君が望むなら何度でも@




「ねぇ!あの俳優、一般人と結婚だって!」


仕事の休憩中、同期と3人で一緒にランチをしていると、1人が声を上げた。ネットニュースを見れば、そこには今旬の俳優の結婚報道がトップに上がっていた。


「本当だ!結構好きだったのに!ショックー!」
「俳優と結婚できる一般人とか、前世でどんな徳積んでるだろね?!」

たしかに〜!なんて笑ってる同期から話を振られませんようにと心の中で祈る。

「まぁ、でも俳優ならまだいいかも。百が結婚とかしたらまじ死ぬ!」
「百って、Re:valeの?」
「そうそう。アイドルの結婚だけは本当無理!まぁ、百には千がいるから大丈夫だと思うけど!」
「でたでた。奈々美もRe:vale好きなんだっけ?」

話を振られないように存在を消していたけど、3人と言う少人数ではそんな事無意味だった。同期からの問いかけに、曲聴く程度だよ〜!なんて返してやり過ごす。

「芸能人の結婚て、なんでこんないちいちショック受けるんだろね。別に自分が結婚できるわけじゃないのにさ〜!」
「えー、でもわかんないよ?いつか百と偶然出会って、結婚できるかもよ?」
「なにそれ、ドラマみたい!まぁ、でも現実はそんなに甘くないよね。奈々美もそう思うでしょ?」

再び話題を振られて、内心焦る。
そして心の中で2人に謝りながら、そうだね。とだけ返して、それよりこの前さ〜!と話題を変える。
なぜ私が心の中で2人に謝ったかと言うと、私は数年前にRe:valeの百と、そのドラマみたいな出会いをしてしまっているからだ。







出会いはまだRe:valeがトップアイドルになる前。私は当時大学生で、ちょっとおしゃれなバイトに憧れてて、サークルの先輩の紹介で都内のバーで働いていた。
芸能人なんかがお忍びで来るんだよ。なんて先輩から聞いていた通り、テレビで見る大御所俳優から、若手の俳優までいろんな人が来た。
ある日、大御所俳優の1人が同い年くらいの若い男の子を連れて来た。テレビでも見たことない子だったし、顔は整ってるけど今まで見て来た芸能人とは違って、割と普通の雰囲気の彼の事をその時は特段気にしなかった。
みんなから百くんと呼ばれて可愛がられている彼は、その日以降たまに1人でもに来るようになった。そんな彼がすっかり常連となったある日、事件は起こった。


その日、週末ということもあって店内はそこそこ賑わっていて、そんな中百くんはカウンターの端に1人腰をかけ、何やら真剣に考え事をしているようだった。
そんな彼にオーダーされたお酒を差し出し、彼が口を開きかけたと同時に、少し離れたテーブル席からちょっとお姉さーん!なんて大きな声で呼ばれた。私は百くんに会釈して急いでテーブル席へと足を向けた。
その日、たまたま女の子が私しか居なくて、たまたまその席からよく見える位置に立っていた。そんなたまたまが重なっただけなのだけれど、私はその日来店していた、女癖が悪いと悪評高い俳優に目をつけられてしまったようだった。


「ねぇ、君バイト何時までなの?」
「今日は閉店時間までですけど…」
「へぇー!じゃあその後遊ぼうよ」
「え?あ、いえ明日学校なので」

あくまで機嫌を損ねないように、断ったけれど一向に引かない彼。
他のお客様に呼ばれてその場はやり過ごせたものの、その後もすれ違い様にお尻を触られたり、用もないのにテーブルに呼びつけられたりと、とにかくしつこく絡まれた。
そんなやり取りを何度も繰り返した挙句、お酒の力もあって気が大きくなっていた彼が、あまりにも靡かない私に腹を立てた彼が腕を振り上げた時は、何で私なの?!なんて心の中で叫んだ。
次に来る衝撃に備え、ぎゅっと目を瞑り身を固くしたけれど、いつまで経ってもその衝撃は訪れなかった。恐る恐る目を開ければ、私に背を向ける形で誰かが立っていた。店内のざわつく声と、かすかに聞こえるぽたぽたと水の滴る音、そして場に似合わない明るい声が聞こえた。


「すみません!手滑っちゃいました!大丈夫ですか?」


そこに居たのはカウンターに座っていたはずの百くんで、その手には空になったグラスが握られていた。彼が何をしたかなんて一目瞭然で、水をかけられた男は百くんの胸ぐらを掴んだ。
そこでようやく店長が間に入り、乱闘にならずに済んだけれど、その日はあまり遅くなると危ないからと、予定より早めにあがることになった。



店の裏口から外に出ると、そこにはしゃがみ込んでスマホをいじっている百くんが居た。私に気付いた百くんが立ち上がるのと、私が会釈するのはほぼ同時で、あの!と口を開くのもほぼ同時だった。

「あ、どうぞ…」
「あ、いやお先にどうぞ!」

百くんの勢いに負けて、じゃあ…。と言いながら頭を下げれば、百くんの驚いた声が聞こえた。

「先程はありがとうございました!」
「えっ?!あ、いやいや!寧ろ事を大きくしちゃってごめんね」

罰が悪そうにそう言う百くんに、本当に助かりました。と言えば、よかった。と笑顔を向けてくれた。それから百くんは、あー…えっとー…。と頬を掻き始めた。

「どうかしたんですか?」
「もし嫌じゃなかったらなんだけど」

駅まで送らせてくれない?
その言葉に自然と頷いていた私は、その日を境に百くんと連絡を取るようになった。
百くんは、一人で来る時は必ず私のバイトが終わるのを待っててくれてて、いつも駅まで送ってくれた。
その時間がとても楽しくて、駅までの道がもっと長くなればいいのになんて思い始めた頃。ある日、百くんに誘われた。ちょっと遠回りして帰らない?と。



春は桜が満開になる都心の川沿いを、2人でゆっくり歩きながら他愛のない話をしている最中、私の手を百くんの手がそっと包み込んだ。
これ以上近付いたら聞こえてしまうんじゃないかなんて思ってしまうほど、私の鼓動は大きく脈を打っていたのを覚えてる。
どちらからともなく足を止めてお互い見つめ合い、そしてどちらともなくキスをした。

ただ触れただけのそのキスは、ほんの少しだけお酒の味がした。

「奈々美ちゃん、好き」
「…百くん、酔ってる?」
「酔ってないよ。本当に好きなんだ。ねぇ…オレと付き合ってよ」
「…私でいいの?」
「奈々美ちゃんがいい」

だからお願い、付き合って。
優しい顔でそう言った百くんの言葉に私はまた自然と頷いていた。その日から、私と百くんは恋人同士になった。




しかし、付き合って数ヶ月後。瞬く間にトップアイドルとなったRe:vale。百くんとはテレビ越しに会う回数の方が多くなった。
あれから数年が経ち、今でも一応付き合っている私達だけれど、百くんとはもう3ヶ月会えてない。
人目を気にしなければならないからデートにも行けないし、忙しいからただ会うことすら難しい。時間を見つけて1日1回はラビチャをくれる百くんだったけれど、そのラビチャは時には寂しさを募らせる要因になってしまうのだ。
友達や同期に、早く彼氏作りなよ〜!なんて言われる度に声を大にして、私の彼氏はRe:valeの百くんです!と言いたい衝動に駆られるけれど、そんな事叶うはずもなく、別にいらないかなぁ。なんて嘘をついてきた。

次いつ会えるの?なんて、彼の負担になるような事は言いたくないから、百くんと会えるのは特別な事として日常からは切り離していたけれど、今日ランチで百くんの話題が出て、会いたい気持ちが急に膨れ上がってしまった。
仕事終わり、家の前でスマホをチェックしても今日はまだ百くんからのラビチャは無い。


「…はぁ」


今日は金曜日。この気持ちを抱いたまま一人で週末を過ごすのか。と、大きなため息と共に自宅のドアを開ければ、玄関に見覚えのあるメンズシューズが。え?と思いながらドアを閉めたと同時に、リビングから百くんが飛び出してきた。



「おかえり〜!!」
「…え?百くん?」
「そうだよ!なになに?しばらく会わない間に更にイケメンになっててわかんなかったかにゃ?」

顎に手を当てながらそう言って笑う百くんに堪らず抱きつけば百くんは、うわ!と声を上げながらもしっかりと抱きとめてくれた。

「…百くんだ」
「ははっ、百くんだよ〜」
「本物だ」

まさかこのタイミングで会えると思わなくて、嬉しすぎて涙が出てきた。鼻をすする音に気付いたのか、百くんは何も言わずに頭を撫でてくれる。

「会いたかったよ、奈々美ちゃん」
「…私も会いたかった!」
「ツアーの準備忙しくてさ、会いに来れなくてごめんね」
「…一番会いたい時に会いに来てくれたから許す」

許すなんて上から目線になっちゃったなって思ったけど、百くんは私の言葉に、よかった。と笑って私の手を握ってリビングへと足を向けた。
テーブルの上には美味しそうなご飯が並んでいて、これどうしたの?と聞けばオレが作った!と言うのだから驚いた。

「作ったの?百くんが?」
「そ!だって今日は記念日でしょ?」

百くんの言葉にはっとしてスマホに表示されている日付を見れば、そこにはたしかに私たちが付き合った日と同じ日付が。
記念日…すっかり忘れてた…。
私の考えてることが分かったのか、百くんは首を傾げた。

「忘れてた?」
「…ご、ごめん」
「そんなの、全然いいよ!でも、一番会いたい時に会いに来てくれたって言ってたから、てっきり記念日の事かと思った」

そう言って私の頬を両手で包んで、私の顔をゆっくりと上に向けさせた百くんの顔はなんだかすごく嬉しそうだった。記念日忘れてたのになんでそんな嬉しそうなんだろう。と今度は私が首を傾げる番だった。


「奈々美ちゃん、そんなにオレに会いたかったんだ?」
「…そうだよ」

会いたかったよ。私のその言葉と共に降ってきたキスの雨。そのキスに、沢山の好きとか、会いたかったとかそんな思いを乗せて応えれば、百くんは満足したように離れていった。

「これ以上は止まらなくなるから、また後でね」
「止めなくていいのに」

口を尖らせながらそう言えば、百くんはけらけらと笑って、再び私の唇に触れるだけのキスをした。

「折角会いにきたんだから、もっと話したいじゃん?奈々美ちゃんの事聞かせてよ。あっ!ほら、前に言ってたこわーい上司は?そのあとどうなったの?」

ご飯食べながら聞かせてよ。とにこにこ笑う百くんの言葉がただただ嬉しくて、ときめくと同時に私はまた溢れそうになった涙をぐっと堪えた。









「美味しかった〜!」

にこにこと笑う奈々美ちゃんに、よかった。と安堵の息を吐いた。


来月からのツアーの準備が落ち着いて、おかりんからどこかに2日間の休みを入れよう。と提案があった時、オレは真っ先にこの日を選んだ。
今日はオレ達の記念日だから。奈々美ちゃんは忘れてたみたいだけど、そんなの別にどうでもよかった。一番嫌なのは、それを奈々美ちゃんが1人で居るときに思い出して、寂しくなっちゃうことだったから。

オレが奈々美ちゃんに初めて会ったのは数年前、某大御所俳優に連れられて行ったバーで。彼女はそこでバイトをしていた。
一目惚れだったんだと思う。
彼女の事をもっと知りたいという一心で、その後も足繁くバーに通ったけれど、いざ話そうと思うと変に緊張してしまってなかなか話しかけられなかったのを覚えてる。
なんやかんやあって、恋人同士になったオレたちだけれど、それと同時期に仕事が忙しくなった。気が付いたらあっという間にRe:valeはトップアイドルという肩書きをもらうまでになり、奈々美ちゃんと会える時間は自然と減ってしまった。

ありがたいことに忙しくさせてもらってる毎日の中で、彼女のことだけが気がかりだった。
寂しい思いをさせてしまってるってわかっていても、分刻みのスケジュールではラビチャを送るのがやっとだった。
おかりんからも、スキャンダルは気を付けてくださいね!なんて言われ始め(主にはユキに向けて言っていたようだけれど)ますます迂闊に会いに行けなくなってしまった。
月に1回多くて2回会えればいい方で、それで十分と思うって人もいるかも知れないけど、オレはダメだった。
奈々美ちゃんで元気をチャージしないと、オレの弱い部分がすぐに顔を覗かせてしまうのだ。





百くんの料理は最高だよ!なんて未だににこにこと笑っている奈々美ちゃんが3本目の缶チューハイに手を伸ばしたのをみて、オレはストップをかけた。

「今日はもう終わり!」
「え〜…もっと飲みたい!」
「3本飲んだら奈々美ちゃん寝ちゃうでしょ!」

オレの言葉に眉を下げた奈々美ちゃんに、罪悪感が芽生えたけれど、オレは心を鬼にして缶チューハイを取り上げ冷蔵庫へと仕舞った。
お皿も片付けないと。と振り返ると、そこには奈々美ちゃんが立っていてちょっとびくっ!としたのはここだけの秘密で。
そんなオレを他所に、奈々美ちゃんはオレの腕を引っ張っりだした。それに黙ってついていけば奈々美ちゃんが向かった先は彼女のベッドで、まさかの彼女からのお誘いに口元がにやける。


「はい、百くん寝て」


その指示に従ってベッドに寝転がれば、奈々美ちゃんもオレの隣に寝転がってオレに抱きついた。そしてオレが彼女の細い腰にそっと腕を回したと同時に、おやすみなさい。と呟いて寝息を立て始めた。
…寝息を立て始めた?!


「え、ちょっと奈々美ちゃん?!」
「ん〜何?」
「何?じゃなくて、寝ちゃうの?!」

ん〜…。と言ってオレの胸に顔を埋めた奈々美ちゃん。ねぇ、本当に寝ちゃうの?!と声をかければ、その肩が小さく震え始めた。そして、くすくすと笑い声が聞こえ、あっ、やられた。と思った。



「寝ないよ」
「いたずらっ子め!」
「あははっ!百くん面白かった」

奈々美ちゃんはお酒が入るといたずらっ子になるのをすっかり忘れてた。
このー!と奈々美ちゃんに馬乗りになり脇腹をすくぐれば、彼女は、やめてー!と笑いながら身を捩った。それによって捲れ上がったシャツから覗く白く柔らかな肌にそっと触れれば、奈々美ちゃんは笑うのをやめた。



「…ねぇ、いい?」

オレの言葉に顔を赤くしながら頷いた奈々美ちゃんにそっとキスを落として、彼女のシャツに差し込んでいる手を進める。しかし、その手は奈々美ちゃんの手によって止められた。

「あ、待って百くん。お風呂入ってないから、やっぱまだダメ!」
「え、もう勃っちゃったんだけど」

そう言って奈々美ちゃんの手を取って自身に重ねれば驚いたのか、その手がぴくっと動く。そのまま自身を擦り付けるように上下に動かすも、奈々美ちゃんは、ダメ!と言って上体を起こした。
そしてオレを置いて部屋着と下着を手に、すぐ出てくるからね〜!なんてにこにこと笑って浴室に向かってしまった。
その笑顔をからして、彼女はまだまだいたずらっ子モードらしい。

1人残されたオレは、今頃浴室でくすくすと笑っているであろう奈々美ちゃんを想像して、そっちがその気なら。と浴室へと向かった。




脱衣所で呑気に鼻歌を歌いながら服を脱いでる奈々美ちゃんに、後ろから近付いて下着に手をかければ、彼女は百くん?!と声を上げながら勢いよく振り返った。

「手伝ってあげる!」
「えっ、大丈夫だよ。百くん、疲れてるんだからゆっくりして…?って、ちょっと、自分で脱げるってば…!」
「折角久々に会えたんだから、オレは奈々美ちゃんと1秒でも長く一緒に居たいんだけどなぁ…」

そう言ってブラのホックを外せば、自分の手で胸元を覆う奈々美ちゃん。それが妙にえっちで、自身に熱が集まる。
っていうか帰ってきてすぐキスした時は、止めなくていいって言ったくせに、いざシようとすると軽く抵抗を見せるの、正直めちゃくちゃクるしめちゃくちゃかわいい。
1秒でも長く一緒に居たいという言葉が刺さったのか、奈々美ちゃんは顔だけをこちらに向けて、じゃあ一緒に入る…?と首を傾げた。その上目遣いがめちゃくちゃ可愛くて、返事の代わりにチュッと音を立てながらキスをすれば、でも!という言葉とともに、人差し指を目の前に突き立てられる。


「お風呂では、何もしないでね?」


無理に決まってるじゃん!なんて言葉はぐっと飲み込んでオレは、わかった!と言い、彼女に続いて自身の服を脱ぎ始めた。



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