心ここにしかあらず
–もう直ぐ着くよ。
そのメッセージに了解!のスタンプを返して、鏡で髪を整える。外出をする予定は無いうえにこんな夜中なのに、しっかりメイクもして髪も巻いて、気合十分な自分の姿に思わず笑ってしまう。
でも今日は大好きな彼に会える特別な日だから、許してほしい。
「10月15日?」
『うん。その日仕事が終わってからなら、なんとか時間取れそうなんだ。と言っても移動時間を考えると日付は過ぎちゃうかもしれないんだけど…』
「私は次の日3限からだから大丈夫だけど、その…龍くんは大丈夫なの?」
つい先日、龍くんと電話をしている時に、そう言えばこの日空いてる?と突然尋ねられた。
沖縄に住んでる大学生の私と、東京で仕事をしている龍くんは、年に1回会えれば良い方で、最後に会ったのも確か1年くらい前だったと思う。その時も龍くんは仕事で来ていて、短い時間だけど。とわざわざ家に会いに来てくれたのだ。
今回もきっとそういう感じになるのだろう。
龍くんに会えるのは嬉しいのだけれど、無理はして欲しくない。そんな思いを込めて尋ねるも、龍くんは穏やかな声で笑った。
『大丈夫だよ。天と楽は俺と奈々美ちゃんの事知ってるし、寧ろ行ってこい!って言われてるんだ』
「そうなんだ…!」
龍くんの言葉に、じゃあお言葉に甘えて。と私達は15日の夜に会う約束をした。
龍くんが泊まってるホテルから私の家までは車で1時間半近くかかる。こういう時、もっと空港の近くに住んでればなって思う。
仕事終わりに車を運転させるのも悪いし、私が移動した方が会える時間が長くなるから、私がそっちに行くよ。と提案もしたけれど、夜道は危ないし、ゆっくりしたいから俺が会いに行くよ。と言われてしまった。
ゆっくりしたいと言うのは、人目を気にせずゆっくりしたい。って事なんだと思う。
こういう時、龍くんは大人気アイドルなんだと気付かされる。
「日付変わっちゃったなぁ…」
0時を30分程過ぎた時計を見ながら私が呟いたと同時に、スマホが着信を知らせた。慌てて電話を取れば、もしもし?と龍くんの優しい声が鼓膜を震わせる。
「もしもし!」
『遅くなっちゃってごめんね。車、奈々美ちゃんの車の隣に置いちゃったけど大丈夫?』
「うん!あっ、鍵…」
『持ってきたから大丈夫だよ』
「わかった。待ってるね!」
電話を切ったあと、私は再び鏡で髪を整える。それからリップを塗り直して、そわそわしながら今か今かと彼の到着を待ちわびる。
ガチャッ
鍵が外れ、ドアが開く音が部屋に響く。私は玄関へと走り、そしてドアが閉まったと同時に、勢いよく彼の胸へと飛び込んだ。
あぁ、今日はお淑やかにしようって思ってたのに、やっぱり私には無理みたい。
「龍くんおかえり!誕生日おめでとうございました!」
「わっ?!奈々美ちゃん!あはは、びっくりした。ありがとう」
ただいま、会いたかったよ。
そう言って私を抱きしめ返してくれた龍くんに、私も腕の力を強くする。久々に感じる温もりと彼の匂いに、なぜだか涙が出そうになった。
私も会いたかった、会えて嬉しい…会えなくてずっと寂しかったよ。
勢いで思わず口にしてしまいそうになった言葉をぐっと飲み込んで、私は龍くんの胸にぐりぐりと額を押し付けた。
「これ、天と楽から」
「わ!これ高いお酒だ…!」
「2人で飲んでくれ。って持たせてくれたんだ。優しいよね。折角だから今から一緒に飲まない?」
嬉しそうに笑う龍くんに釣られて、私も笑顔になる。あれ、でも一緒に飲まない?ってことは…。
「もしかして龍くん、今日泊まって行く…?」
「えっ、そのつもりだったんだけど…。ごめん、言ってなかった…当日に言われても困るよね」
自身の首の後ろに片手を回して、眉を下げて笑った龍くんに、私は慌てて、そうじゃないの!と声を上げる。
「その、嬉しくて」
「えっ…?」
「久々に会えただけでも嬉しいのに、明日の朝まで一緒に居られるなんて、夢みたい!」
「奈々美ちゃん…」
いつも仕事だからとその日のうちに帰ってしまう龍くんと、今日は朝まで居られる。本当に夢のようだと、口元が緩む。
そんな私と打って変わって、なんだか寂しそうな龍くんの表情に首を傾げた。
「…龍くん、どうしたの?」
「えっ?いや、なんでもないよ。さ!折角だから飲もう!」
そう言って笑いながら瓶を掲げた龍くんは、なんだか無理に笑っている気がした。
聞きたいことは沢山あるけど、まぁ、また後ででもいいかな。と私達はグラスを鳴らした。
「奈々美ちゃん…」
気が付いたら龍くんに抱き寄せられていた。
私を見つめる龍くんの視線は蕩けてしまいそうなほど熱くて、思わず固唾を飲み込む。
お酒のせいなのかとも思ったけど、まだ標準語な辺り、そこまでお酒は回っていないんだと思う。かく言う私もお酒にはそこそこ強いから、なんとなくぽーっとするくらいで、まだ自我がある。
徐々に近付いてきた龍くんの唇を、私はなんの抵抗もなく受け入れる。
久々のキスに、胸が高鳴った。
次第に深くなるキスに比例して、心拍数が上がっていく。首に腕を回し、龍くんに応えるように舌を絡ませれば、次第に荒くなった息が部屋に満ち始める。
しばらくして、名残惜しげに唇を離した龍くんの顔は、今度はなんだか緊張しているような面持ちだった。
「…龍くん、どうしたの?」
「えっ?」
「なんか、緊張してる…?」
「そんな事は!いや……奈々美ちゃん。話したい事があるんだ」
そこまで言って黙ってしまった龍くんを見て、最悪のシナリオが私の頭の中を埋め尽くした。早とちりかもしれない。でも、もしそうだったら?そう考えたら、自然と涙が溢れた。
「えっ?!ど、どうしたの?!」
突然泣き始めた私に、龍くんが狼狽えているのがわかったけど、涙は止まらない。慌てながらも私をぎゅっと抱きしめてくれる龍くんの優しさに、胸が締め付けられる。
「ごっ、ごめんね?俺、何かしちゃったかな?」
「別れたく、ない」
「えっ…?」
「龍くんと、別れたくない」
駄々をこねる子どものように力一杯龍くんを抱きしめる。
最悪だ。久々に会えて嬉しいのに、こんなのあんまりだ。
少し考えれば全部おかしかった。こんな夜遅くに会いに来てくれるのも、泊まって行くっていうのも、今までだったら全部あり得なかった。きっと、この話をしに来たんだ。
悪い方にしか考えられなくなってしまったのは、会えない時間が長すぎたからなのかな。でも、いつも我慢してきたし、我慢できた。
でもなぜか、今日はダメだった。
きっと私以外にいい人が見つかったんだ。東京には綺麗な人が沢山いるだろうし、龍くんは芸能人だからもしかしたら…。
そう考えれば考えるほど涙が止まらない。
龍くんはそんな私の肩をそっと掴み距離を取って、そのまま私をじっと見つめる。その顔は今まで見た中で一番真剣で、あぁ、いよいよなんだ。と思った。
「奈々美ちゃん」
「やだ、別れ話なら聞きたくない」
「違うんだ、別れる気なんてさらさらない。むしろ逆なんだ」
「……ぎゃ、く?」
私の言葉に頷いた龍くんに首を傾げれば、龍くんは困ったように笑いながら、指で私の涙を拭ってくれる。
逆?逆ってどういう事だろう。
頭の中がぐちゃぐちゃで、全然理解ができない。
そんな私の心境を汲み取ったのか、龍くんは目線を逸らしながら、あー…いや、あの…。と吃った後、意を決したように頷き、私の両手を握った。
もうすぐ彼女に会えると思うと心が落ち着かなかくて、俺はいつもよりスピードを上げて車を走らせる。
ハンドルを握る手に自然と力が入ってしまうのは、緊張のせいだと思う。
最後に会ったのは去年の夏、カレンダーの撮影で沖縄に来た時だった。その日は比較的撮影場所と奈々美ちゃんの家が近かったから、無理矢理時間を作って会いに行った。
わずか数時間でも彼女に会えるなら、仕事が大変になってもどうって事なかった。
東京と沖縄という距離のせいもあって、年に1回しか会えない俺たちは、まるで織姫と彦星だなんて何年か前の七夕の夜に2人で笑った事もあったっけ。
それでも、彼女に会える日が楽しみで、会えた時が幸せだから、それでもいいと思ってた。
そんな俺が考えを改めたのは、ゲストで呼ばれたトーク番組での女性陣の会話を聞いてだった。
「私、遠距離恋愛とか絶対無理です」
「あー、私も!」
「年に数回しか会えないんですもんね?」
「えー!寂しい!耐えられない!」
「耐えられたとしても、浮気とか心配になりません?」
「わかる〜!」
「あとさー…」
その後もしばらく続いた『遠距離恋愛』についてのトークは、現在進行形で遠距離恋愛をしている俺の胸にチクチクと刺さる。
寂しい、耐えられない、浮気…それらのマイナスな言葉達は、収録が終わる頃には大きなトゲとなって胸に深く刺さっていた。
ある日の酒の席で楽にその事を話せば、始めこそ影響受けすぎだろ。なんて笑っていた楽だったけれど、俺があまりにも思い詰めた顔をしていたのか、それからは真剣に話を聞いてくれた。
「俺は、今のままでも満足なんだ。年に1回しか会えなくても、次会える時まで頑張ろうって思えるから」
「そうか…。なら、あとは彼女次第だな」
「…彼女次第」
「龍がそれで良くても、彼女がそう思ってなかったら、そのうちうまくいかなくなるんじゃないのか?まぁ、東京来る前から付き合ってんだろ?今更心配しなくてもいいと思うけどな」
そう言って肩を竦めた楽の言葉に、胸がざわついた。
始めは、会えなくて寂しい。と言っていた奈々美ちゃんが、ここ数年…確かTRIGGERがデビューして軌道に乗ってきた頃から、何も言わなくなってきたからだ。
奈々美ちゃんの事だから、俺の負担になるまいと思ってくれてるもんだと思っていたけれど、もしかしたら、他にいい人が…?
急に不安になってきた俺は、今思うととんでもない事をこの時口にしていた。
「あのさ…アイドルって、結婚はやっぱり無理なのかな…?」
「は?!結婚?!」
「あ、いや、ごめん!彼女まだ大学生だし、今すぐにってわけじゃ…!いや、やっぱり気にしないで…。俺は2人とTRIGGERで頑張って行くって決めたんだ。だからもし彼女が寂しくて別れたいって言うなら、受け入れるしかない、かなぁ…」
自分の言葉で凹んでる自分に呆れていると、楽がため息を吐いた。
「驚いただけで、俺は別に反対なんかしないぜ。自分の言葉で勝手に落ち込むなよ」
「楽…」
「まぁ、俺たちの一存では決められないからな。まずは同棲くらいからにしておけよ」
するならバレないようにな。楽の言葉に頷きながら、その日は、次いつ会えるかわからない遠い地にいる彼女に想いを馳せた。
沖縄での仕事が決まったのは、それから間も無くだった。
撮影の進捗次第で、最終日は帰りの飛行機の時間まで自由に動けるようになると聞いた俺は、すぐに彼女に連絡をした。
もし撮影が終わらなくて次の日また撮影に戻らなきゃいけなくなっても、数時間でもいいから彼女に会いたかったから。
1時間半、ひたすら車を走らせようやく着いた彼女の家。ドアを潜ってすぐに衝撃が走り少し驚いたけれど、笑顔で出迎えてくれた彼女に自然と笑みが溢れた。
会いたかった。
思わず溢れたその言葉に返事はなくて、ほんの少し胸が痛んだ。
その後、天と楽からもらったお酒を荷物から出して、一緒に飲まないかと誘えば、奈々美ちゃんは目を丸くした。
「もしかして龍くん、今日泊まって行く…?」
首を傾げた奈々美ちゃんのその言葉で、泊まっていく事を伝えていなかった事に気が付いた。
急にごめん。と謝れば慌てて、そうじゃないの!と声を上げた奈々美ちゃん。その後に続いた言葉に、俺はまた胸が締め付けられる。
「その、嬉しくて」
「えっ…?」
「久々に会えただけでも嬉しいのに、明日の朝まで一緒に居られるなんて、夢みたいだから!」
嬉しそうに笑う奈々美ちゃんを見て、やっぱり寂しい思いをさせてしまっていたんだと、後悔をした。それと同時に、まだちゃんと俺のことを好きで居てくれてるのかななんて、淡い期待が芽生えたが、期待しすぎると後が辛くなるから、そっとその期待に蓋をした。
考えている事が表情に出ていたのか、奈々美ちゃんが俺を心配そうな顔で見る。
俺はそれに慌てて何でもないよと返し、それより飲もうかと酒瓶を掲げた。
アルコールを摂取して気分が高揚してきた俺は、奈々美ちゃんの体を抱き寄せて唇を重ねる。彼女も一生懸命それに応えてくれた。
そんな彼女がかわいくて、愛おしくて、手放したくなくて、やっぱりあの事を伝えるしかないなと思ったら、急に緊張してしまった。
そのまま抱いてしまいたい衝動を抑え、そっと唇を離せば、彼女が呟いた。
「…龍くん、どうしたの?」
「えっ?」
突然の問いかけに首を傾げれば、なんか、緊張してる…?と核心に迫られて、心臓がドキッと大きく鳴った。
「……奈々美ちゃん。話したい事があるんだ」
そこまで言って、俺は緊張で押し黙る。
もし断られたらどうしよう。もしこれが原因で別れ話になったら…。いや、マイナスに考えるのはやめよう。
そう思い直して再び口を開こうとしたタイミングで、奈々美ちゃんの目から涙が溢れた。
「えっ?!ど、どうしたの?!」
俺を見つめながら涙を流し続ける奈々美ちゃんに、酷く動揺する。
普段から明るくて、でも本当はとても穏やかで、芯が強い彼女。出会ってから俺が東京に出るまでの間も、泣いてる姿なんて一度も見た事がなかった。
涙の止め方が分からなくて、俺はただ抱きしめる事しかできない。
「ごっ、ごめんね?俺、何かしちゃったかな?」
無意識のうちに何かしてしまったんだろうか。記憶を辿るも見当がつかなかった。
「別れたく、ない」
小さいけれどはっきりと聞こえたその言葉を、えっ…?と聞き返す。だって、そんな。
「龍くんと、別れたくない」
そう言って俺の背中に回している腕の力を強めた奈々美ちゃんの言葉に、衝撃を受けた。
別れ話をされるとしたら、それは俺の方だと思っていたから。
ちゃんと言わなきゃ。彼女の肩をそっと掴み距離を取って、じっと見つめる。緊張で心臓が破裂しそうだし、気を張ってないと情けない顔になりそうだ。
「奈々美ちゃん」
「やだ、別れ話なら聞きたくない」
「違うんだ、別れる気なんてさらさらない。むしろ逆なんだ」
「……ぎゃ、く?」
俺の言葉に首を傾げた奈々美ちゃんの表情に少し安心して、指で彼女の涙を拭う。
いざ言葉にしようとすると、やっぱりこわい。目線を逸らしながら、あー…いや、あの…。と言葉にならない声をあげるも、未だに不安そうな奈々美ちゃんの表情を見たら、こわいなんて言っていられなくなった。
意を決したように頷き、俺は彼女の両手を握った。
「急にこんなこと言われても困るってわかってる。でも、俺は奈々美ちゃんの事が出会った時から変わらず大好きなんだ」
「龍くん…」
「もっと沢山会いたい。1年に1回なんかじゃ、全然足りない。だから、もし奈々美ちゃんも俺と同じ気持ちなら…一緒に、東京に来てほしい」
俺の言葉に、大きく目を見開いた奈々美ちゃんは混乱しているようで、瞬きを繰り返している。その姿が愛おしくて思わず笑みをこぼせば、奈々美ちゃんの目から再び涙が溢れた。
「えっ?!ご、ごめんね。俺またなんか…」
「…ううん。違う、安心しちゃって」
「不安にさせてごめんね…。俺もずっと不安だったんだ」
「龍くんも…?」
うん。と頷き、俺はここ数ヶ月考えていた事を全て話した。寂しい思いをさせてしまっているって自覚があった事、もし奈々美ちゃんがそれに耐えられなくて、他にいい人を見つけていたらどうしようと不安だった事。そんなんも全て。
話終わると同時に、奈々美ちゃんが今まで見た事ない、なんとも形容し難い表情を浮かべた。
「えっと…今どういう気持ち…?」
「龍くんが私の事考えてくれて嬉しい気持ちと、浮気してるかもって思われてて悲しい気持ちと、なんでもっと早く言ってくれなかったんだろうって、ほんのちょっとの怒りの気持ち」
そう言われて、確かにそれらの感情を混ぜたらこんな表情になるのかな。なんて、少し余裕のできた頭で考えた。
そんな事を考えているうちに、奈々美ちゃんはくるりと体を反転させて、俺の胸に寄りかかりながら話を始めた。
「…私が寂しいって言ったら、龍くんは無理してでも会いに来てくれるでしょう?」
「それは勿論…!」
「だから言わなかったの!仕事頑張って欲しかったし、負担になりたくなかったから。浮気なんて絶対しない。龍くん以外の男の人には興味ない。でも、私も心のどこかで龍くんと同じこと考えてた。他にいい人が居たらどうしようって。…だからすごく安心した」
「奈々美ちゃん…」
彼女の言葉に胸が高鳴って、抑えきれずに後ろから思い切り抱きしめれば、髪から覗いている耳が真っ赤な事に気がついた。その耳にそっと唇を落とせば、奈々美ちゃんがゆっくりと振り返った。
「私も変わらず大好きだよ!」
「…ありがとう」
「ふふっ!…あのね、実は私龍くんに黙ってたことがあるんだ」
「えっ…?」
そう言って俺から離れた奈々美ちゃんは、引き出しから何かを取り出して、じゃーん!と俺の目の前に掲げた。
「えっ…と…?」
「東京の会社に、内定もらったの!」
「って事は…」
「うん!卒業したら、東京行くよ」
黙っててごめんね。と笑った奈々美ちゃんを、力一杯抱きしめる。苦しいよ。と笑いながらも抱きしめ返してくれる彼女に、思わず安堵の息が出た。
奈々美ちゃんは、俺が東京に行ってからずっと、東京の会社で働く事を目標にしてきたらしい。テレビで龍くんが頑張ってる姿を見て、私も頑張ろうって思えたんだよ!と笑って話してくれた。
そんな奈々美ちゃんの言葉を聞いて、自分はなんて情けないんだと、ため息を吐く。
「なんでため息?」
「俺、年上なのに情けないなぁって思って…」
「そんな事ないよ!さっきの、プロポーズみたいでかっこよかったもん」
「ぷっ、プロポーズ?!」
そう言って笑っている奈々美ちゃんに俺は、それはまたいつか。と眉を下げながら返して、嬉しそうに弧を描いている唇をそっと指で撫でる。
そして、会えなかった時間を埋めるように、俺たちは何度も、何度もキスをした。
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