新たな出会い
文化祭からあっという間に時間が経った。
片瀬さんは無事クラスの女子と仲良くなって、漸くクラスに馴染めるようになったらしい。それはとても喜ばしい事なんだけど…。
「春原くん、どうしたの?」
「へっ?!何が?」
「一点を見つめながら無言で食べてたから」
何かあった?と俺の顔を覗き込んだ片瀬さんに慌てて、なんでもないよ!と返せば、彼女は安心したような表情になった。
それと同時に、オレしか知らなかった片瀬さんがみんなに知られていくのがなんだか嫌だなんて、謎の独占欲が出てきてしまっている自分に幻滅してため息が出た。
「あのね、春原くん」
「ん?どうしたの?」
片瀬さんからの呼びかけに首を傾げれば、彼女は言いづらそうに眉を下げながら話を続けた。
「その…またしばらく仕事が忙しくなりそうで、学校にあんまり来られないかもしれなくて」
「え!そうなんだ?!」
「うん。だから落ち着くまでお昼一緒に食べられないかも…」
「あ、そっか…」
ここ最近、クラスの子ともお昼を食べるようになった片瀬さん。当然オレとご飯を食べる回数は減ってしまい、会う回数が減ってしまっていた矢先の話で思わず肩を落としてしまい、オレは慌てて、全然大丈夫だよ!と顔の前で手を振った。
詳しく聞いたら、またドラマに出させてもらえる事になったんだと嬉しそうに笑う片瀬さん。
そんな彼女を見てたら、俺ももっと頑張らなきゃなって思えた。もうすぐ冬の大会が始まるし、春になったら後輩が入ってくるし、うかうかしてられない。
「お互い頑張ろうね」
心を読んだかのような片瀬さんの言葉に、オレは一瞬目を丸くしたあと大きく頷いた。
やっぱり、片瀬さんからもらう言葉はオレの支えになるようで、その日からはいつも以上に部活が頑張れた。
それから数日後、片瀬さんは話していた通り、あまり学校に来なくなった。オレはオレで、冬の大会に向けてただがむしゃらに練習に打ち込んだ。
そんな日々が続いたある日、なんとなくいつもの階段の踊り場で1人お昼を食べていると、誰かが階段を登ってくる足音が聞こえた。
片瀬さん?!と声を上げながら覗き込めば、その人は驚いたように顔を上げて持っていたお弁当を落としてしまった。
「びっくりした〜!」
「あっ、すみません!」
そこに居たのは全く知らない人で、オレは慌てて階段を駆け下りて、落ちたお弁当を拾って渡す。
そのお弁当は、踊り場から数段上がったところから踊り場まで転げ落ちてしまったから、きっと中身はぐちゃぐちゃになってしまっただろう。
「あのお弁当ごめんなさい」
「全然大丈夫です!…春原くん、ですよね?」
「え?あ、そうですけど…」
「私1年6組の佐藤唯です!」
1年6組、片瀬さんと同じクラスだ。一番最初に思ったのはそれ。二番目に思ったのは、佐藤さんは確か片瀬さんの次に男子の中で人気がある子で、なんなら片瀬さんよりもフランクで接しやすいから、そう言う点を考えると実質学年で一番人気がある!ってサッカー部の奴らが言ってたような…。という事だった。
「佐藤さんね、よろしく!それよりどうしたの?こんなところで」
「…ゆっくりご飯を食べられる場所を探してて」
たまには1人で食べようかなって思ってたんですよね。と笑った佐藤さんの気持ちが、なんとなくわかった。
昼休みのたびに呼び出されたり、別のクラスの人が自分を観察するように見に来るのは、正直めちゃくちゃストレスだ。これ、経験談。
だからだろうか、オレは屋上前の踊り場に佐藤さんを招き入れた。
招き入れたと言っても、ここはオレが所有している土地でも、管理してる場所でもなんでもないのだけれど、それでもなんとなく"オレと片瀬さんの特別な場所"なんて勝手に思っていたから、なんとなくそんな表現になってしまった。
同じ学年だし敬語は辞めようだとか、部活は?なんて雑談をしていたら話すのに夢中になってしまいそうでオレは彼女に、とりあえずご飯食べよっか。と声をかけた。
佐藤さんはお弁当の蓋を開けたと同時に、あ〜。と声を漏らす。
「やっぱりお弁当ぐちゃぐちゃだ」
「だよね…」
踊り場に座り込んだ佐藤さんのお弁当を覗き込めば、思っていた通りおかずがあちこちに散らばってしまっていた。
「本当にごめん!」
「大丈夫だよ全然食べられるし!」
「いや、でも…」
「…ねぇ、悪いなーって思ってるなら、私のお願い聞いてもらえない?」
「え?変な事じゃなければ…」
「変な事なんかじゃないよ!たまにこうやって一緒にご飯食べたいな。ここで」
そう言って笑った佐藤さんに、オレは悩む。
元々は片瀬さんと会うために使っているこの場所を、他の人とご飯を食べるために使うのはなんだか嫌で、でも断りづらいし、ん〜…。
「ここじゃなきゃダメ?中庭とか、他の…」
「ここがいいの!」
ね?なんて両手を胸の前で合わせて首を傾げる佐藤さんは、なんか"あざとい"って言葉が似合う。それでも渋るオレに、佐藤さんは呟いた。
「今日のお弁当、自信作だったのになぁ…」
「えっ、自分で作ってるの?」
「そう。毎朝早起きして頑張って作ってて、今日は今までで一番うまくいったお弁当だったの」
そう言って肩を落とした佐藤さんを見たら、やっぱりオレが悪いんだし…。と、腹を括らずにはいられなかった。
「わかった、たまにならいいよ!ここで一緒にご飯食べよ」
「やった!嬉しい!連絡先交換しよ!」
佐藤さんに言われるがままラビチャを交換し、その後も彼女のペースに飲まれてとんとん拍子に話が進んでいった。一緒に食べる日は彼女が当日決めるらしい。まぁその日の気分とかもあるだろうし、オレも特に誰と食べるとか決めてないからいいんだけど。
でも片瀬さんが来たときに佐藤さんが居たらどう思うんだろう。
その後も佐藤さんの話を聞きながら頭の片隅でオレは、片瀬さんの事ばっかり考えてた。
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