まるで心を表すように




『ごめんね』


そう言って俺の家を後にした奈々美の背中をただ見送ることしかできなくて、いつから俺はこんな性格になってしまったんだろうなんて、タバコに火をつけながらぼーっと考えた。

顔を合わせないように話す奈々美に、彼女が家を出た日の事を思い出してしまった。頬をこぼれる涙や、振り払われた手、そんなのをすべて思い出してしまったのだ。
今まで来るもの拒まず、去る者追わずだった俺は、あの時初めて人に拒絶される怖さを知った。
咄嗟に掴んだ腕に跡が残ってしまったら、また心ない言葉を浴びせてしまったら。
そんな考えが頭を過って、なかなか言葉が出てこなかった。それでも好きだと伝えようと思ったのに、そう決心した時にはもう遅かった。


「かっこわる…」


はぁ…。とため息を吐くと同時に、奈々美に手渡された合鍵を見つめ、先ほどの記憶を消すようにシャツの胸ポケットにそれを仕舞った。
そして2本目のタバコに火をつけて、ネクタイを緩め、ビールを1缶取り出した。
プルタブに指をかけると同時に電話がかかってきてスマホを手に取れば、画面には千と表示されていた。



無視しよう。



そう決めてスマホをソファの上に投げれば、電話は切れた。しかし、間も無くして再び着信を知らせるスマホに、しつこいな。とひとりごちながらため息を吐いた後、俺は渋々電話に出た。




「…もしもし?」
『なんだかご機嫌斜めだね』
「用がないなら切るぞ」
『用はないけど、面白い話はあるよ。帰り道面白いものを拾ったんだ』

唐突すぎる千の話に、何をだよ。と返しながら電話を肩と首で挟み、缶ビールのプルタブに再び指をかける。プシュッと缶が開くと共に、電話の奥でよく知った声が聞こえた。



『ねぇ、ユキ。このシャツ大きいんだけど、他に…って、ごめん。電話中?』



じゃあ後でいいや。と遠ざかるその声は間違いなく奈々美の声で、俺の思考は停止する。



『この雨の中、傘もささずにいたから拾っちゃった。奈々美ちゃん』
「…どういうことだよ」
『そのまんまの意味。なんか万には会いたくないみたいだから、一晩預かっとくね。まぁ…』



返さないかもしれないけど。



そう言ってこちらの言葉を待つ事なく切れた電話は、その後すぐかけ直しても繋がらなかった。

拾った?ユキが、奈々美を?雨の中傘もささずにいたって?シャツの大きさに文句を言ってるって事は、それってつまり…。
2人が今どういう状況にあるのかを理解したと同時に、俺はテーブルの上に無造作に置いていたキーケースを手にして、ユキの家へと車を走らせた。


フロントガラスを叩く雨粒は、先ほどよりも強くなっていた。



ユキの家の下に着いたと同時に再び電話をかけるも繋がらない。ダメ元で奈々美にもかけてみたけど、どうやら電源が入っていないようだ。
まだ何も起きてませんように。
そんな思いを胸にエレベーターのボタンを押すが、2台あるエレベーターはどちらも上へ向ったばかりだった。


「…くそっ」


無意識のうちに口にしていた言葉と共に心の中で舌打ちをして、俺は階段へと続く扉へと手をかけた。



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