好きが溢れて幸せになる@
ポップで楽しげなBGM。家族連れや友達グループ、そしてカップル達の楽しそうな声。
「わー!!」
その中でも一際目立つ彼女の喜びの声に、俺は自然と笑みを溢した。
今日、俺たちはうさみみフレンズパークに来ている。
2人でテレビを見ている時に流れたうさみみフレンズパークのCMを、奈々美がやけに真剣に見ているのが気になり、今度の休みに一緒に行こうか。と提案したのが数週間前。
なんやかんやお互い忙しくて、約束していた『今度の休み』が、自分の誕生日の前日になるなんて思ってもみなかったが、無事に来られてよかった。
ちなみに奈々美も大きな仕事が一段落したらしく、休日出勤分の振り替え休日で今日と明日で休みを取ったらしい。
昨日の夜、興奮して眠れない!なんて言っていた奈々美を思い出しながら、未だに、わー!と感嘆の声を上げ、今にも走り出しそうな彼女の手を取る。
「ちょっとは落ち着け」
「だって、だって!やっと来れたんだもん!」
私、今世界で一番幸せだと思う。なんて真剣な顔で言う奈々美に思わず吹き出す。そう、なんと奈々美は今日が人生初のうさみみフレンズパークなのだ。
それを本人の口から聞いた時は、あんなにうさみみフレンズが好きなのに?!と驚いたが、なんでも、一緒に行ってくれる友達が居なかったとか。
ずっと来たいと思っていたが、さすがにテーマパークに1人で来る勇気はなかったらしく、今に至るらしい。
そわそわとしている奈々美に、どこから行く?と声をかければ、あそこ!と勢いよくある場所を指さした。その先にあったのはお土産屋さんで、俺は首を傾げた。
「最初にお土産見るの?」
「違う違う!あれが欲しいの」
そう言って奈々美がちらりと見たのは目の前のカップルで、その2人の頭にはカチューシャが…。
「あれって…もしかしてカチューシャ?」
「そう!いろんな種類のがあるんだって!」
「…俺は付けないから」
「大丈夫!万理に似合うの見つけてあげるから!」
いや、そう言う事じゃないんだけど。と心の中で呟きながらも、これでもかというくらい目を輝かせている奈々美を見たら、今日くらいは付き合ってやるか。という感情がどこからともなく湧いてくるのだから不思議だ。
早く行こう!と、俺の手を引く奈々美に連れられて、俺たちはお土産屋さんへと足を進めた。
「これ!絶対似合うって!」
「いや、さすがにそれはきついって…」
今日くらいは付き合ってやるかなんて思った数分前の自分は何処へやら、奈々美に差し出されたカチューシャを見て思わず顔が引きつった。
うさみみフレンズパークのカチューシャは名前の通り、そのほとんどがうさぎの耳になっていて、30歳を超えた成人男性がつけるにはきつすぎる。
しかし奈々美は問答無用に俺の頭にうさ耳カチューシャをつけた。
「…いけるよ!」
「いやいや。なんだよその間は。それより、おまえはどれにするの?」
「え?えっとね、これ」
自身の頭からカチューシャを取り、話を逸らすためにそう尋ねれば、奈々美が指さしたのは、シンプルなキャップで、なんならうさ耳すら付いていなかった。
「それ?なんで?」
「だって、カチューシャは、私にはかわいすぎるし…」
そう言って視線を落として唇を尖らせた奈々美俺は小さくため息を吐く。そして、手に持っていたカチューシャを奈々美の頭にそっと付ければ、それに反応するように奈々美は俺を見上げた。
「ちょっ!」
「うーん。やっぱり青よりピンクかな」
奈々美の頭からカチューシャを取り、それと入れ替えにピンクのカチューシャを付けてやれば、奈々美は戸惑ったように俺を見た。
「…ほら、私が付けても似合わないでしょ?」
「まさか。俺がつけるよりよっぽど似合ってるし、かわいいよ」
ぽんぽんっと頭を撫でれば、奈々美の頬がほんのり染まった。
うん、かわいいかわいい。
なんて心の中で呟いている俺を他所に、奈々美は、でもこっちもいいんだよなぁ…!と、白いキャップを手に取った。
俺はその隣にあった色違いの黒いキャップを手にとり被ってみる。シンプルだから被りやすいし、なによりうさ耳がついていないのはポイントが高い。
「あ、万理似合う!私もやっぱりこっちにしようかな」
「え?カチューシャにすればいいのに。大丈夫似合ってるよ」
「うーん…。カチューシャ捨てがたいけど、こっちなら万理とお揃いにできるなって」
「え?」
さらっと言われた言葉に、思わず口が開いてしまう。そんな俺の表情を見て、再び唇を尖らせて目を逸らした奈々美の頬は、さっきよりも赤くなっていた。
「…おまえ、やっぱりかわいいな」
「からかってるんでしょ」
「からかってなんか無いって。じゃ、今日はこれにしよ」
そう言って俺は棚から色違いのキャップを1つずつ手に取り、レジへと向かった。
お会計を済ませて店内をふらついている奈々美を探せば、名残惜しそうにカチューシャの棚を見ていて、思わず笑ってしまう。
そんな奈々美の頭に買ったばかりのキャップを被せれば、俺に気が付いていなかったのか奈々美は、きゃっ!と驚いた声を上げた。
「びっくりした」
「カチューシャは次来た時に買お」
ほら、行こう。と奈々美の手を取れば、彼女は嬉しそうに頷いた。
それから1日、俺たちは文字通り遊び倒した。
アトラクションに片っ端から乗り、ショーを観て、食べ歩きをして…終始テンションの高い奈々美はまるで子どものようで、なんだか子守をしてる気分だった。
それでも、楽しそうに笑う奈々美を沢山見れて、俺は柄にもなく、こういうのを幸せって言うんだな。なんて思ってしまった。
お土産屋さんも一通り回って、そろそろ帰ろうか。と出口に向かっている道中、奈々美はぬいぐるみを抱きながら、ん〜!と声を上げた。
「楽しかった!」
「それはよかった」
「万理は?楽しかった?」
「ん?楽しかったよ」
よかった!とご機嫌な奈々美は何かに気が付いたようで、急に足を止めて、待って!と声を上げながら、スマホの時計とガイドマップを何度か見比べたあと、俺を勢いよく見上げる。
「ねぇ!あとちょっとで、花火が始まる」
「あぁ…折角だから見てく?」
俺の問いかけに、見てく!と元気な返事をした奈々美は、すぐに近くのキャストさんに声をかけ、花火が綺麗に観られる場所を尋ねた。
どうやらいい場所があるらしく、俺たちは教えてもらった場所を目指すことにした。
多分こっち!と、奈々美に連れられるがままやって来た場所には人が全然居なくて俺は思わず、ここ?と首を傾げてしまった。
「合ってるはず。穴場だって言ってたし、ちょっと待ってみよ」
「そうだな」
流石に疲れたし座ろうか。と、俺たちは近くのベンチに腰をかけて時間を潰すことにした。
「ねぇ、万理」
「ん?」
「あの、本当に楽しかった…?」
「楽しかったよ。どうして?」
ちらりと俺を見た後、足元に視線を落とした奈々美は、んー…。と唸ったあと、なんか。と呟いた。
「一人ではしゃぎすぎちゃったかな、って。今更思って…ちょっと反省」
「そんな事気にするような仲じゃないだろ」
「うん、そうなんだけど。万理、明日誕生日なのに。これじゃまるで私の誕生日みたいじゃん」
罰が悪そうにそう言ってキャップのツバを両手で持ってぐっと下げた奈々美に、俺が思わず吹き出せば、ちょっと何笑ってんの?!と、腕を軽く叩かれた。
「奈々美が馬鹿だから」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだから」
「楽しかったよ。本当に。それに…」
「何?」
ゆっくりと奈々美が俺を見たと同時に、俺の言葉を遮るように大きな音と共に花火が上がった。
目の前に広がる花火に、すごい…!と口元を両手で押さえた奈々美。花火に照らされたその瞳がほんの少し潤んでいるのに気が付いて、それが酷く愛おしく思えた。
未だに口元に添えられているその手をそっと取って指を絡め、俺はゆっくりと顔を近付ける。
「ちょっと、万理!?ひ、人いるから…!」
「みんな花火見てるから大丈夫」
「そう言う問題じゃ無い!」
ぐっと俺の胸を押して距離を取る奈々美に、仕方ないか。と肩を竦めて、俺は被っていたキャップを脱いだ。
そして再び顔を近付け、奈々美。と名前を呼ぶ。なに?と奈々美がこちらを向いた瞬間に、触れるだけのキスをした。
「なっ!こんなとこで…!」
「大丈夫。これで隠したから」
手に持っているキャップを揺らしながら見せれば、だからそう言う問題じゃないってば!と奈々美は再び俺の胸を押した。
「ちゃんと楽しかったよ」
「もうわかったから」
「それに、おまえが楽しそうにしてるの見て、なんか幸せだな。って思ったよ」
「…幸せ?」
俺の言葉を繰り返した奈々美に頷けば、その瞳がまた潤んだ。それと同時に俺の胸を押してる腕の力が弱くなったのがわかって、俺はまたその唇にキスをした。
何度かキスを繰り返したあと、奈々美がぽつりと呟いた。
「…ねぇ、花火終わっちゃう」
奈々美のその呟きに俺は瞬きを繰り返した後、思わず小さく笑ってしまった。だって本当はもう奈々美だって、花火なんてどうでもいいはずだから。
「花火は次来た時にちゃんと見よう」
「…約束だよ」
「うん。約束」
そう言って俺は奈々美のキャップを脱がせ、少し乱れた髪を撫でる。そしてそのまま腰に手を添えて、もう片方の手で持っているキャップで俺たちの口元を隠した。
それから花火が終わるまで、俺たちは何度もキスをした。
back
novel top/site top