推す以外の選択肢はない
やばいやばいやばい。つい来てしまった。
なににって?超人気アイドルIDOLiSH7の握手会に、だ。
元々はアイドルなんか興味なかった。そんな俺がなんでこんなところにいるのかというと、きっかけはそう、たまたまだった。
半年前、たまたまつけていた音楽番組で、たまたま目で追っていた彼が、たまたまカメラに向かってウィンクをした姿に、たまたま心を撃ち抜かれた。そんなたまたまが重なっただけ。
別にそれからIDOLiSH7のCD、DVD、グッズを買い漁ったりなんかしてないし、そのためにバイトを掛け持ちしてるなんてこともない。
今日も、最新のCDについてた握手会の応募券を使って応募したら、たまたま当たってしまっただけであって、別にこのためにCDを10枚買ったとかそんなことはしてないし、学校が終わったと同時にめちゃくちゃ走ったとかそんな事も全くしてない。
「ま、まぁ?どうせ生で見たら大したことないかもしれないし?それに、今日はお試しだし、別に俺には推しとかいないし」
誰に言うわけでもなく1人呟きながら会場に入って、俺は言葉を失った。
女子しかいない…!!!!!
どこもかしこもカラフルな服装の女子ばっかりの中、制服の俺はめちゃくちゃ場違い感がすごい。ただでさえ男ってだけでも浮くのに。その証拠に周りの女子も俺をチラチラ見ながら何か喋ってる。
居心地が悪くてお目当のレーンを見つけてそそくさとその列に並べば、俺の2人前にスーツを着たおじさんが居るのを見つけてちょっと安心した。
それにしても、列が長い。握手券に『グループF17:00〜』と書かれているあたりからして、時間である程度の人数で区切られてそうだけど、何度も折り返しているその列を見て、先日彼女と行った某テーマパークを思い出した。ちなみにその彼女とは先日別れた。理由はわからないけどなんか振られた。数日間はショックを受けてたけど、IDOLiSH7のDVDを毎日観てたら元気になったからIDOLiSH7はやっぱりすごい。
一応言っておくと、そのDVDもたまたまデッキにセットしっぱなしだったやつで、わざわざ彼のファンサがカメラに抜かれてるDVDを選んだとかそんなことはしてない。
「はー…緊張する…」
列に並びんでしばらく経ったあと、思わず口に出していた言葉に、前のお姉さんが振り返った。それにびっくりして、なんとなく会釈をしたら、お姉さんは笑顔を向けてくれた。
「握手会、はじめて?」
「え?!あ、はい…」
「緊張するよね、高校生?」
「そうっす!学校終わったあと急いできました!…あ!うそです、別に急いだりなんてしてなくて、今日もたまたま当たっただけで、ここにも、別に推しとかじゃなくてお試しで来ただけで、えっと…!」
そう言って慌て出した俺に、お姉さんの目が鋭く光ったように見えて思わず、動きを止めた。
なんかしちゃった…?あ…、たまたま当たったとか、お試しとか言ったのがマズかったかな。そうだよな、俺なんかより沢山CD買っても当たらなかった人とか居るんだろうし、ここに並んでる人はみんな彼を推してるわけだし…。
気まずくなって、俯けば、それに気付いたのかお姉さんは、はっ!ごめんね!と眉を下げた。
「ちょっと推しの片鱗を感じて」
「え?」
「いや、大丈夫こっちの話。君はアイナナのファンだって事隠してるの?」
「あ…。すみません、学校にはIDOLiSH7好きな友達居ないんで、その、隠すのが癖になってたって言うか…」
そう言って眉を下げれば今度は、ゔっ…!と言って胸元を押さえたお姉さんに、大丈夫ですか?と声をかければ、大丈夫よ!と笑顔を返された。
「じゃあ、学校で話せない分、お姉さんと話さない?!」
どこが好きなの?何がきっかけ?と、話題を振ってくれるお姉さんのに俺はただただ感動した。
IDOLiSH7のファンは優しいんだな…!!
それから俺はいつも話せない分、文字通り時間も忘れて話まくった。
お姉さんとの話が盛り上がりすぎて、気がつけばあと折り返しもあと1回というところまで列が進んでいた。
「やべー…緊張しすぎて死にそうっす」
「緊張するよね〜!!でも、君は大丈夫!!」
「何がですか?」
「絶対彼の好みのタイプだから!」
「へ?」
そう言ってお姉さんは鞄から取り出したうちわとオレの顔を見比べ、うん!と大きく頷いた。
「君、陸くんに似てるって言われるでしょ?!」
「えっ?!俺がですか?!ないない!!ないっすよ!今まで一度も…」
ん?そう言えば俺がIDOLiSH7にハマる前、バイト先の人に『アイナナの陸くんに似てる〜!』と、言われた事があるような気がする…。
その頃は『アイナナ』も『陸くん』も知らなかったから、適当にまじっすか〜!なんて言って流したけれど、え、まじか、俺って陸くんに似てるのか。え、いやいやいや、恐れ多い…!
「その顔、あるんでしょ?」
「…やっ、でも1回だけっすよ!それに、俺なんかが陸くんに似てるなんて、陸くんのファンに刺されますって!」
「大丈夫!その陸くんのファンが言ってるんだから!」
ほら!と、手に持っていたうちわを俺の方に向けたお姉さん。確かにそこには陸くんの顔が。え?お姉さん陸くんのファンなの???え?でもここは…
「はっ!!俺、もしかして並ぶところ間違えた?!」
「えっ?あはは!違う違う、私2人が好きで推してるの」
ファンサイトも作ってるんだ。と小声で言ったお姉さんの言葉に、よかったぁ…。と安堵の息を吐きながら返せば、それ!!!とお姉さんの目が再び鋭く光った。
「顔だけじゃなくて、言動もそれとなく陸くんみを感じる!」
「り、陸くんみ…?」
「だから!君は!絶対!彼のタイプ!」
私が言うんだから間違いない!と自身の胸を叩いたお姉さんの言葉に周りからも、私もそう思う〜!なんて言葉も聞こえてびっくりした。
なんならお姉さんの前に並んでるスーツのおじさんも、振り返って頷いている。
「そう、なんすかね…?俺普段はもっと口調荒いっすよ」
「どうせ本人を目の前にしたら緊張して敬語になるから大丈夫!」
なにが大丈夫なんだ?!なんて思ってる間に、もうあと片手で数えられるくらいで自分の番が回ってくる事に気が付いた。
さっきお姉さんに教えてもらったけど、今回の握手会は、待機列と握手ブースの間にパーテーション、更に出入り口はカーテンで仕切られていて完全に個室のような空間になっているらしい(勿論、スタッフさんは居るけれど)
そして、肝心の握手の時間は僅か5秒…!!しかもその5秒は体感1秒らしい。今更になってそれを思い出して、5秒で何が話せるんだよ…!と考えている俺を他所に、光の速さで前髪や化粧を直すお姉さんを見て、いよいよなんだと心臓が爆発しそうになる。
「あああ、もうすぐじゃないっすか!え、どうしよう何喋ろう」
「話題が思い浮かばなかったら、とりあえず初めてって事だけ伝えればあとは彼が何とかしてくれる!」
まじかよ。って思いながらぱっと顔をあげれば、スーツのおじさんがまたもや振り返って頷いた。そしてスーツのおじさんはカーテンの向こうへと消えていった。
それが意味するのはつまり、俺の前に並んでいるのはあとはお姉さんだけで、次の次が俺の番って事だ。
じゃあね!と声をかけてくれたお姉さんも、気が付いたらカーテンの向こうへと消えていて、どうやら実際5秒=体感1秒は本当のようだ。
「次の方どうぞー」
スタッフさんに呼ばれて開けられたカーテンの中に入れば、少し驚いたような顔を向けたあと、綺麗に笑った和泉一織がそこにいた。
「こんにちは」
「こっ、こんにちは!」
「同年代の男性に来ていただけるなんて、驚きました」
「えっ!あ!あの、俺初めてで!」
「そうですよね。今までお会いしていたら覚えていると思います」
「覚え…!?あっ、あの!また絶対来るので…!」
「はいお時間ですー進んでくださーい」
スタッフさんの声に話を遮られた。
えええ?!もう?!早すぎる何も伝えられてない!!
スタッフさんに軽く肩を押されている俺の手を、一織くんは最後にギュッと握って、「また絶対来てくださいね」と言いながら、ウィンクをしてくれた。
それと同時に心に芽生えたとある感情を胸に、俺はスタッフさんに流されるままブースを出た。
ブースを出たあと、会場内を放心状態でのろのろと歩いていたら、あ!!と声をかけられた。顔を向ければそこにはさっきのお姉さんと、そのお友達さん?が何人か居た。
「どうだった?!」
「いや…あの…なんか全く記憶ないっす…全然喋れなかったし…でも、なんか、最後に、う、うううう、ウィンク、ウィンクを…」
「え?!ウィンク?!してくれたの?!」
「お、俺の見間違いじゃなければ…」
ねぇ!一織くんウィンクしてくれたって!そう友達に報告しているお姉さんの言葉に、あれって普通じゃないの?と、瞬きを繰り返す。
「一織くん、普段握手会では話す方をメインにしてくれるから全然ファンサしないんだけど、君には絶対ファンサしてくれるんじゃないかって話してたんだよ!」
「そ、そんなレアなんすか…?」
「すごいよ!レア中のレア!!」
よかったね!おめでとう!なんてお姉さんのお友達さんもお祝いしてくれて、なんならちょっと離れたところにいた、あのスーツのおじさんもぐっと親指を立ててくれた。
なんかよくわかんないけど、めちゃくちゃ嬉しい。
「お姉さん、今日はありがとうございました…!」
「お礼言われるような事してないから〜!それで?お試しなんて言ってたけど、実際の感想は??」
俺の気持ちなんてお見通しと言わんばかりににこにこしているお姉さんに、俺は先ほど抱いた気持ちを改めて確認して、そしてしっかりと宣言した。
「一生推します!!!!!!」
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匿名様リクエスト
一織君推しの同年代男性ファンがIDOLiSH7の握手会に当選して一織君にファンサを貰って一生推すお話
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