カミングアウト




今日は7人で雑誌の撮影だ。
今はナギくんが撮影中のため、他のメンバーは楽屋で各々の時間を過ごしている。そんな中、レギュラー番組の台本を片手に三月さんが、そういえば。と声をあげた。

「俺らの担当のヘアメイクさんが変わるって話、聞いたか?」

今の担当さん、辞めちゃうらしいぜ。と、話を続ける三月さんに対し、ふーん。と相槌を打ちながら、差し入れの王様プリンに手を伸ばす環くんに、僕は声をかける。

「環くんはヘアアレンジが多いから、特にお世話になるかもね」
「えー。俺、知らない奴に髪触られんの嫌」
「確かその方、前回の二階堂さんのドラマでも担当されていたと聞きましたが」

髪なんてこのまんまでいいし。とひとりごちる環くんを他所に、一織くんが大和さんに話を振るも、大和さんは何とも言えない表情を浮かべながら、頬を掻いている。

「えー、あー、まぁ、そうだな」
「なんだよ、あんまりいい思い出ないのか?」
「わかった!大和さん、その人に変な髪型にされたんだ!」

歯切れの悪い大和さんに、疑問を浮かべる三月さんと、どこか楽しそうな陸くん。大和さんはそんな陸くんに、リクはお兄さんのドラマちゃんと見てたのかー?なんて笑いながらも、環くんに目を向ける。

「いや、あのさぁ、タマ。新しいヘアメイクさんと知り合いじゃないんだよな?」
「は?なんで?」

怪訝そうな顔をする環くんに、大和さんは実はな、と話を続けた。大和さん曰く、ドラマの期間中頻繁に環くんの事を聞かれたそうだ。年齢や好きな食べ物に始まり、終いには連絡先を教えてほしいとさえ言われたとか。流石に大和さんも不審に思い、差し支えのない範囲の情報しか教えなかったようだが、ずっと疑問に思っていたらしい。

「はっ?!なにそれ、こわっ!」
「それって、環のファンって事?すごいじゃん、環!」
「あなた、何を呑気なことを言ってるんですか。一緒に仕事をした事のない人の連絡先を又聞きしようとするなんて、普通しないでしょう。それもスタッフさんが、堂々と仕事中に。もしもファンなら、配慮に欠けます」

四葉さんが無意識のうちに何かしたんじゃないですか?と続ける一織くんに、環くんの表情は強張った。

「何もしてねぇし!そもそも会ったこともねぇし!」
「まー、詳しくはわからないけど、とりあえず来週の収録、なるべく接触を控えた方がいいかもな。タマに心当たりがないなら尚更だ」
「はー?!マジ、こわすぎんだけど!そいつ名前は?俺ぜってー近付かない!」

そう鼻息を荒くしながら三月さんの台本を覗く環くんだが、この人だよ。と三月さんに教えてもらった瞬間、驚いた顔をしながら何かを呟いていた。三月さんがその言葉に反応し、やっぱ知り合いなのか?と声をかけるも、環くんは三月さんの問いを他所に、大和さんの元へ足を進めていた。

「なぁ、ヤマさんあのさ!」

環くんが大和さんに話しかけようと口を開いたと同時に、楽屋にノックの音が響く。どうやらユニット毎のインタビューと撮影に入るようで、スタッフさんに呼ばれたメンバーが移動を始める。大和さんも、また後でな。と環くんに声をかけながら、楽屋を後にした。


気付いたら、楽屋には僕と環くんの2人だけになっていて、何か話しかけようかと環くんに目を向けるも、環くんは難しい顔をしながら、三月さんの台本のスタッフ欄を見つめていた。僕はそんな環くんを不思議に思いながらも、鞄から音楽雑誌を取り出し、まだ読んでいないインタビュー記事に目を通す事にした。


しばらく沈黙が続いた後、僕を呼ぶ環くんの声が沈黙を破った。


「なー、そーちゃん」
「どうしたんだい?環くん」
「あのさ、みんなにはヒミツだけど。俺な、理以外にも探してる人がいんだ」

突然のカミングアウトに、一瞬固まる。環くんがアイドルを目指したのは生き別れになった妹の理ちゃんを探すためで、そんな彼女とは先日一応、再会を果たしている。(と言っても、問題は山積みだが…。)
そんな環くんが、他にも探してる人がいただなんて。

「えっ…?あ、そう、なのか…。えっと、理ちゃん以外にも兄弟が?」

驚きのあまり歯切れの悪い返答の僕に、そーちゃんうける。と言いながら環くんは自身の顎に手を添えて、んー。と何かを考え出した。

「兄弟じゃない。施設でいっつも一緒にいた、年上の女の子。今どこで何してるかもわかんないんだけど。でさ、そいつの名前"ナナミ"って言うんだけど」

そう言いながら環くんは台本を僕の方に向ける。彼が指をさしている箇所に目を向けて驚いた。

ヘアメイク 片瀬 奈々美

それってもしかして、僕たちの新しい担当の片瀬 奈々美さんが、環くんが探している"ナナミ"さんと同一人物で、彼女もきっと環くんを探してて、大和さんにいろいろ尋ねていた可能性が高いのでは?
そしてきっと環くんも、その可能性を感じている。

これってさ。と環くんが呟く。

「もし違ったらすっげーショックだけど。でも、もしそうだったらさ、運命ってやつかもな」

そう言った環くんの横顔は、なんだかとても嬉しそうだった。きっとそうだよ。と呟きながら、僕はそっと彼の前に王様プリンを差し出した。




真相を知るまで、あと数日。



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