宇宙一かわいい




「髪、切ろうかなぁ…」
「え」


夜、家に来てくれた奈々美と2人でのんびりまったり各々の時間を過ごしている時、奈々美がぽろっとこぼしたその言葉に、オレは手に持っていたスマホを落とした。
その音に振り返り、スマホ落ちたよ?と首を傾げた奈々美を他所に、えええ!!と詰め寄り両肩を掴めば、奈々美は驚いたように瞬きを繰り返す。

「なんで!!!」
「えっと…暑いから?」
「そんな…!いやいや!ダメだよ!お仕事にも影響するでしょ!」
「ゆうこちゃんからは、逆に切るなら今!って言われてるの」

だから大丈夫!と言ってにこにこ笑う奈々美を力いっぱい抱きしめながら、切らないで〜!!!と嘆けくオレ。あれ、オレなんか今カッコ悪いかも。なんて思っていたら、奈々美がくすくすと声をあげて笑い始めた。

「モモちゃんは本当に私の髪好きだね」
「好き〜!髪だけじゃなくて全部好きだけど!」

そう言って目の前の綺麗な髪にキスを落とせば、奈々美はほんのり頬を染めて、切っちゃダメ?と首を傾げた。そうだ、髪。奈々美があまりにもかわいいから忘れかけてた。

「切って欲しくないなぁ」
「でも、暑いの」

首元が特に暑いんだと、髪を持ち上げながら言う奈々美に、どのくらい切りたいの?と言えば、このくらいかなぁ。も顎の辺りに手をやりながら言うもんだから思わずまた、切らないで〜!!と嘆いた。
髪が短い奈々美だって絶対世界一かわいいんだけど、髪が長い今の奈々美は宇宙一かわいい。だからオレのために切らないでほしい。切られたら本気で泣いちゃう。
どうしたら切らないでくれるんだろうなんて考えていたら、ローテーブルの上にシュシュを見つけて、オレはそれを手に取った。

「結ぶのは?」
「…自分じゃ、ぐちゃぐちゃになっちゃうからイヤなんだもん」

そう言って口を尖らせた奈々美。意外と不器用な彼女に、そう言えばそうだった。と思わず笑みを零せば、笑わないでよー!なんて胸を軽く殴られた。全然痛くないパンチに、また笑いながら謝れば、口を尖らせながらそっぽ向いてしまった奈々美の髪をそっと手で梳く。

「練習しよ!お手本で結んであげる!」
「えー?モモちゃん綺麗に結べるのー?」
「結べるよ!」

ユキの髪だって結んだことあるんだから!見えもしないのにドヤ顔でそう言いながら、奈々美の髪を手に取り少し高めの位置にまとめる。



あ、なんかこういうのいいな。毎日結んであげたい。
そう思いながら思い描いた景色があまりにも幸せで、思わず口元が緩んだ。


「…一緒に住みたいなぁ」


あっ。と思ったときにはもう遅くて、口にするはずのなかったその言葉が溢れていた。
もしも一緒に住めたとして、お互いの家を頻繁に行き来している今と何が変わるのかと言われたら、正直何も変わらないかもしれない。
それでも、朝起きた時毎日隣に彼女が居て、一緒にご飯を食べて、それぞれの仕事に向かうけど、終わったらまた同じ家に帰ってくる。それが毎日続くなんて、とっても幸せなんだろうな。なんてふと思ってしまった。
そうは思っていても今すぐは無理だってわかっていているから、無責任に口にしないようにと思っていたのに。と、ちょっと反省した。






しばらく黙っていた奈々美が、そうね。なんて言うから思わず吹き出してしまった。

「今のユキみたい」
「ふふっ!マネしてみた!」

けらけらと笑っている彼女だけど、そんな笑い声の中に小さく鼻をすする音が聞こえて、オレは思わず手を止めて、奈々美の顔を覗き込んだ。その目には涙が溜まっていた。

「え?!待って、なんで泣いてんの!?」
「だって〜!!」
「オレなんか嫌なこと言っちゃった?!」

そんなに髪切りたかったの?!ごめんね?!と、まとめていた髪から手を離して奈々美の前にしゃがめば、彼女は左右に首を振ったあと、勢いよくオレの胸に飛び込んできた。
その反動で奈々美の長い髪は揺れて、オレは尻餅をついた。
唸りながらオレの胸に顔を押し付けている奈々美の頭を、あやすようにそっと撫でながら、最近あまり泣かなくなってきたのに、どこでスイッチが入ったんだろうか。なんて頭の片隅で考える。

「どうしたの?」
「うっ、嬉しくて」
「え?」
「モモちゃんが、そう思ってくれてるのが、嬉しくて」

も〜!!と言いながら腕の力を強くした奈々美 に、思わず声を上げて笑えば、何笑ってんの!と眉を吊り上げた奈々美が顔を上げた。その目に溜まってる涙をいつものように唇で掬えば、ほんのり染まった頬が今日はいつも以上に愛おしく感じた。


「オレ、奈々美が思ってる以上にいろいろ考えてるよ」
「…例えば?」

そう聞かれて、どう伝えるか悩む。まだ直接的な言葉を言いたいわけじゃない。でも奈々美との将来しか考えてないって、どうしたら伝わるだろうか。
うーん。と唸ってるオレを奈々美がじっと見つめてるのがわかる。



「春原奈々美って、宇宙一かわいい名前じゃない?」



悩んだ挙句、これで伝わるだろうと口にした名前は、やっぱりめちゃくちゃしっくりくるし、かわいいと思う。オレが何を言いたいかわかったのか、奈々美の頬がぽっと赤くなった。それを隠すようにまたオレの胸に顔を埋めた奈々美に、オレは話を続ける。

「奈々美はドレス似合うだろうな」
「…もういい」
「男の子と女の子1人ずつ欲しい!」
「もういいってば〜!」

自分から聞いてきたくせに、耳まで真っ赤にしてながらオレの胸をばしっと叩く奈々美に、再び笑い声が溢れた。
また笑ったな〜!と今度は頭をぐりぐりとオレの胸に押し付ける奈々美の髪にそっと指を通せば、急に大人しくなった。


「…髪の毛切るのやめよ」
「え?」

めちゃくちゃ嬉しいけど、この流れで?と首を傾げれば、奈々美は顔を上げてにこっと笑った。


「春原奈々美になったら切ろうかなって思って!」


あ、もうその笑顔最高。
やっぱり奈々美は宇宙一です。
カウンターをくらったオレはキュン!と高鳴った胸を抑えながら、そんなバカみたいな事を思ったのだった。



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