楽しみは翌朝




あの後、2人で俺の家に帰ってきた俺達。
念のため千に一報入れれば、『お礼は焼き肉でいいよ。僕は食べないけど。あ、勿論4人でね』と返信がきて思わず2人で顔を見合わせて笑った。

そんなこんなで正式に恋人になった俺達だけれど、まさか奈々美と付き合う日が来るなんて思ってもみなかった。高校生の自分に言ったら心底驚かれるだろう。
そんな事を1人ぼーっと風呂で考えていたら、いつもより長く入りすぎてのぼせそうになって、俺は慌てて風呂から上がった。





寝室へ足を踏み入れたと同時に、ベッドに寝転んでいた奈々美が尋ねてきた。

「ねぇ、俺の方が先だったって、いつから?」

突飛押しもない質問に、俺は瞬きを繰り返す。

「…何が?」
「何がじゃなくて、万理はいつから私の事好きだったの?」

うつ伏せの体勢で上体を起こし肘で体を支えながらそう言った奈々美。その目は期待に満ち溢れて爛々と輝いていた。

「…別にいつでもいいだろ」
「よくない。聞きたい」
「そう言うお前は?」
「話逸らさないでよ」

そう言って目を細めた奈々美を尻目に、ベッドに腰をかける。起き上がった奈々美は未だに俺をじっと見ていて、どうやら俺の返事を聞かないと気が済まないらしい。

「いつから?」
「女ってそう言うのこだわるよな」

肩を竦めながら何の気なしに言った言葉に、奈々美が顔を顰めたのがわかった。何か気に触ること言った?と首を傾げれば、奈々美は俺目掛けて飛んできて、そのまま俺の腰に腕を回した。そして俺の腹に顔を埋めながら呟く。



「…今までの女と一緒にしないでよ」



その言葉に思わず口角が上がる。彼女の髪を耳にかければ、その耳は案の定真っ赤に染まっていてさらに口角が上がった。

「耳真っ赤」
「…うるさい」

そう言って俺を睨みあげる顔もすっかり赤く染まっていて、顔も真っ赤。なんてからかえば、もういい!と、俺の腰から腕を離し起き上がった奈々美。
その肩を軽く押せば、面白いほど簡単に背中からベッドに倒れ込み、俺はその上に覆いかぶさる。



「ちょっ、何?」
「初めてキスした日だよ」
「えっ?」
「俺がおまえを好きになったの」

覚えてる?と顔を近付ければ、覚えてるに決まってるじゃん。と尖った唇にそっとキスを落とす。
そのままチュッと音を立てて離れれば、奈々美が両手で自分の顔を覆っていて、思わず笑ってしまった。

「照れすぎ」
「…思った以上に早かった」
「そうだよ。おまえは?」

そう尋ねれば、奈々美はほんの少しだけ首を上げて、俺のおでこに自分のおでこをこつんとぶつけた。

「頭突きされた時」
「ん…?あぁ、あの時か。何、頭突きされて好きになったの?」
「違うから」

再び尖った唇にキスをしようと顔を近づけるが、それは奈々美の手によって阻まれた。そのまま奈々美の横に寝転がって腰に手を回せば、抵抗して離れていくその身体に思わず苦笑いが溢れる。

「何もしないよ」
「…信用ならない」
「本当に何もしない」

だから、ね?と腰に回した手に再び力を込めれば、今度はすんなりと近付いた身体。
ふと先程の、今までの女と一緒にしないでよ。という奈々美の言葉を思い出し、俺は口を開いた。



「今までの女と一緒になんかしてないから」
「…あっそ」
「信じてない?」
「うん」

はっきりそう言った奈々美に、どうしたら信じてもらえるかと考えたけれど、まぁいい言葉なんて浮かばなかった。

「おまえって呼ぶ女は奈々美だけ」
「…喜んでいいの?」
「素の俺を知ってる女はおまえだけってこと。自分から告白したのも初めてだし、他の人に取られたくないと思ったのも初めて、あと毎日食べたいと思った料理もおまえのだけだし」
「わ、わかった。もういいから」

両頬を自身の手で押さえながら、目を逸らしてそう言う奈々美は、なんだかめちゃくちゃかわいい。
とにかく今までの女とは全然違うという事を証明したくて、付け足した言葉はどうやら要らなかったようだ。

「ベッドの上で服着たまま抱き合うのも初めて」
「…ねぇ、最低。さっきまでのときめき返して」
「あっ、離れるなよ」
「万理がクズなの忘れてた」
「おい。……あんな事した俺が言うのもあれだけど、奈々美がいいって言うまで手出さないから」

そう言った俺の言葉に、奈々美は数回瞬きをした後、本当に?と目を細めた。

「本当だって」
「嘘じゃない?」
「言ったろ?もう嘘はつかない」

約束するよ。と手を取り小指を絡めながら微笑めば、奈々美は俺の胸に顔を埋めて、俺の背中に腕を回した。

「どうした?」
「…むかつく」
「何が」

俺の問いに沈黙を貫く奈々美の顔を見たくて、少し離れようとしたけれど、それと同時に背中に回っている腕に力が込められる。
そのまま俺の胸にさらに顔を埋めた奈々美の頬に触れれば、少し熱くて、また顔を真っ赤にしてるんだろうな。なんて考えたらつい笑い声が溢れた。

「笑わないで」
「おまえ、そんな照れ屋だったっけ?」
「…万理のせいだから」

ぽつりと呟かれたその言葉に、口元が緩む。
恋人同士だから見れる奈々美のいろんな顔をこれから沢山知れるのかと思ったら楽しみで仕方がない。

とりあえず今わかってるのは…



「意外と泣き虫で照れ屋」
「は?」

その声と共に顔を上げた奈々美に、なんでもない。と再び微笑めば露骨に目を逸らされた。そして奈々美はそのままもぞもぞと動き、俺に背中を向ける。
たった今もう一つわかった事があるけど、これはこの先使えそうだからあえて言わないでおこう。

「ねぇ、こっち向いてよ」
「…やだ」
「会えてなかった分、おまえの顔見たいんだけどなぁ」

耳元でそう囁いても肩を跳ねさせるだけで、一向にこちらを向く気配のない奈々美の服の中に手を差し込み、胸の膨らみにそっと触れた。眉を吊り上げながら勢いよく振り返った奈々美に、待ってましたと言わんばかりにキスをする。
触れるだけのキスだけじゃ足りなくて、唇を割って舌を絡めれば、それと同時に奈々美が俺の胸を押した。
それを無視して暫く堪能した後、これ以上は我慢できなくなりそうだから。と、俺はゆっくりと唇を離す。



「ねぇ、手出さないって言った!」
「キスしないとは言ってない」
「……胸触ったでしょ」
「おまえがこっち向かないのが悪い」

なにそれ!と俺の胸を叩いた奈々美の頭を抱き寄せれば、最初は抵抗していたのに段々と大人しくなった。
動物に例えるなら猫だよなぁ。なんて考えていたら、奈々美の指が俺の髪に触れ、毛先を指でくるくるといじりはじめた。

「…万理は、本当に私でいいの?」
「ん?」
「私、万理が思ってる以上に面倒くさい女だよ」

チラッと上目遣いで俺を見た奈々美の瞳は、ほんの少しだけ不安げに揺れている。俺は何も言ってないのに、自分の言葉に不安になるなんて馬鹿だな。なんて、思わず口角があがる。

「また笑ってる」
「おまえが馬鹿だから」
「なっ?!」
「俺はおまえのこと面倒くさい女なんて思った事ないよ」
「…これから思うかもよ」
「思う事があったとしても、俺はおまえがいいの」

わかった?と首を傾げれば、奈々美は頬を染めながら小さく頷いた。その頭をぽんぽんと軽く叩いて、そろそろ寝よ。と声をかけて、リモコンで電気を消す。

部屋が暗くなると共に、1日の疲れがどっと来た俺は、そのままそっと目を閉じる。
遠くなる意識の中で俺を呼ぶ奈々美の声と、好き。と言う言葉が聞こえた。それに返事をする気力はもう無いから、朝起きて一番に、俺もだよ。って伝えてみよう。
きっと奈々美は顔を赤くして、急に何?なんて言うんだろうな。


そんな事を考えながら、久々に穏やかな気持ちで眠りについた。



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