噂、そしてすれ違い




「あんた、6組の佐藤さんと付き合ってるの?」
「はぁ?」

佐藤さんと出会って数週間、つまり片瀬さんと会えない日々が続いているある日。
朝、学校に着くなり木下に言われた言葉に、オレは顔を顰めた。

「付き合ってないよ!」
「へー。噂になってるよ?あんたが奈々美から佐藤さんに乗り換えたって」
「なにその噂!」

そんな不名誉な噂が立っていたなんて、全く知らなかった。
というか、乗り換えたって何!佐藤さんとはたまに一緒にご飯食べるくらいだし、そもそもオレと片瀬さんはそういう関係じゃない。
そりゃ片瀬さんとは、他の人よりは少し仲が良いし、かわいいから一緒に居てドキッとする事は沢山あるし、独り占めしたいなって思ってるけど!!とにかく!

「事実無根!」
「はいはい。でもまー、なんでこのタイミングかね」
「どういう事?」
「だって…」
「おーい。ホームルーム始めるぞ。席に着け」

木下の言葉を遮るように、チャイムと共に先生が入ってきて、話は中断。
入学して以降なんやかんや近くの席だったオレと木下だったが、つい先日の席替えで席が離れてしまったのだ。
だから、この話の続きは聞けないままで、授業を受けているうちにオレもその事なんかすっかり忘れて、気が付いたら昼休みになっていた。


「百瀬くーん!」

お弁当の用意をしていると、教室のドアからオレの名前を呼ぶ女子の声が聞こえた。オレの事を下の名前で呼ぶ女子なんて居ないはずなのに。と不思議に思いながらドアへと目をやると、そこにはお弁当を片手にこちらに手を振っている佐藤さんが居た。
それと同時に、教室の至る所からコソコソと内緒話が始まって、途端に居心地が悪くなる。

「百瀬くん、今日一緒にお弁当食べない?」
「さ、佐藤さん!ちょっと…!」
「え?何?」

首を傾げる佐藤さんを押すように慌てて廊下に出たが、廊下でもこちらを見ながらコソコソと話してる生徒が沢山いた。
ゆっくり話せる場所と言えば、あそこしかない。
オレは佐藤さんの手を引いて、いつもの場所を目指す。その間も、すれ違う生徒たちはオレたちを見ながらコソコソと話していて、あー!もー!と叫びたい衝動に駆られた。


ようやくいつもの場所に到着したオレたちは、腰を下ろして、ため息を吐く。と言っても、ため息を着いたのはオレだけだけど。

「なんか、変な噂流れてるみたいだね…」
「変な噂?」
「オレと佐藤さんが、あのー…付き合ってるって」

歯切れの悪いオレに、佐藤さんはくすくすと笑ったあと、オレの腕に勢いよくぎゅっと抱きついてくる。

「ちょ…!」
「私は全然気にしないけど、百瀬くんは気にする?」
「そりゃ気にするよ!って言うか、いつの間にか名前呼びになってるし!」
「ダメ?」
「いや、別にダメじゃないけどさぁ…」
「春原くん?」

佐藤さんと話していると、確かに聞き覚えのある声がオレを呼んだ。勢いよく振り返れば、片瀬さんが立っていて、オレは慌てて佐藤さんの腕を振り解く。
立ち上がって片瀬さんの前に立つも、片瀬さんはそれに合わせて一歩遠退いた。

「片瀬さん…?」
「…久しぶり、元気そうでよかった。ラビチャの返事無かったから、心配しちゃった」
「え!ラビチャくれてた?ごめん気が付かなかった…!」

慌ててポケットに手を突っ込んでスマホを探すけれど、見当たらない。どうやら鞄に入れっぱなしのまま来てしまったようだ。
それを察した片瀬さんは眉を下げて笑ったあと、視線をオレの後ろ…佐藤さんに向けた。

「なんか、邪魔しちゃったみたいだね」
「いや!そんな事ないよ!あ、そうだ!片瀬さんも一緒に食べようよ!佐藤さんと同じクラスなんだよね?」

そう言って片瀬さんに一歩近付くも、先ほどと同じように、片瀬さんはオレから一歩遠退いた。

「ううん。大丈夫。この後、職員室行かなきゃだし」
「そっか…。明日は?学校来るなら一緒に」
「春原くん、ダメだよ。彼女が居るのに他の女の子口説いちゃ」

再び佐藤さんに目を向けた片瀬さんは、にこっと笑ってそう言った。

あれ…片瀬さん、今、演技してる。

確信は持てないけど、直感でそう思った。
なんだろう、このよそよそしい感じ…距離を置こうとしてる。そっか、片瀬さんはあの噂を聞いて、オレと佐藤さんが付き合ってるって思ってるんだ。
片瀬さんだけには、誤解して欲しくない。そう思うのに、なかなか言葉が出て来なくて情けなくなる。

「ちっ、違うよ!オレたち別にそういう関係じゃ…!」
「百瀬くんまだ〜?」

やっと出てきた言葉はちょっと上擦っていて、かっこ悪いったらありゃしない。
それよりも、オレの言葉を遮って再び腕に絡み付いてきた佐藤さんを、この時だけはほんの少しだけ、鬱陶しく思ってしまった。
それでも、無碍にするわけにもいかず戸惑っていると、片瀬さんは、じゃあね。と踵を返して階段を降り始めた。

「片瀬さん待って!」

追いかけようにも、腕に抱きついたままの佐藤さんがそれを阻む。片瀬さんはちらりともこちらを見ずに階段を降りきり、そのまま職員室へと続く廊下へと足を進め、しばらくすると完全に姿が見えなくなってしまった。

「片瀬さん…」

ため息まじりに呟きながら肩を落としたオレの隣で、佐藤さんが笑っていたなんて、この時のオレには知る由もなかった。



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