楽しそうな2人
環と奈々美さんが再会してから早数ヶ月。
オレ達のレギュラー番組以外の現場でもお世話になる機会が増え、みんな彼女の存在に慣れてきた。環も最初のそわそわなんて嘘のように彼女にベッタリで、その姿は姉弟のようで微笑ましい。とはいえ、当初から口煩かった一織は、2人の距離感にやたらと目を光らせているが…。
そんなオレたちは今日、TRIGGER、Re:valeとの合同特番の打ち合わせをするために小鳥遊事務所の会議室に集まっていた。今は前の仕事の関係で到着が遅れている十さんと九条、そして千さんを待ちながら各々談笑中だ。これ、先に目を通しておいてね。と、万理さんから配られた資料に、言われた通り目を通す。
今回は出演者の人数が多いため、スタッフさんも予めチーム分けがされているらしい。でもまぁ、最近よく担当してくれてるし、オレ達のヘアメイクは奈々美さんかな。なんて思いながら、読み進めていくと、はっ?!なんで?!と言う声が聞こえてきた。
最近このパターン多いな。と、小さく息を吐きながら資料を読み進めると、TRIGGERの担当チームに奈々美さんの名前が。あぁ、さっきの、なんで?!は、これか。
「なぁオサムっち!ななみん、俺らの担当じゃねぇの?」
なぁ!なんで!てか、ななみんどこ?!と、オサムさんに詰め寄る環と、こら環くん、失礼だよ…!とそれを止める壮五は最早アイナナ名物だよなぁ。なんて思いながら、オレは事の成り行きを見守る事にした。
「いやー。何でって言われてもなぁ。希望してTRIGGERのグループに入ったみたいだけど。理由までは聞いてないな」
ちなみにアイツは今、お宅のマネージャーさんと飲み物用意してくれてるよ。という言葉を聞くが早いか、ななみんー!!と、喚きながら給湯室へ向かう環。それを追いかけようとする壮五を、すぐ帰ってくるから座っときなさい。と諭した大和さんの言葉通り、数分も経たないうちに、環はしょんぼりしながら戻ってきた。
「うぅ…みっきー聞いてよ、ななみんってば酷いんだぜ?TRIGGERに声かけられたからTRIGGERのチーム入ったんだって。そんなんだったら、俺だって声かけたのにさ…」
しかも、邪魔だから部屋戻ってろって言われた。と、半ベソをかきはじめた環を、まぁまぁ、となだめていると、座っているオレたちに影が差す。誰だ?と顔を上げると、そこに立っているのは八乙女だった。
「なぁ、あんたら奈々美と親しいのか?」
意外な人物からの意外な問いに、え?あぁ、まぁ。と、なんとも曖昧な返事をしてしまう。そんな俺を他所に、環は、超親しいし!と、得意げに鼻を鳴らした。
「どこ行くにも一緒だし、ご飯もいつも隣!寝るのも、あとはお風「環ストーップ!!!」
二人の関係を知っているオレはすぐに幼少期の事を言ってるんだって理解できたが、二人の事を知らない八乙女には誤解を招きかねない…!と、慌てて環の口元を押さえる。ん〜ん〜!と唸る環と必死やオレの様子に、おふ?なんて疑問符を頭に浮かべながら訪ねてくる八乙女に、なんでもない!と言いながら話を続ける。
「奈々美さんと環、昔馴染みなんだよ。姉弟みたいなもんでさ、環が奈々美さんにベッタリなわけ。八乙女こそ、奈々美さんと親しいのか?呼び捨てだし」
と、尋ねれば、あぁ、まぁな。とすんなりと肯定した。そういえば、陸が奈々美さんはTRIGGERともお仕事してるんだって!と、教えてくれた事を思い出した。そしてオレはふと思った。わざわざオレ達に、彼女と親しいのか?なんて質問をしてきたくらいだ。もしかしたら、今回のグループ分けで奈々美さんを誘ったのも八乙女なのかもしれない、と。
「んっん〜!!!っぷは!みっきー!俺んこと殺す気かよ?!」
未だにオレに口元を押さえられていた環が、痺れを切らして暴れ始めたので、とっさに手を離した。どうやら勢い余って鼻も押さえてしまっていたらしい。ごめんな。と言えば、別にいいけど。と、すぐに許してくれた。
「んな事より、がっくんは?なんでそんな事聞くわけ?」
「ん?あぁ、四葉が奈々美と組めなくて駄々こねてるって、二階堂が言ってたからな。一応謝罪に」
四葉の姉貴、取っちまって悪いな。なんて真顔で言ってくるもんだから、姉貴って!取っちまってって!と、オレは思わず吹き出した。そんなオレとは対照に、反応のない環を横目で見やれば、明後日の方向を向き思いっきり口を尖らせ、いかにも拗ねてます。という表情だった。
「…謝るくらいなら返せし」
ボソリと呟いた環に、今度は八乙女が吹き出す。なっ!笑うなし!と、怒る環に音をつけるならプンプン!と言ったところだろうか。とりあえず、なんか、もう、その姿が微笑ましい…。八乙女に釣られてオレも笑えば、環の口はさらに尖る。するとそこに、楽しそうね。と、お茶を淹れ終わった奈々美さんがやってきた。
「よぉ、奈々美。お前の弟かわいいな」
「え?弟?」
と、八乙女の後ろからひょこっと顔を覗かせた奈々美さんは、環くんの表情を見て全てを察したようで、困り顔で笑っている。
「環くん、また拗ねてるの?」
「……別に拗ねてない」
はいはい。と言いながら彼女の手により、環の前に何かが置かれる。それは環の大好きな王様プリンだった。目を輝かせながら、え!何!これ限定のやつじゃん!くれんの?!と騒ぎ立てる環と、これあげるから機嫌治してね。と頭を撫でる奈々美さん。そんな2人の様子を見た八乙女の、どっちかって言うと親子だな。という呟きに、オレは本日2度目の吹き笑いを抑えきれなかった。
そんなオレらにお構いなしで、奈々美さんの口もとにスプーンを運ぶ環と、それをなんの躊躇いもなく口に含む奈々美さんが目に飛び込んでくる。それは所謂あーんってやつで、姉弟だ親子だと言いながらも、なんだか見てはいけない気がして、オレは思わず目を逸らし、八乙女に話しかける。
「そ、それはそうと、まさか八乙女が奈々美さんを直々にチームに誘うなんてなぁ」
「ん?あぁ。誘ったのは俺じゃないけどな」
「そうなのか?」
じゃあ誰が?というオレの質問とほぼ同時に、会議室にノックの音が響く。そして、失礼します。と言う声と共に、十さんが姿を現した。
「おはようございます!遅くなってすみません」
「十さん、お疲れ様です!」
ドア付近に居た壮五が真っ先に声をかけ、お席はあちらです。と誘導している。相変わらず壮五は仕事以外だとTRIGGERのファンの顔になるな。なんて思っていれば、スッとオレの横を人影が通り過ぎる。その影を目で追えば、それは奈々美さんで、彼女はそのまま十さんの元へと歩みを進める。そして挨拶を交わし談笑を始めた。引き受けてくれてありがとう。こちらこそお誘いありがとうございました。なんて、2人の会話が聞こえる。その姿はなんだかとても仲が良さそうだ。あれ、もしかして…?と、思わず八乙女の顔を見上げれば、目が合う。
「なぁ、八乙女」
「あぁ。奈々美を誘ったのは、俺じゃない」
龍だ。
そう言われ、再び十さんと奈々美さんに目を向ける。2人の空気感は、さっきまでオレたちの周りに漂っていた微笑ましいものとは、全く違う事が傍目に見てもわかる。特に十さんはいつも以上に優しい雰囲気だ。ぱっと見リラックスしているように見えるが、僅かに緊張しているのもわかる。そして普段から良く笑う奈々美さんも、いつも以上に笑顔が多い気がする。しかもそれは作り笑顔じゃなくて、自然に溢れる笑顔。
…あぁ、こういう時自分が鈍感だったら。って思う。そうしたら何も知らずに、自然に、あの2人に割って入れるのに。
「…なんか、ななみん楽しそう」
そうしたら、環の寂しそうな声なんか、聞かなくて済んだのに。
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