静かに広がる




『奈々美ちゃんが、病院に運ばれた』


リュウ兄貴からそう連絡をもらった時、夢かと思った。ななみんが?なんで?何があったの?なんでリュウ兄貴がそれを知ってんの?
頭ん中には聞きたい事でいっぱいなのに、言葉にできなくて、は?とだけ返したのと、みんなが心配そうに俺を見てたのは覚えてる。
みんなに理由を話せば、驚いたり心配したり、それぞれの反応だった。
とりあえず一回寮に帰ろうってなって帰ったけど、俺はやっぱりななみんが心配で、マネージャーに一生のお願いを使って、リュウ兄貴に聞いた病院に連れてきてもらった。

病院の人にななみんの部屋教えてもらって、いざ入るぞって思ったところで、リュウ兄貴達とななみんが話してるのが聞こえて、俺は手を止めた。
何言ってるかはあんまり聞こえなくって話の内容までは理解できなかったけど、こっそり聞いて正解だって思った。



『環くんには言わないでください』



その声だけは、はっきりと聞こえたから。
あぁ、まただ。そう思うと同時に、心臓がギュッとした。俺は年下で、頼りなくて、大事な事は何も教えてもらえないんだ。

「…俺だって、ガキじゃねぇのに」

マネージャーが、環さん?って俺を呼んだけど聞こえないふりして、俺は病室のドアを開けた。



「んだよそれ…」
「たっ、環さん…!」
「なんで俺には黙ってろなんて言うんだよ…!」

俺はこの中の誰よりもななみんの事知ってるはずなのに、この中の誰よりも頼りにされないんだろうなって思ったら、寂しくて、悲しくて、涙が出そうになったけど、そんな事したら余計に子ども扱いされっから我慢した。

「環、くん…?なんでここに…?」

驚いた表情で俺を見たななみんは、そう言ってすぐに気まずそうに顔を俯かせた。
ななみんとがっくんはいきなり入ってきた俺達に驚いてたけど、てんてんはいつも通りの顔で、リュウ兄貴はなんだか申し訳そうな顔をしてる。
みんなの顔を見たあと、もっかいななみんを見たけど、俯いたままだ。


「ごめんね、奈々美ちゃん。俺が話したんだ」
「そう、なんですね…」
「あの、奈々美さん大丈夫ですか?お体に障るようでしたら、私と環さんは…」
「帰らない」

マネージャーがななみんに気使ってんのはわかってるけど、今聞かなきゃこの先ずっと俺は今日のこと聞けないまんまな気がして、マネージャーの言葉を遮った。


「何があったかななみんから聞くまで、俺は帰らない!」


思わず大きくなった声に、はっとした。ななみんは相変わらず俺のこと全然見てくれなくて、また心臓がギュッとなった。
俺のこと見て、俺にも教えて、俺のこと頼って。言いたいことは沢山あるのに、変に口を開いたら、強い言葉を言っちゃいそうで何も言えない。
でも、これだけは言わなくちゃ。
俺は決心して、ななみんに向けてた体をみんなに向けた。みんなが不思議そうに俺を見てて、気まずい。でも今はそんなこと言ってらんないんだ。
俺はギュッと拳に力を入れて頭を下げた。


「ななみんと、2人にしてほしい。…してください。ちゃんと話したいんだ。だから」

お願いします。
俺の行動に、みんながびっくりしたのがなんとなくわかった。しばらく沈黙が続いて、ダメなのかな…。って恐る恐る顔を上げたら、それと同時にてんてんがでっけーため息つきながら部屋を出て行った。それに続いてがっくんとマネージャー、それからリュウ兄貴は俺の肩をぽんって叩いて部屋を出て行った。

病室には俺とななみんの2人だけになった。




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「…ななみん」

この状況をどう乗り切るか。
環くんが病室に入ってきてから、ずっとそんな事を考えている最低な私の名前を、環くんが呼んだ。

「…怪我?どっか、いてーの?」
「え…?あ、ううん。どこも痛くないよ、大丈夫」

環くんから目を逸らしたままそう言えば、環くんは近くの椅子に腰をかけたあと、そっと私の片手を取った。心なしか、その手は震えているような気がした。


「じゃあ…なんか病気…?」


その声がとても不安げで、思わずぱっと顔を向ければ、やっと見てくれた。と安心した声色で言いながらも、今にも泣きそうな表情の環くんがそこに居た。

「病気でも、ないよ…」
「よかった…」

大きなため息をついて項垂れた環くんの頭へ空いている方の手を伸ばし、そのままいつものようにゆっくりと撫でた。

「心配してくれてありがとう」
「…うん」
「本当に大丈夫なの。本当に」

だから顔を上げて?その言葉にゆっくりと顔を上げた環くんの表情には、まだ不安の色が見えた。

「…めちゃくちゃ心配した。なんか怪我したのかとか、病気んなったのかとか、いろいろ考えた」
「うん、ごめんね…」
「…何があったの?俺には言えねぇこと?」

そう言って再び私の手をぎゅっと握った環くんを見て、尚更言うのを躊躇ってしまう。彼を巻き込みたくない。ただ、その一心だった。
勿論、十さんの事も、八乙女さんと天くんの事も巻き込みたくなかった。でも、年下だからとか、そう言う理由じゃなくて、環くんだけは絶対に巻き込みたくないのだ。

「…環くんを巻き込みたくないの」
「俺、大丈夫だよ。昔みたいに、何もできない子どもじゃない」
「でも…」

渋る私を、ななみん。と環くんが呼んだ。

「今度は守らせてよ」

今度は。その言葉が意味するのは、まだ私たちが施設に居た時の出来事を指してるのだろう。それがわかった瞬間、自然と涙が溢れた。
それに環くんが慌てたのがわかって、それがなんだか面白くて、泣いているのに笑っている。そんな、なんとも不思議な表情になってしまった。





それから、私は環くんに全てを話した。
写真が届き始めた事や、つい先程の出来事を全て。そして話し終えると同時に、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「…無事で本当よかった」
「うん、ありがとう」

しばらくしてゆっくり離れて行った環くんは、拳を握りながら、決めた!と勢いよく立ち上がった。

「そのストーカー、俺が捕まえる!」
「え?!ダメだよ、危ないから関わらないで。それに、そのうち向こうも飽きるよ」
「そのうちっていつ?!またなんか有ってからじゃ遅いじゃんか!」
「そっ、それはそうだけど…」

さっきまでしおらしかったのが嘘のように、いつも通りに戻った環くんのその勢いに圧倒されていると、ガラッ!と勢いよく病室のドアが開いた。
ドアの方へと目を向ければ、そこには血相を変えた紡ちゃんが立っていた。

「つ、紡ちゃん…?」

その表情に戸惑っていると紡ちゃんは、奈々美さん!と声を上げながら、大股でベッドの脇へと歩み寄ってきた。
さっきまで勢いの良かった環くんも、初めて見る彼女のその表情に怖気付いたのか、おっ、おお…。と落ち着いてしまった。

「どうして相談してくださらなかったんですか…!」
「え…?」
「十さん達から全て聞きました!そんな怖い目にあっていたのに、なんで相談してくださらなかったんですか!!」

興奮故か、同じ事を2回聞かれて戸惑っていると、今度は打って変わって眉を下げて泣きそうになった紡ちゃんに、私は目を見開いた。

「紡ちゃん…」
「まだ出会ってそんなに時間は経って居ませんが、私にとって奈々美さんは大切な人です。それに、そう思ってるのは私だけじゃありません。環さんも十さんも楽さんも九条さんも、ここに居ないみなさんもそう思ってるんです!」

再びヒートアップしてきた紡ちゃんに、ほら!と見せられたのはIDOLiSH7のグループラビチャで、そこには私の容態を心配するメッセージが何通も入っていた。


「奈々美さんは、もっと人を頼っていいんですよ」


ひとりじゃないんですから。


その言葉に、ゆっくりと視界がぼやけていく。あぁ、今日はなんだかみんな言葉がやけに胸に響いて困る。涙が溢れる前に急いで自分の膝に顔を埋めれば、環くんが背中を摩ってくれた。

「ななみん大丈夫?どっかいてーの?お医者さん呼ぶ?」

心配してくれる環くんの声に、大丈夫だよ。と返しながら首を振れば、よかった…。と環くんが安堵の息をついた。





その後、落ち着いてきたらみんなの前で泣いた事が、なんだかとっても恥ずかしくなってしまって、なかなか顔を上げられずにいた私にお構いなしに5人は何やら話し始めた。

「とりあえず、しばらく家には帰れないよね…」
「盗撮されている以上、隠しカメラとかあるんじゃない?」
「そうだな…。おい、奈々美。俺ん家来るか?」
「えぇ?!がっくん家?!?!ダメダメ!!それなら俺らの寮のが絶対いい!俺もいるし、部屋も余ってるし!な!マネージャー!」

環くんが紡ちゃんに話を振るも、すぐに返事がない。それを不思議に思い、そっと顔を上げれば何やら考え込んでいる紡ちゃんが目に入った。
どうしたんだろう…?としばらく様子を見ていると、紡ちゃんが、奈々美さん!と声を上げた。

「はい」
「うさぎはお好きですか?」
「え?好きだけど…」
「アレルギーとかお持ちでは無いですか?」
「うん、特には」

では!と、私の両手を握り詰め寄ってきた紡ちゃんの口から出た言葉に、私は開いた口が塞がらなかった。



「我が家で決まりですね!!!」



ん?と首を傾げる私を他所にみんなは、それがいい!と納得したように頷いた。



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