大好きな君と@
朝6時、この時期の6時はまだ暗くて肌寒い。
あくびを押し殺しながら、寒がりの奈々美のために一足先に車に乗り込み、暖房で車内を暖めておく。
そろそろ来るかな?と駐車場の入り口に目を向ければ、小走りでこちらにやってくる奈々美が見えた。その勢いのまま車のドアを開けて、助手席に乗り込んだ奈々美は、はぁ〜。と息を吐く。
「あったかい〜」
「ははっ!奈々美おばあちゃんみたい!」
オレの言葉に、失礼な!と頬を膨らませながらオレの腕ををつついた奈々美。その可愛らしい様子に、ごめんごめん。と笑えば、それにつられて彼女も笑った。
「シートベルトした?」
「した!」
「よーし!それじゃあ、しゅっぱーつ!」
その掛け声に続けて、しゅっぱーつ!と楽しそうに笑っている奈々美に、今度はオレがつられる番だった。
今日はオレの誕生日。去年は番組の収録があったけど今年は1日オフで、なんと奇跡的に奈々美もオフ。
それを知ったオレたちは、各々マネージャーに頼み込んで、もう1日オフをもらった。こうして2日間のオフを得たオレたちは、1泊2日の小旅行をする事にしたのだ。
「道、混んでないといいね」
「平日だから大丈夫じゃないかな?奈々美となら渋滞もへっちゃらだけど!」
「私も!モモちゃんとならへっちゃら!」
まるで子どものようにはしゃいでいる奈々美は、今日も可愛い。それに、奈々美がオレと一緒に旅行に行ってくれるなんて、少し前までは考えられなかった事だからめちゃくちゃ嬉しい。
助手席にちらっと目をやれば、昨晩のうちに買っておいたお気に入りのパンを頬張っている奈々美。そしてパンを片手に、付箋だらけのガイドブックを眺めていて、思わず声を上げて笑ってしまう。
「何笑ってるの?」
「なんでもない!」
「えー!気になる!もしかして食べカスついてる?!」
「大丈夫、ついてないよ」
じゃあ何で笑ってんの?と拗ねたように唇を尖らせる奈々美に、奈々美がかわいいからだよ。なんて返せば、車内にはエンジン音だけが響き渡った。
「あれ?静かになった」
「…奈々美は寝ました」
「寝ちゃったかー!」
赤く染まった頬を両手で隠しながら目を瞑っている奈々美の言葉に、オーバーリアクションを取れば、我慢できなかったのか、寝たはずの奈々美がくすくすと声を上げて笑い始める。
「楽しいなぁ」
「まだ出発したばっかりなのにね!」
「ね!モモちゃんも楽しい?」
「勿論楽しいよ!」
オレの言葉に安心したように笑った奈々美は、よかった。と呟いたあと、再びパンを頬張り始めたのだった。
平日だからと甘く見ていた。
首都高はいつもより混んでいて、フラグ回収よろしく、オレたちは今渋滞にハマっていた。ラジオの情報ではどうやら事故渋滞のようだ。思わず吐いたため息に、奈々美が声を上げる。
「大丈夫?」
「ごめん、大丈夫だよ!」
「そう…。あ!モモちゃん、しりとりしよ!」
「え?あ、そうだね!しりとり!」
奈々美は最近しりとりが好きらしく、暇な時やたらと勝負を仕掛けてくる。
元々頭がいいからボキャブラリーがすごくて、毎回なにその言葉!!ってのを出してくるから、そういう意味でオレも楽しんでる。
「今日はモモちゃんの誕生日だから、私はモモちゃんの好きなところいっぱい言うね!」
「えっ!?何それ!嬉しすぎて事故っちゃう!!」
「安全運転でお願いします!」
くすくすと笑いながらも、じゃあ私からね。と、しりとりを始める奈々美。何を言ってるくれるのかなと少しドキドキしていたのに、普通に『りんご』から始まって、またオーバーリアクションをしてしまう。
「りんごなの?!オレの好きなところは?!」
「小出しにするの」
「な、なるほど…!じゃあ、ごりら!」
「らっぱ!」
「ぱせり!」
りす、すいか、からす…その後もいつもと変わらないしりとりが続く。あれ、オレの好きなところは?と、そわそわしているのがバレたのか、奈々美がぷっと吹き出した。
「モモちゃん、そわそわしすぎだよ」
「だって!言って欲しいんだもん!」
「ふふっ!じゃあ言ってあげる!えっと、モモちゃんなんって言ったっけ?」
「ねこ」
「こ、ね!えっと、こどもみたいでかわいい!」
「それって褒めてる?!」
「褒めてるよ?」
ほら、モモちゃんの番だよ。とオレを促す奈々美にオレは、ん〜。と悩んだふりをしたあとこう返した。
「いつもかわいい!」
「え?」
「オレも奈々美の好きなところは言おうかなって!」
「えー!照れちゃうよ」
「照れてる奈々美も、超かわいくて好きだから大丈夫!」
オレの言葉に再び頬を染めた奈々美は、頬を押さえたまましりとりを続ける。
「えっとじゃあ、いつもかっこいい…」
「本当に?!どんなところがかっこいい?って言うか、奈々美はオレのどんなところが好きなの?」
「えっ?!そういうゲームじゃないよ」
「いいじゃん!教えてよ。オレ、今日誕生日だし!ね?」
小さくて頷いた奈々美を見ながら、誕生日という魔法の言葉を使えば、今日一日奈々美はオレの言うこと何でも聞いてくれるんじゃないかなんて、ちょっと邪な気持ちが生まれたけど、それはまた後でのお楽しみにしようと思う。
「見た目は勿論だけど、お仕事いつも頑張ってるところとか」
「うんうん」
「後輩想いなところとか、面倒見がいいところも」
「あとは?」
「え?あとはね、いつも私を元気付けてくれるところも好き。モモちゃんが居なかったら、今の私は居ないから。でも1番はね、私の事を好きって言ってくれる事かな」
「奈々美…」
まさかこんなに真剣に返してくれるとは思ってなかったという驚きと、胸にじーんとくる奈々美の言葉に呆然としていると、奈々美の大きな目がオレの目をじっと見つめた。
「モモちゃん、私を好きになってくれてありがとう!」
そう言って微笑んだ奈々美に、なんだか今までのいろんなことを思い出して涙が出そうになった。車じゃなかったら今すぐ奈々美の腕を引いて、力一杯抱きしめるのに。
「そんな!オレのセリフだよ!」
「モモちゃんに出会えた私は世界一幸せものだよ!」
「あ〜!もう、本当に!何で今車なんだろ!奈々美がこんなにかわいいこと言ってくれてるのに、ハグもキスもできないなんて〜!!」
も〜!とハンドルに両腕を預けて首を垂れたオレを他所に、くすくすとかわいい笑い声が聞こえてくる。
「ホテル着いたら、ハグもキスも沢山してあげる」
「え?!奈々美からしてくれるの?!」
「うん!誕生日だから!」
飛び切りの笑顔を向けてくれた奈々美に、こんな事を言うのは忍びないけれど、ここは男として、あえて言わせてもらいたい。
「ちなみに、それ以上は…?」
え?!と慌て始めた奈々美は、しばらく沈黙したあと、車が動き出すと同時に呟いた。
「…考えておきます」
「よろしくお願いします!」
オレの返事に小さく笑ったあと、奈々美は何かを思い出したかのように、あ!と声を上げ、オレを見た。
「モモちゃん!」
「ん?」
「誕生日おめでとう!昨日早く寝ちゃったからまだ言えてなかった!」
「はっ、そう言えばそうだった!ありがとう!奈々美と一緒に過ごせて超ハッピーだよ!」
再び車が止まったタイミングで、彼女の目を見ながらそう言えば、今日何度目かの笑顔の花が咲く。
幸せだなぁ…。心の中で呟いたはずの言葉が、車内に響いた。
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