好きなところ




「バンさん、奈々美さん、おめでとうございます!!2人がうまくいってよかったです!!」
「百くんありがとう」
「おめでとう。まさか2人が付き合うなんて思ってもなかったよ」

自分の事のように喜びながら、にこにこと笑っている百くんと打って変わって、胡散臭い微笑みを浮かべてる千に、俺と奈々美は顔を見合わせた。奈々美の顔には、何言ってんのこいつ。と書かれていて、俺は思わずぷっと吹き出す。

「奈々美、ひどい顔」
「あれ、本当だ。万になんかされた?」
「…誰のせいよ」

奈々美の呟きと共に、千は肩を竦めた。





今日は約束通り、4人で焼肉に来ている。
乾杯をしたあと、オレ焼きますね!とお肉を焼き始める百くんと、黙々と野菜を焼き始める千が対照的でなんだか面白いな。と眺めていたら、奈々美が2杯目を注文しようとタッチパネルをいじっていた。
なんだかいつもより飲むペースが早い奈々美に、飲み過ぎるなよ?と声をかければ、奈々美は口を尖らせながら、はーい。と呟いたのだった。

その後、仕事の話やうちの子達の話をしながら食事をし、酒も箸も時計の針もいい感じに進んだ頃。何やらうずうずしている百くんが目に入り、俺は声をかけた。

「百くん、どうしたの?」
「え!や、あの!聞いてもいいですか!」
「ん?何?」
「バンさんと奈々美さん、お互いのどこが好きなんですか?」
「えっ?」
「いいね。僕も聞きたい」

キラキラした目で尋ねてくる百くんと、これまた胡散臭い微笑みを向けている千。それに便乗する様に、俺も聞きたいな。と頬杖をついて奈々美の顔を見れば、嫌そうに目を細められる。

「言わないから」
「俺が言ったら言ってくれる?」
「言わない。…トイレ行ってくる。私が居ない間、変なこと言わないでよ?」

そう言ってグラスを傾けた後、席を外した奈々美が引き戸を閉めたタイミングで、千が口を開いた。

「仕方ないから、万からでいいよ」
「え?ん〜…好きなところか…。あいつの作る料理はとにかくうまい」
「なるほど?!バンさん、胃袋掴まれちゃった感じですか?!」
「ははっ、そうだね」
「へぇ、料理上手なんだ。それから?」
「あとは…」

そうだな…。と、しばらくぼーっと考えながら、思いついた事を口に出していく。
素直じゃないけど優しいところ、でも考えてる事はわかりやすくて、気を使わないところ。それから、一緒に居て楽なところ。意外と照れ屋なところも可愛いし、最近寝る時に…

「ちょっ!そんな話しなくていいから!」

いつの間に戻ってきていたのか、奈々美が声を上げながら慌てて俺の口を押さえた。その顔がほんのり赤く染まっているあたり、ちょっと前から俺の話を聞いていたのだろう。

「やっぱり変な事言ってた!」
「変な事じゃないだろ。奈々美の好きなところなんだから」
「ごちそうさま」
「バンさんって、奈々美さんの事めちゃくちゃ好きなんですね…!」

きゃっきゃとはしゃいでいる百くんが、それで?!と席に着いたばかりの奈々美に詰め寄る。

「奈々美さんは、バンさんのどこが好きなんですか?!」

奈々美は俺を数秒見つめたあと、先程と同じくキラキラした目で奈々美を見ている百くんに、はっきりとこう言った。



「顔」
「おい」

思わず突っ込んでしまった俺に、千が吹き出したのがわかった。顔って、いや、奈々美が俺の顔好きなのはなんとなく気が付いていたけど、本当にそれだけ?恋人なのに?と、頬杖を突きながら口を尖らせれば、奈々美はくすくすと笑い始めた。

「じゃあ、かっこいいと思うところは?」
「顔!」

そう言って再びくすくすと笑い始めた奈々美は、グラスに残っていたお酒を一気に飲み干した。あ、この感じ結構酔ってるな。
ちらりと時計を見やればそろそろいい時間で、戻ってきたら帰るか。と考えながら、俺は席を立つ。

「あれ、バンさんどこ行くんですか?」
「ん?あぁ、ちょっと一服してくるよ」

タバコを片手にそう言えば百くんは、いってらっしゃい!と元気よく、千と奈々美はいってらっしゃーい。と緩く見送ってくれた。





最近は全面禁煙が多い中で、喫煙室がある店はありがたいな。なんて考えながら、改めて奈々美の言葉を思い返しタバコに火をつける。

「…顔か」

俺は結構あいつのいろんなところが好きなのにな。と、ため息と共に煙を吐き出す。いや、照れてるだけで、本当は顔だけじゃ無いだろう。…無いよな?
悶々とし始めた気持ちをかき消すようにタバコを灰皿に押しつけて、ゆっくりするつもりだったのに。と心の中で呟きながら、俺は真相を確かめるべく足早に喫煙室を後にした。

3人の割に随分と賑わっている個室の引き戸を開けようと、引き手に指をかけたと同時に百くんの、ひゃー!と言う声が聞こえて、俺は動きを止めて耳をすませた。

「えっ、じゃあバンさんのイジワルなところにキュンッてしちゃう感じですか?!」
「奈々美ちゃんって、Mなの?」
「それはなんか語弊ある!あー!やだ、なんか恥ずかしくなってきた。もうこの話終わり!」

えー!と嘆く百くんの声をBGMに、緩む口元を必死で抑えながら何事もなかったかのように、ただいま。と引き戸を開ければ、顔を真っ赤にした奈々美と目が合う。
そして、楽しそうに笑っている百くんと千は、そそくさと荷物をまとめ始めた。多分、2人は俺がドアの向こうに居る事に気が付いていたのだろう。
あっという間に身支度を整え終わった2人は、オレを奈々美の隣に座らせ、これまた楽しそうに笑った。

「じゃあ!オレたち明日早いので!今日楽しかったです!またご飯しましょ!」
「あとは2人でごゆっくり」

バイバイ。と言って俺たちの返事を待たずに個室を出て行った2人を見送ったあと、奈々美に顔を向ければ、奈々美は両手で赤く染まった頬を抑え俯いていた。
ちらりとこちらを見た目は、慌てて逸らされた。





「…聞いてた?」
「ん?何が?」
「いや、だから、その…」

尻すぼみになっていく言葉に、ん?と言いながら顔を近付ければ、ソファの一番端まで移動する奈々美。
それを追いかけるように距離を詰めたあと、あぁ。と今更わかったかのように呟き、奈々美の腰に手を回して抱き寄せる。
そして、耳元で囁けば奈々美の肩が大袈裟に跳ねた。

「俺にイジワルされるの好きって話?」
「なっ?!」

違うから!と、言いつつも更に顔を赤く染めた奈々美に、口角を上げながら顔を近付ける。そして、こつんとおでこ同士をくっつけて至近距離で目を合わせれば奈々美は、ぎゅっ!と目を瞑った。
そんな奈々美の姿に更に口角を上げながら、俺はその頬にそっとキスをする。

「えっ…?」
「もしかして、口にされると思った?」
「はっ?!そ、そんなわけ…!」
「誰も見てないし口にしてもいいんだけど、抑え効かなくなっちゃうかもしれないからさ…」

家まで我慢して。と、耳元で囁けば奈々美は顔を隠すように俺の胸に抱きついてきた。あー!とか、うー!なんて呻いたあと奈々美の口から出た言葉に、俺は口元が緩んだ。



「だから、そう言うのに弱いんだってば…」



その後、家に帰った俺たちはお互いが満足するまで、ただひたすら唇を重ねた。



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