本当は誰のためなのか




「昨夜の事は、オサムくんにも話そう」

朝食の席での父からの提案に対し、奈々美さんはなかなか首を縦に振らなかった。
迷惑をかけたくないと言う彼女に、決めるのは奈々美さんだからね。とだけ言い残し家を後にした父の言葉に続けるように、私は奈々美さんに声をかける。

「私も、オサムさんには話すべきだと思います」
「…うん。話した方がいいってわかってはいるんだけど」
「迷惑だなんて思わないんじゃないでしょうか」
「…そうかな。電話してみようかな」

そう言って部屋を出て電話をかけにいった奈々美さんの背中を見送りながら、自身のスマホに入ったラビチャを確認する。
送り主は一織さんからで、そこには『片瀬さんを寮まで連れてきてください』と書かれていて、えぇ?!と思わず声を出してしまい、慌てて口を抑える。
一織さんは、片瀬さんと環さんが仲良くしてるのをあまり良く思っていないと思っていたため驚いてしまった。
取り急ぎ、わかりました。と返信をして奈々美さんの戻りを待つ。すると程なくして奈々美さんが戻ってきた。

「…はぁ」
「どうでしたか…?」
「オサムさん、ちょっと怒ってそうだった…」

そう言って肩を落とした奈々美さんに、入れたばかりの紅茶を差し出せば、ありがとう。と力ない笑顔が返ってくる。
そして先程一織さんから来たラビチャの内容を伝えれば、奈々美さんは少し驚きながらも快諾してくれたため、私たちは寮へと向かう事にした。





「こちらをどうぞ」

寮に着いて早々に一織さんから手渡されたのはホッチキス留めされている資料のようなもので、私と奈々美さんは顔を見合わせて首を傾げる。
改めて手渡された紙に目を向ければそこには『ストーカー撃退大作戦!』と環さんの字で書かれていた。所々字が間違っていて、ぐるぐると塗りつぶされているのが彼らしくて思わず笑ってしまう。

「えっと…これは?」
「表題のままです。昨晩7人で考えた作戦がその資料に記されてます」
「作戦?」
「と言っても、私たちが関与できるのは同じ現場の時だけなので、あとはオサムさんの力をお借りする形になりますが」

そう言って一織さんが奈々美さんを一瞥すると同時に、バタバタと大きな足音と共に、勢いよく扉が開いた。

「ななみん来てんの?!」
「環くん、今起きたの?」
「そう!!って、いおりん!なんで起こしてくんなかったんだよ!」
「起こしましたよ。それに、兄さん達だってそれぞれ仕事に行く前に声をかけてました」

まったく。とため息を吐いた一織さんを他所に、環さんはソファの後ろから奈々美さんの首に腕を回して、顔を覗き込んでいた。

「ななみん、昨日眠れた?」
「うん。紡ちゃんのおかげでぐっすり」
「よかった。ここ来るまでの間変なやついなかった?」
「大丈夫だったよ」

環さんがほっとした表情を浮かべると同時に、一織さんがゴホン!と咳払いをした。

「続けても?」
「あ、はい。お願いします」
「まず、私たちと同じ現場の時はマネージャーの車で私たちと一緒に現場に向かってください。帰りは都度相談が必要になりますが」

それから…。と話を続けようとする一織さんを環さんが、だからー!と遮り、奈々美さんに回してる腕に力を込めた。

「そんな細かく決めなくても、俺がななみんとずっと一緒に居ればいーじゃん」
「昨日から何度も言ってるでしょう。そんな事現実的に考えて不可能なんです」

呆れたような顔でそう言う一織さんに環さんは、ちぇっ。と小さく舌打ちをして、腕の力を少し緩めて奈々美さんの頭の上に顎を乗せる。
それに対して小さくため息を吐いた一織さんは、続けます。と『ストーカー撃退大作戦!』なるものの概要を話し始めた。
簡単にまとめると、奈々美さんを1人にしない!というもので、危険な事を考えていないようでほっと胸を撫で下ろした。奈々美さんもそれは同じだったようで、2人で顔を見合わせて小さく笑った。




「わざわざ考えてくれてありがとう」
「いえ、別に。放置しておくと四葉さんが暴走しかねないと思ったので。決してあなたのためでは無いですから」

そう言って寮の前の道をきょろきょろと見回している環さんを見た私達。それに気が付いたのか、環さんが腕で大きく丸を作って、にかっと笑った。

「ななみん、大丈夫。変なやつ居ない」
「ありがとう」
「あ、にゃんこだ。あいついつもこの辺歩いてんだ」

行こ。と奈々美さんの手を取ってこの辺りに住みついている猫の元へと歩いて行った環さんと、それについて行く奈々美さんの後ろ姿を見ていると、マネージャー。と一織さんが私を呼んだ。

「はい?」
「実は、犯人の目星はついてるんです」
「えっ?!」
「こちらはご内密に」
「…はい」

おそらく、彼女は反対すると思うので。
そう言ってもう1部の資料を手渡してきた一織さん。それを受け取れば、一織さんは猫と遊んでいる奈々美さんに目を向けた。
楽しそうに笑い合ってる2人を見て、一織さんが小さく微笑んだのがわかった。



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