表情を眺めながら、どうしたら機嫌が治るだろう…。なんて考えていると、二階堂さんがけらけらと声を上げて笑い始め、環くんの眉毛は再び吊り上がった。
「ヤマさん何笑ってんだよ」
「いやー、タマは片瀬ちゃんのこと大好きなんだなぁって思って」
「…だったら何」
渡さねえかんな。と言いながらそのまま私をぎゅっと抱きしめる環くんは、少し体温が高くてそれからなんだか甘い香りがする。それがプリンの匂いだと気が付いて思わず笑みを溢したが、環くんと二階堂さんはそんなこと知る由もなく話を続けた。
「お土産買ってきてやるから」
「いらない」
「1日くらいいいだろ?」
「ダメ!」
その声と共に強まった腕の力。ちょっと苦しいな、なんて思っていたら二階堂さんが、じゃあしょうがないか。とわざとらしくため息をついた。
「彼氏サマの許しが出ないんじゃ連れてけないな」
「え?」
「大丈夫、片瀬ちゃん。"みんな"にはお兄さんから伝えておくから」
じゃ、先スタジオ行ってるな。とニコニコしながらメイク室を出て行った二階堂さんの言葉に環くんが首を傾げた。腕の力が少し緩んだタイミングで私は環くんからそっと離れる。
「みんな、って…ヤマさんと2人じゃねぇの…?」
「他にもいるよ?三月くん、八乙女さん、十さん、百さん、あとは姉鷺さんも。あとたしか岡崎さんが車出してくれるって言ってたけど」
壮五くんも誘ったけど、その日は千さんと曲作りするらしい。そんな補足もしながら一緒に行く予定だったメンバーをあげれば、環くんの眉が再び下がってしまった。
「どうしたの?」
「俺、かっこ悪い」
「そんなことないよ?」
「てっきり、ななみんとヤマさん2人で行くんだと思って、その…」
ヤキモチやいた。
罰が悪そうにそう言って顔を背けた環くんの両頬に、今度は私が手を添えて正面を向かせる。しっかりと合った瞳の奥が、不安げに揺れているのがわかった。
「ごめん…。俺が連れてってあげられないとこなのに」
「いつか連れてってくれればいいよ」
「…まだ2年もあるけど」
「2年なんてあっという間だよ」
「ヤマさん、怒ってっかな」
「そんな人じゃ無いでしょ?」
大丈夫だよ。と言い聞かせるも、でも…。と視線を落とす環くん。彼の頬に添えていた手をぐっと伸ばし、少しだけ背伸びをして頭を撫でれば、再びぎゅっと抱きしめられた。
「俺、ななみんと同い年か年上に生まれたかった」
「…全然想像できない」
「ははっ、俺も。自分で言ったのにな」
「環くんはそのままでいいよ」
「…うん」
段々と機嫌が治ってきたのか、声色が明るくなってきた環くんに、そろそろ髪やろっか。と声をかければ、その前に。と言う言葉と共に唇に柔らかい感触。
「やる気チャージ」
「…誰か入ってきたらどうするの」
「みんなもうスタジオ行ってるし」
「いや、でも」
「いいから」
もう一回。そう言って再び近付いてきた環くんの唇が、あと数ミリで触れるという距離まで近付いたと同時に、メイクルームのドアが勢いよく開かれた。
「環ー!準備できた??って!!わー!!ごめんなさい!!」
「あ、りっくん」
ドアを開けたのは陸くんのようで、前にもこんなことあったな。なんて考えながら振り返れば、彼の顔は髪の色と同じくらい赤く染まっている。
その後ろから、眉間にシワを寄せた一織くんが出てきて、やっぱりデジャブを感じた。環くんも同じ事を思ったのか、私たちは視線を合わせて、くすくすと笑ったのだった。
このあと、ヘアセットが終わっていない環くんを見て、一織くんの雷が落ちたのはまた別のお話。
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匿名様リクエスト
きらきらこぼれるの恋人同士で環が嫉妬する話
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