間接的に愛を伝える




「オレ車置いてくるから、先行ってて!三月は前来たから、わかるよね?」

玄関の鍵開けといてね!とモモさんからキーケースを手渡される。
ついさっき、仕事後にたまたまテレビ局内で会ったオレと百さん。話をしているうちに、お互い明日がオフだということがわかったオレ達は、その後十さんにも連絡した。
間も無く、明日は午後入りで余裕がありますよ。と返事が来たため、百さんの車で迎えに行き、急遽百さんの家で飲み会をすることになったのだった。

いわゆる運動部飲みってやつだ。



「じゃ、先行ってましょうか」
「そうだね。それにしても、すごいなぁ。セキュリティが万全なマンションだ」

さすがトップアイドルって感じですよね。なんて言いながら、オレと十さんは百さんの部屋を目指す。
その間、持ってきたお酒やおつまみの話で盛り上がったり、最近はあそこのお店が美味しかったとか、そんな情報交換をしていたら、あっという間に百さんの部屋に着いた。
ここですよ。と、鍵を回してドアを開ける。おじゃましまーす。と、玄関へ足を進めれば、まず目に着いたのは謎の魚拓だったが、それよりも着いたままの電気と、かすか聞こえるテレビの音が気になった。

「着けっぱなしで出ちゃったんですかね?」
「俺もたまにやるよ、お風呂の給湯器の電源とかさ…。寮だとどうなの?」
「あー…うちんとこは、オレもですけど、一織が特に戸締りとか火の元とか電気とか、そういうの厳しいんですよね」
「ははっ、想像できるなぁ」

そんな他愛もない話をしながら、靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
大きなテレビにはRe:valeのライブ映像が流れていた。
そしてテレビの前のこれまた大きなソファの上に、横になっている人影が見えた。

「十さん、ソファに誰か寝てません…?」

小声でそう尋ねると、ほんとだ…!と、驚いた表情で呟く十さん。オレ達は顔を見合わせ頷き、ソファへと恐る恐る近づく。



「えぇ?!」
「ちょっ、三月くん…!」


そこに寝ていたのは予想外の人物で、思わず声を上げる俺と、慌ててそれを止める十さん。そう、百さんの家のソファで、気持ちよさそうに寝ていたのは、あの片瀬奈々美さんだったのだ。
彼女は大きめのスウェットに身を包み、すやすやと眠っていたが、オレ達の声に眉を潜め、目を擦りながらゆっくりと起き上がった。
オレ達を見るその目はぼーっとしていて、焦点が合っていない。そして

「……モモちゃん?」

と、呟きながらソファの傍に膝立ちしていたオレに、抱きついてきたのだ。
あ…なんかいい匂いがする…。じゃなくて!なんだよこの状況!!と、若干パニックになりながら、隣に立つ十さんに助けを求めるも、顔を赤くして目を泳がせているだけだ。
そういえばこの人、エロエロビーストとか言われてるけどめっちゃ純粋なんだった…と、思い返す。なんでもいいから早くどうにかしてくれ…!なんて思っていると、彼女がオレの首元に顔を埋め、すんっと鼻を鳴らした。


「…モモちゃん、香水変えたの?」

いつもと違うねぇ。と言いながらも、顔を離さない奈々美さん。匂いを嗅がれた羞恥でオレの身体は、体温がMAXまで上昇し、その後心臓以外の機能が停止した。
三月くん大丈夫?!なんて言い、顔を赤くしながら慌てる十さん。
聞きたいことも山ほどあるし、とりあえずモモさん早く帰ってきてくれ〜!と心の中で叫ぶ。
するとオレの願いが通じたのか、ようやくモモさんが帰ってきた。


「ただいま〜。って、あれ?二人とも何してん…」

の?と、言いかけたモモさんは、どうやら一瞬で状況を理解したようだ。
光の速さでオレにひっついてる奈々美さんを抱きかかえ、寝室へと向かい、数十秒後、滝のような汗をかきながら、さて飲もうか!と、さも何事もなかったかのように仕切り直した。

「いや、あの、百さん…」
「えっ?!ど、どうしたの?三月」
「いや、どうしたもこうしたも…」
「百さん、あの、単刀直入に聞きます!片瀬さんと、その、お、お付き合い、されてるんですか?」

しらばっくれようとする百さんに、すかさず質問をする十さん。え、えっと…と、視線を泳がせる百さんを、オレは未だに熱を持つ顔を手で仰ぎながら、じと目で見つめる。
その視線に、堪忍したのか、ゔっ…と言いながら床に崩れ落ちた百さんは、項垂れながら小さく呟いた。




「付き合ってます…」








−−−−





「も〜!ほんっとに!その頃から、奈々美は超かわいいの!!」

百さんの暴露から数分後、俺達の前には珍しく酒に飲まれている百さんがいた。恐らく、シラフではこの場をやり過ごせないと感じたのだろう。
いつもよりかなり早いペースで飲み進めた百さんは、タガが外れたように、大きな声で片瀬さんの話をしてくれる。

「へぇ〜。じゃあ、百さん達は高校時代から付き合ってるんですか」
「いや〜!付き合ったのは3年前!」
「え?そうなんですか?てっきり高校生の時からかと…」
「ん〜…まぁ、お互いに色々あったしねぇ〜…。でも、高校の時から奈々美は、オレの事超好きだったんだよ!」

オレも超好きだったけどね!と続ける百さんは、その後も片瀬さんの好きなものや、得意料理の話、彼女は一回起きると寝付きが悪い話などしてくれた。
その中で、本当は全然クールなんかじゃないんだよ。という話は少し自分に重なる部分を感じた。
俺にも素を見せられる場所があるように、片瀬さんにとっては、それが百さんの隣なんだろうな。と考えたら、2人にはずっと仲良くいて欲しいな…なんてしみじみ思ってしまう。


その後、潰れるまで飲んだ俺たちは、リビングで雑魚寝をしてしまった。





寒さに震えることはなく、迎えた朝。
それぞれにかけられた厚手の毛布と、低めの温度に設定された床暖房が、俺たちを寒さから守ってくれていた。
今何時だろう…と、状態を起こし辺りを見渡すと、三月くんはまだ寝ていたが、百さんの姿が見えなかった。とりあえずトイレに…と、廊下への扉に手をかけたところで、玄関からの話し声に気付く。

「昨日はごめんね」
「大丈夫だよ、私も連絡してなかったし…」

百さんと片瀬さんだ。
盗み聞きはよくないぞ!と言い聞かせながらも、気になってしまうのが人間の性…。
俺はそのまま扉付近の壁に寄りかかり、2人の会話を聞くことにした。



「私、モモちゃんが帰ってきたの覚えてなくて…気付いたらベッドだったから…。その……、2人にバレちゃった…よね?」

ごめんね、と呟く片瀬さんの声は少し震えていて、ズッと鼻を啜る音も一緒に聞こえ、俺はドキッとした。
そうだ、この業界、どこから情報が漏れるかわからないんだ。不安になっても仕方ない。
俺たちはそんな事しませんよ!と、2人の会話に割って入りたかったが、そんな事は出来ず、もどかしい気持ちでいっぱいになる。

「大丈夫だよ。龍も三月も、モモちゃんの友達だよ?簡単に他の人に言わないって」

ね、だから泣かないで?

そう言う百さんの声色は、今まで聞いた事ないくらい優しくて、あぁ、この人は本当に彼女の事を大切にしてるんだな。と思った。
ありがとう。と、片瀬さんの笑い声が聞こえ、俺は安堵のため息を吐く。

「でも、恥ずかしいから私の話はもうしないでね!それから、あの…」
「ん?なぁに?」
「わ、私も!ずっとモモちゃんの隣に居たい、です…。えっと、じゃあ!いってきます!また連絡するね!」

と、後半早口で言い切った片瀬さんと、そんな彼女を、気を付けてね〜と、楽しそうな声色で見送った百さん。
俺は話の展開がいまいちわからず、頭に疑問符を浮かべていたが、リビングへ戻ってくる足音に、慌てて元いた場所へ戻り、寝たフリをした。
どうやら百さんは、そのままキッチンへと向かい、IHのスイッチを入れたようだ。ピピッという機械音が静かな部屋に響く。

「龍もいる?」

不意にかけられた声に、肩が跳ねる。
バレてたか…と、頭をかきながら起き上がり、キッチンへと足を向ける。


「すみません、聞くつもりはなかったんですけど…」
「ん?あぁ、大丈夫。奈々美は気付いてなかったし」

と、食器棚からお椀を出す百さん。
お椀?と思い、キッチンへ目を向けるとIHの上では、片手鍋が温められていた。そして、温められたことにより、食欲をそそられる香り。

「もしかして、味噌汁ですか?」
「そ、奈々美が作ってくれたんだって」

できた子でしょ?と楽しそうに笑う百さんに、昨日の会話を思い出す。



−−−


『飲んだ次の日って、お味噌汁飲みたくなるよね!俺、奈々美の作るお味噌汁が大好きでさ〜!毎日作ってもらうのが夢なんだよね!』
『いいですよね。俺、人の作る味噌汁なんて久しく飲んでないです』
『っていうか百さんのそれ、なんだか一昔前のプロポーズみたいですね!』
『あはは!奈々美には、もっとストレートに言うけどね!まぁ、結婚できなくても、隣に居てくれるだけで幸せだけど!』


−−−


そして、先ほどの片瀬さんの言葉。


−−−


『でも、恥ずかしいから私の話はもうしないでね!』

『わ、私も!ずっとモモちゃんの隣に居たい、です…。』


−−−


すべてを理解した俺は、片瀬さんが置かれていた状況を想像し、他人事にも関わらず、自身の顔に熱が集中するのを感じた。

「も、百さんって、策士ですよね」
「え?なんのこと?オレ達はちょーっと大きい声で、奈々美のこと話してただけじゃん?まぁ、昨日も話したけど、あの子一回起きちゃうと寝付きが悪いからさ。


起きてたかもしれないけどね」




そう言う百さんの顔は実に楽しそうだった。






諸々の衝撃で、今日の午後は片瀬さんと一緒の現場だった事をすっかり忘れていた俺は、一方的な気まずさを抱きながら、仕事に励むのだった。



back


novel top/site top