なんだかんだでやっぱ好き!




「え?!待って?!次の握手会、1人1枠しか申し込めないうえに、本人確認あるとか聞いてないんだけど!!」

2限目が終わって、カフェテリアで友達とだべってた時、Re:valeの公式からの発表に思わず声をあげてしまった。

「いや、それな。まじRe:valeも大きくなったよね〜。箱通ってた時が懐かしいわ」
「でた、古参の千ファンのマウント。ってか、えー…どうしよう。今までループして喋りたいこと分けて喋ってたのに、1回とか…何も伝えられん」
「しかも今回からプレゼントはBOXに入れるとか、手渡しできないプレゼントに人権ない」
「そもそもプレには人権ない」

それな!と笑っている友達は放っておいて、改めて次の握手会の概要を見る。何度読んでも1名義1回しか申し込めないって書いてあるし、当日本人確認するって書いてある。

「やばい、モチベ下がった」
「まぁまぁ。冷静に考えて、会えるだけマシじゃん?万みたいに急に居なくなるより」
「…まぁ、そうなんだけど」
「っていうか、あんたが百くん推す!って言い始めた時まじびびったからね。万の代わりとかありえない!って言ってたのに」

私と友人は所謂古参で、Re:valeが今のRe:valeになる前からずっと好き。
そして私は元々、万が大好きだった。
だから万の代わりに百くんが千と組んで、名前も変えずにRe:valeとして活動する事に、初めは憤りを感じていたのだ。
しかし、どんなに他のアイドルに乗り換えようとしても、結局はRe:vale以外を好きになれなかった。
最初こそ、万の代わりはいないと嘆いていたけれど、けじめをつけるために観に行った新Re:valeのライブで、百くんは『万の代わり』何かじゃなくて、『Re:valeの百』としてそこにいた。
そしてそんな彼を見た瞬間に、それまで感じていたいろんな感情が弾け飛んだ。
それ以来、私はすっかり百くんのファンになってしまい、今となってはRe:valeを守ってくれた百くんに感謝しかない。

「まぁ、とりあえずいつもの美容院予約しとこうかな〜。奈々美はどうする?」
「んー…もうちょい悩む」

しかし、どんなにRe:valeの事が、そして百くんの事が好きでも、モチベが下りに下がってしまった今の私には何も考えられず…。
その後も、あの時のハイタッチ会は良かったとか、壁ドン会またやってほしい!とか、ため息まじりにいろいろ話しながら、心の中ではそろそろ潮時なのかな。とほんのちょっとだけ、心が冷めていくのを感じた。



そして迎えた握手会当日。
当日の朝になってもモチベはあがらず。とりあえずで予約した美容院で、想像以上に可愛くアレンジしてもらえてなんとかちょっとだけモチベアップ。
でも会場着いて、イキってる新規ファンに萎えてまたモチベダウン。って、いやいや私情緒不安定すぎじゃん。

「はぁ…なんか帰りたくなってきた」

そんな私の呟きに友達は、何言ってんの?!とめくじらを立てた。

「百くんに会ったら絶対、あー!馬鹿なこと考えてた!ってなるんだから」
「そうなんだけど〜…」
「うじうじしすぎ!あっ!私呼ばれたから列並ぶわ。じゃあね!終わったらラビチャするから!」

手を振って駆け足で待機列に並んだ友達の後ろ姿を見て、ついため息が出る。
何でいつもあんなに前向きで居られるんだろう。でもまぁ、あの千のファンだし、ハート強くなきゃやってけないのかも。
そんな事を考えていたら、いつの間にか時間になっていたようで、スタッフさんに整理番号を呼ばれてた私は、重い腰を上げて待機列に並んだのだった。


モチベは下がりっぱなしなのに、鏡を見ながら何度も前髪を直したり、リップが落ちてないか確認したり、すっかりいつもの感じになってる自分に呆れてしまう。
スタッフに当選メールと身分証明書を渡して、あー…今後はこれが普通になるのか。みんな頑張ってね。Re:valeを頼んだよ。なんて、まるで自分はもうその輪から抜けた人のような感想を抱く。

そして私は決意した。
今日でもう最後にしよう。これからはライトなファンとしてRe:valeを応援しよう、と。

そう決めたら途端に緊張してきてしまった。
ドキドキと早鳴る心臓を落ち着かせようと、再び前髪を直す。
前にはあと3人…2人…1人…あれ、今日なんかいつもより時間長くない?

「次の方どうぞ」

スタッフさんに呼ばれ、パーテーションから顔を覗かせれば、そこには大好きな百くんが居て、あー…この光景見るのも今日で最後か。なんて、1人感傷的になる。すると、あ!という百くんの元気な声が鼓膜を震わせた。


「今日いつもと髪型違くない?!」
「えっ?!」
「いつものも好きだけど、今日のも超キュート!」

服も可愛い!そう言ってこちらに手を伸ばしてくれる百くんに、えっ?えっ?と戸惑いながら手を伸ばせば、いつもより強く、両手でぎゅっと握手をしてくれる。

「何?今日ちょっと元気ない?」
「何でわかるの?!」
「わかるよー!だって奈々美ちゃん、いつも会いに来てくれる時、ハッピーオーラ全開なのに、今日は何だかブルーって感じだもん!」

なんかあった?と首を傾げる百くんに、自然と涙が溢れた。
いつもと違う髪型に気が付いてくれたのも、服をかわいいって言ってもらえたのも、名前を覚えててくれたのも、全部全部嬉しいけど、何より嬉しいのはただの1ファンの、こんな面倒くさい私の事を、気にかけてくれる優しさが嬉しかった。

「ええ?!大丈夫?!ちょっ、おかりんティッシュ〜!」

おかりんと呼ばれた人から差し出されたティッシュを私に手渡してくれた百くんは、めちゃくちゃ心配そうに私を見てて、申し訳なくなる。

「百くんごめんね」
「なにが?大丈夫だよ!ほら、折角のメイクが落ちちゃうよ!笑って笑って!」

百くんのその言葉に無理矢理笑おうとするも、うまく笑えない。今の私はきっとめちゃくちゃ不細工なんだろうな。

「ちょっと気持ちが沈んでて」
「うん」
「あー、もうダメかもって思ってたの」
「そっか…そういう時もあるよね。わかるよ。…でも!悲しい事があっても、笑ってれば案外うまくいくもんだよ!だから笑おう!今日は特別にモモちゃんが変な顔してあげちゃう!これから悲しい時は、これ思い出して!」

そう言って両頬をびよーんと左右にひっぱる百くんに、自然と笑い声が漏れる。
あぁ。やっぱり好きだな。
私の笑顔を見てほっとしたような顔になった百くんに、ありがとう。と告げると同時に、あと10秒です。とスタッフさんに声をかけられる。

「百くんに話したい事沢山あったけど、忘れちゃったから」
「うん」
「また会いに来る!」
「うん、ありがとう。また絶対会えるように、モモちゃん頑張るから!だからその時は、絶対また会いに来てね?」

約束!と私の小指に百くんの指が絡む。
そしてそれと同時に、終了です。の声と、アラームの音がブースに響いた。
ばいばい。と手を振る私に、またね!と返してくれる百くん。いつもより全然話せなかったけど、今までで一番の握手会だったな。そんな清々しい気持ちで私は会場を後にした。



友達は、会場を出てすぐ近くの花壇に座っていた。私に気が付いた友達は、おつ。なんて言いながら手を振ってから、なぜかドヤ顔で尋ねてくる。

「で?どうでした?」
「…正直、もう今日で現場は最後にしようって思ってたけど」
「ど〜?」
「百くんと約束したから、また会いに来るわ!」

すっかりいつもの調子に戻った私を友達は、約束したとかマウントかよー!なんて笑いながら、ぎゅっと抱きしめてくれた。


後から聞いた話によると、今回の握手会は1人1回しか会えない代わりに、1人にかける時間を長くしてくれたらしい。
どんなに人気になっても、国民的アイドルと呼ばれるようになっても、ファンを大事にしてくれる彼らを、一生推すと決めた日だった。



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