月が綺麗ですね




「月が綺麗だね」

夜、駅までの道をななみんと歩いてたら、急にそう言われた。あー確かに。と返せば、やっぱり伝わらないか。って、小さく笑われた。
なんで笑ったのかも、何が伝わらないのかもわかんないけど、聞いても教えてくれなかったから俺も、月よりななみん方が綺麗なのに。って言葉を飲み込んだ。



次の日、学校の授業で夏目そーせき?が、I love you.を『月が綺麗ですね』と訳した、らしい。って話を聞いた。気になって、それにはなんて返事するの?って先生に聞いたら、自分で調べてごらんって言われたから、学校が終わって寮に帰ったら、そーちゃんに聞こうと思った。
帰り道でいおりんに、四葉さんが質問するなんて珍しいですね。なんて言われた。



「なあ、そーちゃん。月が綺麗ですね。って言われたら、なんて返すの?」
「夏目漱石の逸話の?どんな言葉でも素敵だけれど、定番の返しとしては、死んでもいいわ。かな」

寮に帰って早速そーちゃんに聞いた。死んでもいいわ。なんて、こえーじゃん…って思ったけど、どっちの言葉も、日本人のおくゆかしさ?が出てるらしい。
なんかよくわからないけど、俺が言ったらななみんは何て言ってくれるんだろうって、少し気になった。




それからしばらく、ななみんと一緒の仕事がなくて、ようやく会えたのは最後に会ったあの日から、1ヶ月くらい経ってからだった。
あの日と同じように駅までの道を2人で歩く。


「ななみん、何してたの?忙しかった?」
「海外のロケについて行ってたの」
「へー、いいなぁ」
「いろんなところ行ったんだよ。あ、お土産あるから、今度持ってくるね」

今日忘れちゃった。と笑っているななみんに、楽しみにしてる!と言ってふと空を見上げると、大きな月が出てた。そう言えばちょっと忘れてたけど、あれ言ってみようかな。


「なぁ、ななみん」
「ん?」
「その…月が綺麗、ですね」


ちょっと緊張してつっかえちゃったけど、伝わったみたいで、ななみんはちょっとびっくりしてる。
それからほっぺをちょっと赤くしながら、え?私のマネ?やめてよー!なんて言って先に歩いてくから、そうじゃねえじゃん!って、ななみんの腕を掴んで引き留めて、振り返ったななみんの耳元でこう言った。




「死んでもいいわ。って、言ってくんねぇの?」



back


novel top/site top