ピアス




今日はお互い1日オフ。
奈々美の家でゆっくり過ごす、はずだった。


「いい?」
「う、うん…」
「じゃあ…1.2.さ」
「やっ!やっぱりちょっと待って!」

こわいー!と騒ぐ奈々美と、ピアッサーを片手に、またか。と苦笑いをするオレ。
そう、オレは今、奈々美のピアスを開けるため奮闘しているのである。


事の発端は、昼前に2人でのんびり起きて、のんびり食事を取りながら、テレビでやってる数年前の連ドラの再放送を観ていた時。何を思ったか奈々美が急に、私ピアスあけたいんだった!!と、ピアッサーを自室から引っ張り出してきたのだ。
しかし、いざ開けようとするも、ピアッサーを押し込む寸前に、こわい!と逃げ出す彼女。一瞬で終わるから!と宥めて再度試みるも、また逃げる。それを何度か繰り返し、今に至る。



「奈々美、こわいならもうやめよう?」
「うっ…。そうだよね。ごめんね、モモちゃん。怒らないで?」
「大丈夫、こんな事で怒ったりなんてしないよ!それはそうと、なんで急にピアス開けようと思ったの?」
「…あのね、モモちゃんも知ってると思うんだけど、あの2人付き合ってるでしょ?」

オレの素朴な疑問に、そっとテレビを指差す奈々美。確かに、今テレビに映ってる2人は、この連ドラをきっかけに交際を始めた、業界じゃ結構有名なカップルだ。結婚も秒読みなんて噂されている。
しかし、そんな2人がピアスとどう結びつくんだろうか?

「それでね、指輪は目立つけど、ピアスは髪で隠れたりするし、全然バレないんだよって教えてもらったの。ネックレスは今もうもらったのがあるし、ピアスはずっと開けてみたいなぁって思ってたから、いい機会かなって…」

頬を赤く染め、チラチラとオレを見ながら、やや早口でそういう奈々美。

「えっと、つまり…。オレとお揃いのピアスを付けたいってこと?」
「う…ん。そう、です」

更に赤くなった頬を両手で抑えながら俯く奈々美は、恥ずかしいのか、あーとか、うーとか、言いながらもごもごと何か呟いている。


確かに、関係を公表していないオレたちの様な芸能人同士ができる恋人らしい事と言えば、バレない程度のペアルックとか、オフの日にどちらかの家でゆっくりする事くらいだ。奈々美が言っていた通り、ネックレスは付き合い始めてすぐ、すれ違いの生活が続いた頃にプレゼントした。それを奈々美は今でも大事にしてくれていて、仕事の時も、服の中に隠しながらつけてくれているのを知っている。
それこそ、付き合って間もない頃はオフが被る度に、どこかに出かけようか?と誘っていたが、女優と違ってアイドルはみんなに夢を与える仕事だから!と、彼女は2人の関係を隠す事に徹底していた。
一緒に居られるだけで幸せだよ。と、多くを求めず、ただずっとそばにい続けてくれた奈々美。そんな彼女が、自分からこんな提案をしてくるなんて、思ってもみなかった。




「でも、やっぱりこわいね。また今度にしようかな」

うるさくしちゃってごめんね。と、罰が悪そうにピアッサーを片付けようと立ち上がる奈々美の腕を掴み、ソファに座らせた。そしてピアッサーを奪い取り、彼女の耳に通す。

「えっ?!もっ、モモちゃん?!」
「大丈夫、本当一瞬だから」

そう言いながらオレは一思いにピアッサーに力を込め、バチン!という音と共に溢れる奈々美の小さな悲鳴を、口付けで受け止めた。
そして、強張っている唇を舌でなぞり、僅かにできた隙間から舌を押し込む。
逃げる舌を絡め取り、奈々美の身体から僅かに力が抜けたその隙にもう一方の耳にもピアッサーを通した。ビクッと跳ねた彼女の肩を抱きながら、先程と同様にピアッサーに力を込める。

絡み合う舌の水音は脳内に、無機質な音は部屋に響き渡った。







暫く彼女を味わい、頃合いを見計らってチュッと音を立てながら唇を離せば、顔を赤く染め、肩で息をしながら涙目でオレを睨みつける奈々美と目が合う。

「くっ、苦しいしっ!まだ昼間だよ…!」

いきなりピアスを開けた事に対しての文句かと思えば、キスへの文句で思わず吹き出した。何笑ってんの?!なんて、頬を膨らませながら怒る彼女に、ほら見てごらん?と、鏡を手渡す。えっ?と、言いながら自分の耳を確認し、ピアスだぁ!と、嬉しそうに小さな石がついたファーストピアスを撫でる奈々美。
痛くなかったでしょ?と尋ねれば、それより恥ずかしかった。と、口を尖らせた。

「ピアス見る度に今日の事思い出しちゃいそう」
「それいいね。お揃いのピアスつけられない時でも、オレの事思い出せるじゃん」

もっと忘れられない日にしようか?なんて、奈々美の耳を触りながらにやりと笑えば、やっといつも通りの肌の色に戻った頬が、また赤く染まった。

そして奈々美の小さな呟きに、今度はオレの頬が熱を持つ。





「モモちゃんを忘れた事なんかないんだけどなぁ…」







その後、残っていたオフはベッドの上で過ごし、翌日奈々美は腰を抑えながら仕事へ向かった。



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